第一章_6話
俺たちは、この約1年半
お互いのことを少しずつ理解していった。
ノアは赤ベリィの飲み物が好きなこと。
ベリィを蜜蜂のハニーと煮込んだジャムを
入れて焼いたタルトが好きなこと。
少し頑固で、意外とわがままで、たまに泣き虫なこと。
冬の生まれで、14歳になったこと。
俺は苦味のあるグレイハーブのグレーティーが
好きなこと。
ノアと俺で作る、ブラウンパンをくり抜いた中に
キノコが沢山入ったシチューをいれたものが
好きなこと。
料理が意外と好きになったこと。
喋るのは苦手だが、ノアは俺の少しの表情の違いを
見分けるのが得意になってきてくれたこと。
俺の生まれは秋で、22歳になったこと。
そして、いつも
目が合えばノアはニコっと
微笑み笑いかけてくれること。
思えば、里を"出ざるを得なかった"
15歳頃から日陰でで生きてきた
俺にこんなに穏やかな時間が訪れるとは
思わなかった。
その微笑みにどれだけ救われているか
ノアはまだ気づいていないだろう。
ーーここ1年半で起きた変化といえば、
俺の鍛錬に、ノアが加わったことだ。
ノアの"師匠"が残した魔術書から
魔術を洗練させられるよう練習している。
驚いたのは、"依代"としての恩恵か
ノアの魔術力は
通常魔術師の恐らく10倍以上はあることだった。
俺も黒魔を使役する力をもつノワール族だが、
黒魔の影を実体化させたり、剣や装備に黒魔の力を
まとわせ強化する程度しか使用ができない。
あまりに大きな力を使えば生命を吸われるからだ。
そもそも俺にはあまり魔力なるものがない。
ノアは魔力のリミッターが常人とは
かけ離れているようだ。
なぜなら初めてきちんと魔術を見せてもらった時、
手から呼び出す背中の刻印に似た紋章から
放たれた黒い光は、森の一角を吹き飛ばした。
(運良く決壊範囲内だったようだ)
あの自分でも驚いたノアの顔は忘れられない。
ひっそりと生きるため魔術を
あまり使ってこなかったようだ。
「師匠に教わってきたけど…
なるべく、誰も傷つけたくないから
使ってこなかったの…でもこれ、危ないね」
「…とはいえ、コントロールできずにいる方が危ない。精度を上げることが必要だろう」
「うぅぅ… それが難しいのにぃ…」
泣きごとを言いながらも、
今日も魔術鍛錬をしているようだ。
「あぁーやっぱり毎回怖いな。
クレナイはいつも鍛錬に厳しいし…
魔術… 使わないんじゃ…ダメ?」
「わがまま言うな。
身体はでかくなっても子供のままだな、チビ」
「なにをー!クレナイがデカすぎるの!
もうチビじゃない!!」
確かにノアは急速に成長し身長が伸び、
185cm程度の俺とは30cm程度の差になったが
子供扱いされると頬を赤くして怒る。
不思議なのは、怒りながらも
いつも少し楽しそうなことだ。
こんなに人と長く居ることは今までなかった。
俺は少し…ふぬけたのか、
自分でも何か緊張の糸がやわらかくなったように思う。
「うぅ、わかったよ〜…
とりあえず飲み物作り直してくる!」
「あぁ、ありがとう」
そう言ってノアは小屋の方へ向かい出した。
ーーその時。
ふいに、急に森の静寂が止んだ。
鳥が一斉に飛び立ち、獣たちが逃げ惑うように
ガサガサと草を揺らした。森がざわめきだした。
「クレナイ!!!!!」
慌ててノアが戻ってきた。
「おかしい、おかしいよ!!
いつもより気配がすごく多いの
これは…もしかしたら師匠の目眩しの
結界が破れたのかもしれない」
「誰かが入ってきたのか??
誰にも感知されず入れないはずだろう?」
「そのはず、なんだけど…
師匠がいなくなったことで力が弱くなったのかな
でも、詳しくはわからないの。
師匠にしか使えなかった、私はできなかったし
わからない、確かに私達は行き来できるけど
目眩しの強力な結界だって聞いてるのに」
「落ち着け、まだそうと決まったわけじゃない」
ーーーその瞬間。
森の奥から馬の足音を鳴らしながら、
白い甲冑をきた男達がー10人くらいだろうか。
森奥から集団で現れた。
「……!!!!!!クレナイ、あれ…!!」
ーーー見つかったーーー
咄嗟にそう思った。
「ノア、早く」
ノアはすぐに俺の左後ろに駆け寄り、
小刻みに肩を震わせていた。
俺は、鍛錬用の木剣を強く握りしめた。




