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ノアの生贄  作者: 清田ココ


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3/9

第1章_2話


ーーあれから5日が経った。


ノアの治療のおかげで俺はだいぶ回復し、

起き上がることができるようになり、

多少の家事も手伝うことができるようになった。


「クレナイの漆黒石みたいなこの髪って綺麗だね〜

 紅目もレッドムーンみたい!!

 洗ったらこんなに黒く綺麗なんだもん、

 木屑がつかないようにちゃんと髪まとめてあげるね」


半ば無理やり洗われた俺の長髪を、

ノアはたのしそうに編んで革紐でまとめている。


「私は肩までの長さだからなぁ〜髪いじれるのって

 結構楽しいんだよ〜っ」


「・・・・・・そうか」


ノアはあいも変わらず俺に話しかけ、

楽しそうににこやかにしている。


俺の髪をまとめ終わったノアは山菜集めにでかけ、

俺は、ノアの師匠が作ったのだという、白い胸元に紐付きの肌着と

黒い作業用のズボンを包帯の上から身に纏い、薪割を始めた。


3日以降くらいから感覚が戻ってきて気付いたが、

この木製の小屋の場所はどうやらある程度標高が高い山元にあり、

陽が低く寒いこの季節では、薪木集めや火を絶やさないように

管理をすることが大事なようで、今の俺の簡単な家事仕事となっている。


家事といえば、俺を助けたこの少女「ノア」は

どうやら一人で1年近く暮らしており、ノアのいう「師匠」から

ある程度の家事を仕込まれているそうで、俺はもっぱらその手伝いをし、

ノアの作った簡単な山菜の料理や薬草のスープを食わせてもらっている。

一つ驚いたのはノアが7-8歳と思っていたのに、12歳だったこと。

(大した違いはないが、小柄で小さく見えたから個人的な驚きだ)


そして喉を痛めているのも含め、

もとより話すことが得意ではない俺に対して

鈴を転がしたように笑いながら、

聞いていないことまで沢山俺に話しかけ続けるものだから、

ノアのこと・ここの環境がわかるようになってしまった。


このノアの住処の小屋は

おおよそ2人暮らし程度の範囲でありつつも、

吹き抜けになっている2階建の小屋の中では、

部屋の天井を垂れるようにロープがのびていて果実や

花や薬草?のようなものが束になって干してあり、


西の木製の棚には大量の瓶の中にあらゆる鉱物や種、

獣の素材などがしきつめられており、作業台もあるようだ。

何に使うのかはわからないがーー・・

何かしらの材料が大量にある場所、と認識している。


北の棚にはもう一つドアを隔てて部屋がある。

床は石がしきつめられ、その上には湯を貯める大きな桶が設置されており、

部屋内の上段棚には薬草でできた石鹸やハーブのオイル瓶がきちんとならびつつ

どうやらそこでノアは毎日湯に浸かるようだ。

(毎日の湯浴みなど行うゆとりなど俺にはなかったが。

 これを少しだけ言ったらものすごい怪訝な顔をされた。)


東側には石製のかまどが設置されており、

大きな鍋がひとつ大口の穴に常備され、

小口のかまど穴が2つ設置されており

ノアがよくここで料理をする際にいったりきたりしながら、

下部開いた穴に息を吹き込んで火の調整をしている。

そしてその横には暖をとる石製の暖炉がある。

吹き抜けでも暖かいのはこの暖炉のおかげなのかーー



ーーーそして南。


2階建の天井まで伸びる大きな本棚。

明るさが届かないような2階の上から1階の底まで、

大きな一面の本棚に本がものすごい数敷き詰められている。

中には少し光るような背表紙も。

不思議なのが、まるで本棚を中心にしているように

2階の階層は階段をあがればぐるりと回る木製通路しかないことだ。


つまり生活の中心は1階でありーー

10歳の少女ノアと、必然的に同じ空間に

一緒にいることが必然と多くなった。


ノアは動かなくても良いというがーー

今まで人目を避け、すぐに見つからない場所へ隠れ

ひとつの場に留まらず移っていた俺は、

どうやらじっとしているのも落ち着かないので

木を割ったり、その薪木を火にくべたりしながら、

パチパチと音を立て燃える暖炉に

視線を集めていたりとした。


暖炉の前、中央テーブルの椅子を暖炉側に向け座り、

火の温かいゆらぎにぼーっとしてたからか、

思ったより時間が経ってしまっていたようだ。

外を繋ぐドアがバタンと音を立てる。


「クレナイ!ごめんごめんご飯おそくなっちゃって!

 日も落ちてきたし、もうだいぶ良くなったね、

 また山菜スープでも作るね!あっでもそろそろ

 肉とか食べられるかな?干し肉なんかあったような」


ドアから部屋へ飛び込んでかまどへ向かった

ノアがふりに振り返り俺に話しかける。



「・・・肉は食える、と思う。」

肉など久しぶりだ。少しだけ浮き足たつ。

ーーー馬鹿みたいだな、この前までもう

死んでもいいと思っていたのに。



「良かった!実は地下に沢山干し肉はあるんだ〜

 あんまり食べてなかったから、2人分って作りがいがあるよね」



「おまえの師匠とやらは、食わなかったのか」



「うーん。もうね、最後の方は食べられなかったの」


ノアはかまどの方へ向き直し、薪をくべ増やし、

食材を切り始め、大口の鍋で何やら煮込み始めた。

作業に無駄がなく見え、手慣れているのを感じる。




少しずつ、良い匂いが立ち込めてきた。




*



調理が一旦落ち着いた様子が見えた。




「・・・もう5日になるか、


 ・・・世話になったな。


 ーー俺はもう動ける、もう明日にでもここを発とうと思う。」



「ーーーだめっ!!!!」

ノアは振り返り煮込んでいた鍋用の木製スプーンを床に落とした。




「・・・・?

 ーーーなぜだ?お前もわかっているだろう。



 俺は・・・ノワール族だから・・・


 その…

 お前に被害があるかもしれない・・・


 ノア、お前には感謝しきれない。

 充分すぎるほど、助けられた。もう、大丈夫だ」


「だめ、だめだよ、まだ行かないで

 治りきってないところもあるし、

 まだ料理も色々作れるの

 師匠に教わった物が沢山あるの、私役に立てるの

 お願いだからもう少し待って行かないで」





ーー驚いた。今までの明るさはどこにいったのか

泣きそうな顔をして肩を振るわせながら

叫びのように言葉を発している。




「・・・でもそれではお前に被害が」


「いいのっ!!!!!!いいの!!!!!!

 

 ・・・・今日はお肉奮発するからねっ!待ってて!」




ノアは泣きそうな顔から無理やりつくった笑顔を向け、

その気迫のある声に俺はそれ以上何も言えなくなった。



ーーー部屋の中心にあるテーブルに座れるようになった俺は

ノアと向かい合って一緒に食事をとったが、

ノアは先ほどの激合がなかったかのように

師匠から教わった料理の味のこだわりや、

スパイスの混合率などたわいもない話をしていた。

一生懸命に。


俺はうなずき、聞いているフリをしながらも

なぜあんなに俺が出ていくことを

ノアが拒絶をしたのか理解ができなかった。

ノワール族の危険性は磔にされるほどだと知っているだろうに。


「ごちそうさまっ!美味しかった??

 良かったお肉食べれて!!

 今日は早く寝よう!

 明日も冬越え用に少しでも蓄えしないとね!」


捲し立てるようにノアは話しながら

食器を片付けていく。



「ーーーノア」


ノアはビクッと肩を振るわせ、重ねた食器を

自分が被る形で落としてしまった。


「あっ・・・ごめんごめんびっくりしちゃって!

 あはは、私あわてんぼうだから・・・

 あ、服汚しちゃった!洗わないと・・・

 洗うついでに先に、お風呂すぐ入っちゃうね」


「俺が、食器はやる。ーーーありがとう。

 肉、うまかった。」


ノアはその言葉に安心したかのように、

ゆっくりと振り返り、少し笑みを浮かべて

湯浴み場の方に向かっていく。


先ほどの食器類から、

少し残った汁が服にかかったのか、焦っているのか

北部屋のドアを閉める前に服を脱いでいるノアの後ろ姿が見え、

すぐドアは閉じられた。







その小さい背中ーーーーー






一面に、紋章のような模様が見えた。

見えてしまった。


食器を持つ手に一気に鳥肌がたった。





あれは、見覚えのあるーーーーー

いや、でもそんな。

見間違えのはず、でも10歳の少女が背に刺刻印をするか?

目にした情報に混乱しながら思考が巡る。



いや見間違えのはず、でも

あれは、あれは、




見覚えのあるーーーー

ノワール族に・・・伝わっている





ーーーーーー「生贄」の紋章だーーーーーーー




北部屋からはドアの隙間から

暖かい湯気がこちらへただ寄ってきていた。









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