隣国の脅威と、隣国との駆け引き?
10万の軍勢を擁するガリア帝国からの脅迫を「スルーする」と宣言してから数日。
魔王城の境界線付近では、不気味なほどの静寂が続いていた。
完全に無視されたガリア帝国軍の将軍は、「我らをナメているのか!?」と激昂しながらも、一切の動揺を見せない魔王城の不気味さに怖気づき、進軍をピタリと止めてしまっていたのだ。
「……さすがはジークフリート様。敵は王の威圧感に気圧され、身動きが取れなくなっております」
執務室にやってきた四天王のルクレツィアが、感心したように頷く。
だが、当のジンはそれどころではなかった。
部屋の窓から遠くの地平線にうっすら見える敵陣の幕営を望遠鏡(※城の備品)で覗き込み、絶望で震えていたのだ。
(い、本当に10万くらい集まってるじゃん! 遠目で見ても黒いウジャウジャした塊が見えるよ! 怖すぎる……!)
「しかしいつまでも放置しておくわけにも参りません。ジークフリート様、奴らにトドメを刺す次の一手、ご教示いただけますでしょうか?」
(トドメ!? 滅そうとしないでよ! 刺激したらこっちに突撃してくるじゃん!)
ジンは冷や汗を拭いながら、引きこもり時代にネトゲのギルド抗争で培った知識を必死に思い起こした。
(えーっと……相手が大軍でこっちに攻めてこようとしてる時……正面から戦ったら絶対に負ける。そういう時は……そうだ、相手の『サーバー』……じゃなくて『補給路』を断つのが鉄則だ!)
ネトゲでも、補給アイテムを運ぶ物資隊を叩けば相手の遠征軍は干上がる。
ジンはボソボソと、引きこもり知識の受け売りを呟いた。
「……ご飯」
「……え? ご飯……にございますか?」
「……人間は、ご飯を食べないと動けない。……後ろの糧食庫を、断てばいい」
ただのネトゲのセオリーである。
「ごはんを食べないと戦えないから、兵糧攻めすれば帰るんじゃない?」という超基本的なアイディアだ。
しかし、ルクレツィアの瞳に激震が走った。
「っ……!? なんという鮮やかな作戦……! 10万の兵を直接殺戮するのではなく、後ろの補給線――ガリア帝国の兵糧輸送部隊のみをピンポイントで焼き払う……!」
「え?」
「さすれば10万の兵は餓えに苦しみ、戦うことなく自滅! 兵を無駄に殺さず、最小限の手間で敵国そのものの国力を削ぎ落とす、完璧なる兵糧攻め戦略……!」
(ち、ちがう! 「兵糧攻め」なんて大層な熟語は使ってない! ただ「ご飯断てば?」って言っただけなのに!!)
「感服いたしました! 直ちに精鋭の影部隊を派遣し、敵の糧食のみを灰に変えて参ります!」
ルクレツィアは感動のあまり頬を染め、深々と一礼して部屋を飛び出していった。
(待って! 影部隊とか物騒なもの出さないで! 僕はただ敵にお腹空かせて自発的に実家に帰ってほしかっただけなのにぃぃぃーーーっ!!)
ジンは豪華なソファに突伏し、異世界の「過剰翻訳」に頭を抱えるのだった。




