お部屋でゲームをしたいだけなのに
勇者撃退事件から数日。
魔王城の一角で、ジンは奇跡的な「発見」に歓喜していた。
「す、すごい……! これ、マジで古代のゲーム機じゃん……!」
物置の奥で見つけたのは、魔力を流すと立体映像が浮かび上がる古代魔法具の盤面。ルールは単純な陣取りゲームだが、ネット社会のゲーマーだったジンにとって、これ以上ない最高の娯楽だった。
「よしっ、今日は一日中このゲームで遊ぶぞ! 部屋から出ない理由がまた一つ増えた!」
ジンは目を輝かせ、無心で魔法具に魔力を流し込んで没頭し始めた。
――そこへ、ルクレツィアとバアルの二大四天王が部屋を訪れた。
「ジークフリート様、今週の軍備の報告――っ!?」
扉を開けた瞬間、二人は絶句した。
部屋の中央で、ジンが禍々しい紫黒の魔力を指先から繊細に散らし、複雑な光の幾何学模様(※ゲームの陣取り画面)を空間に描いている。
その顔は真剣そのもの。指先が一筋動くたびに、空間の魔力が不気味な鳴動を上げていた。
(ジークフリート様が……超高密度の魔力演算を行っておられる……!?)
ルクレツィアは息をのんだ。
(あの光の波形……ただの術式ではないわ! 人類領地の地形、風向き、魔素の循環、さらには星の運航まで計算に入れた【広域天変地異級術式】……!?)
「は、ははぁっ……!」
バアルがその場に激しく叩きつけるように膝をついた。
「ジークフリート様! 遊び半分に攻め込んできた勇者どもに対し、直接手を下すまでもなく『大陸全体の気候を操作して干ばつを起こす』おつもりですね! なんという恐ろしい神算鬼謀……!」
「……え?」
ゲームの難関ステージをクリアしようと全集中していたジンは、不意に声をかけられて素に戻った。
「あ、いや……これ、ただの暇つぶしの盤上ゲームだけど……」
ジンのボソボソとした本音。
だが、四天王たちのフィルターを通すと、それは恐ろしい意味に変換される。
(盤上ゲーム……! つまり『人間どもの領地など、我が指先一つで弄べる盤上の駒に過ぎぬ』とおっしゃっているのか……!!)
ルクレツィアは震え上がるような興奮と恐怖で身体を震わせた。
「感服いたしましたジークフリート様! 我らもその『盤上遊戯』の足引っ張りとならぬよう、直ちに全軍の配置を再編いたします!」
「えっ、待って、配置? 何の話――」
「失礼いたしますっ!!」
颯爽と去っていく四天王たち。
(だから話を聞いてぇぇぇ!! 僕はただレトロゲームでハイスコア狙ってただけなの! なんで軍勢が動いちゃうのぉぉぉーーーっ!!)
一人残されたジンは、途中で途切れたゲーム画面を前に、悲しみの涙を流すのだった。




