人間側の勇者、来襲
天を割る「恐怖の挨拶」から数日後。
自室のふかふかベッドで毛布にくるまり、なんとか精神の平穏を取り戻そうとしていたジンに、最大のピンチが訪れた。
――ドガァァァン!!
「魔王ジークフリート! 覚悟ーっ!!」
けたたましい爆音と共に、執務室の重厚な扉が豪快に吹き飛んだ。
煙の中から躍り出たのは、白銀の甲冑に身を包んだ凛々しい金髪の青年――人間側の「勇者」レオンだった。
「四天王の警戒網を突破し、ついに辿り着いたぞ! お前の邪悪な野望もここまでだ!」
(ひぃぃぃぃっ!? 勇者!? 勇者来ちゃったの!??)
毛布の中でガタガタと全身を震わせるジン。
四天王たちが「ジークフリート様の手を煩わせるまでもない」と持ち場へ向かったスキを突き、この勇者は単身で魔王城の最奥まで侵入してきたのだ。
(ヤバいヤバいヤバい! 殺される! 僕はただのコミュ障引きこもりなんだってば!!)
恐怖のあまり、ジンは言葉も出ず、毛布を頭までかぶったまま「いーいー(無理無理)」と首を激しく横に振った。
しかし、勇者レオンの目には全く違う光景として映っていた。
「な……なんだと……!?」
勇者は聖剣を構えたまま、額に冷や汗をダラリと流した。
(この俺が単身で乗り込んだというのに、身構える素振りすら見せない……! それどころか、毛布一枚を隔てたまま、微動だにせずこちらを『観察』しているだと……!?)
ジンの放つ(恐怖による)過剰な魔力の威圧感。そして、あまりにも隙だらけに見えて一切の隙がない(ように見える)不気味な体勢。
「くっ……! はったりに騙されるものか!『聖剣一閃』っ!!」
勇者レオンが死力を尽くし、光の刃を解き放つ。
直撃すれば山をも穿つという、人類最強の必殺技だ。
――ドッッッ!!
だが、刃がジンに届く直前。
ジンの全身から無意識に溢れ出た紫黒の魔力防壁が、光の刃をあっけなく「キャン」と弾き返してしまった。
弾かれた衝撃で、勇者レオンはそのまま部屋の壁まで吹き飛ばされ、激しく突っ込んだ。
「グハッ……!? ば、馬鹿な……手応えがない……!? 攻撃すら……認識されていないというのか……!?」
(えっ、今のなに? 勇者さん、勝手に一人で壁に激突してない……?)
恐る恐る毛布から顔を出したジン。
瓦礫の中で血を吐きながら立ち上がる勇者と、バッチリ目が合ってしまう。
「ひっ……(ごめんなさい)」
ジンは恐怖のあまり小さく悲鳴を上げ、手元にあったクッションをサッと勇者に向かって差し出した。
(※「これで怪我したところを冷やして早く帰ってください」という精一杯の無言の申し出)。
だが、勇者レオンはそのクッションを見て、ガタガタと全身を震わせた。
「クッションを……投げ渡す価値すらないと、手元で弄んでおられる……! 『今の貴様では、余の肘置きにもならぬ』……そう言いたいのだな……!?」
「えっ、ちが――」
「くそっ……覚えていろ魔王ジークフリート! 今日は退くが、次は必ず貴様を倒す!!」
勇者レオンは涙目になりながら煙幕を焚き、命からがら窓から飛び降りて逃げて行った。
(待って! 誤解だよ! 僕はただクッションあげようとしただけなのにぃぃぃーーーっ!!)
ポツンと残されたジンは、手にしたクッションを抱きしめたまま、静かに絶望するのだった。




