ただの「挨拶」が極大魔法に
自室に引きこもる決意を固めたジンだったが、そう簡単に運命は放っておいてくれなかった。
「ジークフリート様! 魔王軍全軍の兵士3万が、貴方様の御姿を一目拝みたく、城の中庭に集結しております! ぜひ一言、お言葉を!」
四天王の一人、巨漢のバアルが扉をドカンと叩いて呼びに来てしまったのだ。
(3万人!? 3万人の前に出ろって言ってるの!? 無理無理無理! ネットの掲示板でレスバトルするのとはワケが違うんだよ!!)
拒否権などあるはずもなく、ジンは半泣きでバルコニーへと連れ出された。
見下ろすと、黒山の人だかりならぬ「黒山のアクマだかり」。甲冑を着たオークや巨大な魔獣、凶暴な悪魔たちが隙間なく埋め尽くし、ジンの姿を見るやいなや地鳴りのような大歓声を上げた。
「「「ジークフリート様! ジークフリート様!!」」」
(ひぇぇぇ……っ! 威圧感がエグい! 吐きそう! コミュ障にこの観衆は兵器レベルだよ!!)
恐怖で喉がカラカラに乾き、声が出ない。
早く部屋に戻りたいジンは、とにかくこの場を穏便に終わらせようと、震える口をなんとか開いた。
「あ、えーと……『やあ』……」
あまりの緊張に、ボソッと漏れた小さな挨拶。
しかし、ジンの体内に渦巻く超規格外の魔力は、彼の「早くこの圧迫感から逃れたい」という強い焦りと過剰に反応してしまった。
――ズギャァァァン!!!!!
ジンの口から漏れた吐息と共に、漆黒と紫電の巨大な衝撃波が放たれた。
それは空を切り裂き、バルコニーの遥か上空――王都を覆っていた分厚い暗雲を一瞬で吹き飛ばし、澄み渡る大空を強引にこじ開けてしまったのだ。
バリバリバリッと空間が歪む重低音が響き渡り、やがて静寂が訪れる。
中庭にいた3万の魔軍は、全員が開いた口が塞がらない様子で上空を見上げていた。
(や、やってしまったぁぁぁぁ! また無意識に破壊魔法みたいなの出しちゃった!? 怒られる! 「全軍に向かって何撃ち込んでんだ!」ってボコボコにされる!!)
ジンが頭を抱えてその場にうずくまろうとした、その時。
「おお……おおおっ!!」
バアルが感涙を流しながら膝をついた。
「ただ一言の挨拶で、天を覆う古代の邪雲を吹き飛ばされるとは……! あれは『日航の恵みなど我が魔力の前には不要』という、絶対なる王の示威……!」
「「「うおおぉぉぉぉぉっ!!!」」」
3万の兵士が一斉に剣や槍を打ち鳴らし、狂喜乱舞の歓声を上げた。
「さすがジークフリート様! 一声で天を割るお方だ!」
「俺たちを束ねる王は、本物の神だ!!」
(ちがう! ただの『やあ』だよ!? 挨拶しただけだよ!! なんで天が割れるんだよぉぉぉーーーっ!!)
鳴りやまぬ歓声の中、ジンは白目を剥きながら、フラフラと自室へと逃げ帰るのだった。




