配下の四天王、勘違いする
「……で、こちらがジークフリート様がお過ごしになる特級執務室にございます」
禍々しい翼を生やした美女――四天王の一人であり、魔王城の総務を仕切る夢魔のルクレツィアが、恭しく重厚な扉を開けた。
中に広域に渡っていたのは、ふかふかの絨毯、巨大な天蓋付きベッド、そして部屋の隅に置かれた高級そうなソファだった。
(う、うわぁぁぁ! めっちゃ快適そう! ネット回線とゲーム機さえあれば永住できるやつだこれ!)
引きこもり特有の「引きこもり適性センサー」がビンビンに反応する。
ジンは内心で歓喜の涙を流しながら、部屋の真ん中へ進み出た。
「……あのさ」
「はいっ! なんでしょうかジークフリート様!」
コミュ障ゆえのボソボソとした低音ボイスでジンが呟くと、ルクレツィアは背筋をピンと伸ばし、目を輝かせて耳を澄ませた。
「僕……できれば、この部屋から一歩も外に出たくないんだけど……」
ジンの本音だった。
人間と戦うなんて怖いし面倒くさい。怪物みたいな魔族たちと会話するのも緊張する。美味しいごはんをこの部屋に運んでもらって、永遠にゴロゴロしていたい。
しかし――それを聞いたルクレツィアの顔色がガラリと変わった。
「っ……!? 『部屋から一歩も出ない』……ですか!?」
(ひえっ!? やっぱり怒られる!? 「魔王の癖に何言つてんだこの穀つぶし!」つて討伐される……!?)
ジンが冷や汗を流しながらビクビクしていると、ルクレツィアは感極まったように胸の前で両手を組み、震えだした。
「素晴らしい……! なんという深謀遠慮……! 『我ほどの力があれば、玉座に座したまま指一本動かさずに世界を平定できる』……そうおっしゃりたいのですね!?」
「え?」
「我ら愚かな配下がいくら戦略を練ろうとも、ジークフリート様にとっては児戯に等しい……! ご自身が動くまでもなく、我ら四天王だけで人間どもを片付けてみせよという、ありがたい【試練】にございますね!?」
「いや、全然そういうことじゃなくて――」
「承知いたしました! ジークフリート様がこのお部屋から一歩もお出かけになられる必要がないよう、我ら四天王、命を賭して前線を維持してまいります!」
ルクレツィアは涙ぐみながら深々と一礼し、嵐のように去っていった。
(ちょっと待って!? 話を聞いて!? 僕はただダラダラしたいだけで、四天王を前線に送って戦争したいわけじゃないのーーーっ!!)
残されたジンは、豪華な絨毯の上で頭を抱えて崩れ落ちた。
こうして、「引きこもりたい」というジンの切実な願いは、配下の四天王によって「絶対なる王の圧倒的な余裕」として、恐ろしいスピードで全軍へ拡散されていくのだった。




