目覚めれば魔王城
「……んあ?」
固い石の床の冷たさで、ジンは目を覚ました。
ぼやける視界をこすりながら体を起こすと、そこは自分の畳6畳の自室……では断じてなかった。
天高くそびえる漆黒の天井。
紫色の怪しい炎が揺らめく松明。
そして正面には、骨と金属で装飾された、いかにも悪の帝王が座りそうな巨大な玉座が鎮座していた。
「な、なにここ……? VRゲームの体験イベント? いや、僕コンビニに行ったはずじゃ……」
パニックになりかけたその時、足元から地鳴りのような重低音が響いた。
「おお……おおお……っ! ついに……ついに目覚められたのですね、我らが絶対なる主よ……!」
「ひえっ!?」
声のした方を見下ろすと、そこには幾重もの重厚な鎧を纏った、身長3メートルはあろうかという巨大な角付きの男――いや、魔族が片膝をついて深々と頭を下げていた。
さらにその背後には、禍々しい翼を生やした美女や、不気味な杖を持った老人がずらりと列をなしている。
(な、なにこのリアルすぎるコスプレ集団!? っていうかデカい! 怖い! コミュ障の僕には荷が勝ちすぎる!!)
ジンは恐怖のあまりガタガタと震えだし、その場から後ずさろうとした。
しかし、足がもつれてバランスを崩し、盛大に尻餅をついてしまう。
ドシン!
「あ痛っ……!」
その瞬間、ジンの手から無意識に放たれたのは、彼自身も知る由のない紫黒の衝撃波だった。
バリバリバリガキィィィン!!
ジンがただ手をついただけの床から、極大の魔力が円状に弾け飛ぶ。
玉座の間の巨大な石柱が3本ほど一瞬で粉砕され、豪快な音を立てて瓦礫と化した。
「「「………………っ!?」」」
魔族たちが一斉に息をのんだ。
(や、やばい! 弁償!? 破壊弁償させられる!? いやそもそも今の何!?)
冷や汗をダラダラと流し、声も出ずに口をパクパクとさせるジン。
しかし、3メートルの鎧の男――魔王軍四天王の一人、剛腕のバアルは、涙を流しながら叫んだ。
「素晴らしい……! ただお立ち上がりになられただけで、古代の結界石柱を一瞬で粉砕されるとは……! なんという圧倒的な魔力! これぞ我らが探し求めし、滅びの魔王『ジークフリート』様だ!!」
「えっ」
「魔王様! 我ら魔族一同、貴方様の御復活を心よりお待ち申し上げておりました! さあ、我らにご命令を! 人間どもを滅ぼす覇道の一歩を、今ここに!」
「「「魔王ジークフリート様万歳!!」」」
地響きのような歓声が魔王城全体にこだまする。
(じーくふりーと……? だれそれ? 僕は佐藤ジンなんですけど……ていうか、人間を滅ぼすとか言った!? 嫌だよそんな面倒なこと! 僕はお部屋でゲームしてダラダラしたいだけなのにーーーっ!!)
最底辺引きこもり少年の、意図しない魔王生活がこうして幕を開けたのだった。




