引きこもり魔王の真・絶対領域
邪神消滅という天変地異級の出来事から、数日。
魔王城の中庭では、歴史的な光景が広がっていた。
魔族の四天王たちと、勇者レオン率いる人間側の使節団がテーブルを囲み、終戦および和睦協定の調印式が行われていたのだ。
「……まさか、魔族と人間が争いをやめ、平和の条約を結ぶ日が来るとはな」
勇者レオンが感無量といった面持ちで署名する。
「ふん、すべてはジークフリート様の深遠なる御心によるものだ。感謝するのだな」
四天王のバアルが腕組みをしながらフンと鼻を鳴らした。
世界は救われた。
人間と魔族の何百年にも及ぶ泥沼の戦いに終止符を打ち、平和の礎を築いた偉大なる英雄――それこそが「魔王ジークフリート」であると、世界中で称えられていた。
だが……当の本人は、すっかり修復された(防音・耐震・最高級の鍵が備え付けられた)特級執務室で、虚無の表情を浮かべていた。
(……なんで? どうしてこうなったの……?)
ジンはふかふかのベッドに突伏し、クッションを頭に抱えた。
(僕はただ……最底辺の引きこもりで……部屋でゲームしてダラダラ過ごしたかっただけなのに……。なんで世界を救った伝説の魔王扱いされてるの……?)
ふと、扉の外からルクレツィアの弾んだ声が聞こえてきた。
「ジークフリート様! 人間側と魔族側、双方より貴方様へ『世界皇帝』として戴冠したいとの要請が届いております! ぜひ式典のご準備を――」
(世界皇帝!?? 絶対嫌だ! そんなの絶対忙しいじゃん! 外に出ずっぱりに決まってるじゃん!!)
ジンは跳ね起きると、鍵をガチャンと締め、ドア越しに魂の叫びを上げた。
「嫌だ! 僕はどこにも出ない! この部屋に一生引きこもる!!」
「……っ!?」
扉の外で、息をのむ気配。
「ま、まさかジークフリート様……『皇帝の権力などに興味はない。我が領土はこの一室のみ。世界の治世は民と配下に任せる』とおっしゃるのですか……!?」
(ちがう! ただ面倒くさいだけ!!)
「なんという……なんという無欲と高潔さ……! 世界を統べる力を持ちながら、一切の権力を望まず、ただ静観者として世界を見守る……! これぞ真の絶対者の姿……!!」
ルクレツィアは感涙し、扉に向かって深々と平伏した。
「承知いたしましたジークフリート様! 貴方様の『絶対領域(お部屋)』を冒す者など、二度と現れぬよう、我ら四天王と勇者一行が永久にお守りいたします!」
(だから話し合いを聞いてぇぇぇーーーっ!!)
ジンは崩れ落ちた。
しかし、皮肉にもその「絶対に出たくない」という固い意志こそが、彼の愛する最強の「引きこもり環境」を完成させてしまったのだった。




