最底辺引きこもり魔王の平穏な日常
邪神の降臨から数ヶ月。
世界には穏やかな平穏が訪れていた。
人間と魔族の争いは過去のものとなり、交易や交流が盛んに行われる新時代。その中心にある魔王城は今や、世界中の人々から「平和の聖地」として仰がれている。
そして――魔王城の最奥、最高級の防音・耐震・魔法結界が施された特級執務室。
「ふはぁ〜……やっぱりお部屋が一番だねぇ……」
ふかふかの特大ソファの上で、ジンは毛布をかぶりながら、優雅に温かい紅茶(魔界特産の激旨ハーブティー)を口にしていた。
手元には、大工の魔族と四天王たちがジンのために総力を挙げて改良した「最新型・古代魔法ゲーム機」。魔素通信によって、今では人間側の勇者レオンとも遠隔で対戦ができるようになっている。
(日本にいた頃は、狭い畳の部屋でカップ麺食べながら掲示板見るだけの最底辺だったのに……。今や美味しいご飯も勝手に出てくるし、部屋は広いし、ゲームもやり放題。……あれ? これって最高の引きこもり環境なのでは……?)
ジンはしみじみと幸せを噛み締めていた。
ガチャン。
扉が静かに開き、ワゴンに載せられた豪華なおやつ(専属の魔界シェフ特注の巨大ケーキ)と共に、四天王のルクレツィアが入室してきた。
「ジークフリート様、おやつをお持ちいたしました。……本日も素晴らしい『世界の観測』にございますね」
「あ、うん……(ただのゲームだけどね)」
「勇者レオン殿より伝言が届いております。『ジークフリート様から学んだ“平穏の尊さ”を胸に、今日も世界の発展に尽力いたします』とのことです」
「そ、そう……(あいつ、すっかり僕の信者になっちゃったな……)」
ジンがケーキを口に運びながら苦笑いしていると、ルクレツィアは愛おしそうにジンを見つめ、深々と頭を下げた。
「貴方様がこの部屋から一歩も出ず、世界を静かに見守ってくださるからこそ、我らは安心して平和を紡ぐことができます。……感謝いたします、我らが偉大なる魔王ジークフリート様」
(……まあ、配下のみんなも勘違いしまくりだけど、優しくしてくれるし……。僕がこの部屋から出ないだけで世界が平和になるなら、もうこれでいいや!)
ジンはふふっと小さく笑うと、ゲーム機に魔力を流し込み、再び画面に没頭し始めた。
「よしっ、今日も一日、全力で引きこもるぞー!」
史上最強にして、史上最高の平和をもたらした最底辺引きこもり魔王。
彼の「絶対に部屋から出たくない」という切実な戦いは、これからも静かに、そして平和に続いていくのだった。




