勇者との対話
壁と天井が豪快に吹き飛び、見晴らしだけは最高(風通しが良すぎて寒い)になったジンの部屋。
大工の魔族たちが慌ただしく修繕作業を進める中、崩れた瓦礫の隙間から、一人の青年が姿を現した。
かつて返り討ちに遭った人間側の勇者――レオンだった。
「……また会ったな、魔王ジークフリート」
(ひぇぇぇぇっ!? 勇者!? なんで壁のない部屋にピンポイントで登ってきてるの!??)
ジンは毛布を頭からかぶり、ガタガタと震え上がった。
四天王たちは城の復旧と後始末で出払っており、今この場にはジンと勇者の二人しかいない。
「……答えろ魔王。お前は一体、何を目論んでいる?」
勇者レオンの目は真剣そのものだった。
「10万のガリア帝国軍を兵糧攻めで壊滅させ、特攻してきた精鋭部隊を傷一つ負わせずに無力化して追い返した……。なぜだ? なぜそれほどの圧倒的な力がありながら、人間を一人も殺さない!?」
(え……殺さないって……だって殺人なんて警察に捕まるじゃん! 怖いじゃん! 僕、平和主義の引きこもりなんだよ!!)
毛布の中から必死に顔を出したジンは、恐怖で乾いた喉を鳴らし、ボソボソと本音を漏らした。
「……争いなんて……面倒くさいだけだ……」
「なに……?」
「お互い……自分の部屋(国)に引きこもって……ゲームでもしてればいいのに……。なんで外に出て……戦うの……?」
ただただ「外に出たくない、争いたくない」という引きこもり少年の切実な主張。
しかし、命がけで戦い続けてきた勇者レオンにとって、その言葉は雷に打たれたような衝撃だった。
「っ……!? 『自分の領域を守り、他者を脅かさず、平穏を愛せ』……そう言いたいのか……!?」
(え、いや、そんな大層な思想じゃなくて……)
「俺たちは……魔族は邪悪だと決めつけ、先手を打って侵略しようとしていた……。だが、お前は最初から『対立そのものの愚かしさ』を説いていたというのか……!?」
レオンは聖剣をサッと鞘に納め、その場に深々と膝をついた。
「見事だ、魔王ジークフリート……。俺の負けだ。お前の言う通り、争いなど虚しいだけだった……。俺は国へ帰り、王に和睦を訴える!」
「えっ」
「世界に必要なのは、剣ではない……お前のような『圧倒的な力を持った平和主義者』だ!!」
(待って! 誤解だよ! 僕はただ家から出たくないだけのコミュ障なんだってばぁぁぁーーーっ!!)
レオンは清々しい笑顔を浮かべると、風のように去っていった。
こうして、ジンの引きこもり思想は、勇者の手によって「真の平和の教え」として人間世界へ広まっていくのだった。




