本気を出した(フリをした)一撃
部屋に雪崩れ込んできたガリア帝国の精鋭討伐隊。
返り血と殺気に満ちた百人以上の兵士たちに囲まれ、ジンの恐怖は限界突破していた。
(あ、無理。死ぬ。僕、ここで殺されるんだ……!)
恐怖で極限まで追い詰められたジンは、反射的に目の前で両手を大きく振り払った。
それはただの「あっち行け! 来ないで!」という、パニックに陥ったコミュ障少年の拒絶動作に過ぎない。
しかし――その一瞬、ジンの生存本能と共鳴した規格外の魔力が、破格の現象を引き起こした。
――ズガァァァァァン!!!!!
ジンの手振りひとつで、部屋の壁、天井、そして城の半身が一瞬で「消失」した。
攻撃ですらない。空間そのものを力任せに押し出したような純粋な魔力の濁流。
討伐隊の兵士たちの武器や防具は、一瞬で粉微塵となって吹き飛び、全員がそのまま城の外へと遥か彼方まで打ち上げられた。
「グハァッ!?」
「な……なんだこの……圧倒的な……ッ!?」
吹き飛ばされた総司令官は、空中で白目を剥きながら意識を失った。
数秒後。
静寂が訪れたジンの部屋(だった場所)には、心地よい青空と爽やかな風が広がっていた。壁と天井が綺麗さっぱり吹き飛んだおかげで、見晴らしだけは最高である。
(えっ……? 僕の部屋の壁……どこ行ったの……?)
ジンが呆然と口を開けて立っていると、遅れて駆けつけてきた四天王たちが目を見開いた。
「ジ、ジークフリート様……ッ!?」
バアルやルクレツィアたちは、吹き飛ばされた城の惨状と、青空の下でポツンと立つジンを見て、ガクガクと身体を震わせた。
(なんという事だ……! 我らが手を焼いた死兵どもを、手首を一振りされただけで城ごと吹き飛ばされただと……!?)
ルクレツィアは感極まったように膝をつき、胸に手を当てた。
「お見事……お見事にございますジークフリート様! あえて我らを頼らず、ご自身の手で害虫どもを一掃されるそのお姿……! まさに真の絶対者……!」
「……え、いや、これ部屋壊れちゃったんだけど……」
ジンの力なく漏れたボソボソ声。
しかし、四天王コルネリウスは深々と頷いた。
「『狭い部屋など不要。世界すべてが我が庭である』……そうおっしゃりたいのですね! なんという雄大なご器量……!」
(ちがう! 屋根がないと雨が降ったらぬれるじゃん!! 直してぇぇぇーーーっ!!)
青空の下、ジンは心の中で号泣しながら、吹き抜ける風に身を任せるのだった。




