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無能と罵られ追放された天才軍師、敵国で英雄になる ~追放した王国が、今さら停戦を求めて土下座してきても遅い~  作者: レモンティー


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第七十話 俺は王都の前に到着し、攻撃を停止させた

城門の前には、家族と離れた避難民がいた。

「荷車を通せば、その人たちが押し潰される」とパルラが指摘する。

シリウスは食料の搬入より先に、門前の人を移動させる通路を確保した。

食料があることと、食料へ安全に辿り着けることは別だった。

王都の城壁が見えたとき、帝国兵の列に歓声は起きなかった。

城門の外には逃げ場を失った民が座り込み、壁の上では弓兵が彼らの頭越しに矢をつがえていた。

シリウスは攻城具を運ぶ兵へ、停止の旗を振らせた。

王都を望む丘に帝国軍が到着した。

城壁の上では弓兵が矢をつがえ、城門の外には避難民が押し寄せていた。

ガイルは包囲の配置を報告した。

「攻城具は日没までに揃います」

シリウスは望遠鏡を下ろした。

「攻撃は停止する」

将軍たちの間にざわめきが走った。

「ここまで来て止まるのか」

ガイルの声には怒りより困惑があった。

シリウスは城門を指さした。

「あそこには兵だけでなく、食料を求める子供がいる。攻撃すれば敵軍を倒す前に、守りたい人々を殺す」

彼は砲兵を後退させ、救護所と炊き出し場を城門から見える位置に設けさせた。

挑発に見えないよう、武装兵と荷車の距離も空けた。

城壁の上の衛兵が叫んだ。

「毒入りだろう!」

シリウスは捕虜から解放された王国兵を使者に選んだ。

かつての敵兵は無理に忠誠を誓わされていない。

自分の意思で城門へ歩き、「俺たちはこの麦を食べて生き延びた」と叫んだ。

城内から返事はなかったが、翌朝、門の隙間から空の鍋が一つ差し出された。

セリーナが城門の内側に現れた。

かつて同じ国を守ろうとした二人は、厚い扉を挟んで声を交わした。

「シリウス、王を倒せば戦争は終わるのか」

「終わらない。飢えた人が明日も生きられるようになって、初めて終わる」

セリーナは長く黙った後、「なら、まず門を開く理由を民に示して」と答えた。

シリウスは頷いた。

剣では開けられない門が、確かにそこにあった。

王都の城壁には弓兵が並んでいた。

シリウスが攻撃停止を命じると、帝国軍の一部から不満の声が上がった。

ここまで来て、なぜ城を落とさないのか。

「城門の前に立つ者を見ろ」とシリウスは言った。

門の隙間から、空の椀を掲げた子どもの手が見えた。

王国の衛兵がその手を押し戻す。

シリウスは攻城槌の準備を止め、使者に食料搬入の条件を書かせた。

荷車は武装兵を伴わず、城内外の代表が同時に袋を数える。

兵糧への転用を防ぐため、最初の配給は門前の広場で行う。

「王が拒めば?」とガイル。

「拒んだ事実を城内の人々へ伝える。誰が食料を止めているのか、見えるようにする」

城壁の上から矢が一本飛んだ。

使者の足元に突き刺さる。

護衛兵が盾を構えたが、シリウスは反撃を禁じた。

使者は震える手で書面を拾い、再び門へ向かった。


夕刻、門の内側から小さな返事が届いた。

王の署名はない。

城内の医師と炊事係が、負傷者用の食料だけでも受け取りたいと申し出たのだ。

シリウスは書面を丁寧に畳んだ。

王都の門はまだ閉ざされている。

それでも、壁の向こうには話の通じる人間がいた。

王都の城壁が見えたとき、若い砲兵が息を呑んだ。

「あそこに敵の旗があります」

シリウスは望遠鏡を下ろした。

旗の下には見張り台があり、そのさらに下には洗濯物が干されている。

城壁の内側にも人が暮らしていた。

「砲門を下げろ」

命令が伝わるまで、誰も声を出さなかった。

勝利が目前にあるからこそ、最も危険な命令だった。

停戦の白旗を掲げた使者が門へ近づいた。

城壁から石が落ち、馬が跳ねた。

帝国兵が弓を構える。

シリウスは腕を上げて止めた。

石を投げたのは兵士ではなく、腹を空かせた少年だった。

少年はすぐに衛兵に引きずられた。

シリウスは使者にもう一通の書面を渡した。

「王への降伏勧告とは別に、城内への食料搬入を申し入れる」

王都を落とす前に、王都の明日を残す。

それが彼の選んだ勝利だった。

停戦の使者が城門に近づくと、城壁から石が一つ落ちた。

矢ではない。

飢えた市民が投げた小石だった。

「食料があるなら見せろ!」

シリウスは兵に麦袋を一つ開けさせ、城外の避難民へ最初の粥を配った。

城門の内側から見える位置で火を起こす。

「門を開ける条件にしないのですか」とガイル。

「飢えを交渉の武器にしたら、我々も同じだ」

湯気を見つめる城壁の兵が、ゆっくり弓を下ろした。

夜、城門の向こうから鐘が二度鳴った。

医師たちが食料を受け取るために使う合図だった。

シリウスは荷車の護衛を最小限にし、袋の封印を王国側の代表に確かめさせた。

城壁から見守る弓兵の指は弦にかかったままだったが、矢は飛ばなかった。

最初の袋を受け取った炊事係は、王国の制服を着ていた。

「これは陛下の許可を得ていない」と彼は震えた。

「病人のために必要だと、あなたが判断したのでしょう」とシリウスは答えた。

男は深く頭を下げ、袋を運んだ。

城門が閉まる音は重かった。

それでも、翌朝にはまた二度の鐘が鳴るかもしれない。

シリウスは攻城槌の縄を解かせず、その鐘を待つことにした。

城外の野営地で、兵たちは攻城用の石を運ぶ手を止めた。

代わりに荷車の車輪を直し、配給用の袋を数え始める。

敵城の前でそんな作業をする軍を、誰も見たことがなかった。

シリウスは笑わなかった。

戦争を終わらせるには、剣を置いた後の仕事が必要だった。

夜になっても城門は開かなかった。

ガイルは「明日こそ攻撃を」と進言したが、シリウスは城内へ届ける書状の文面を読み直していた。

降伏の条件より先に、食料を受け取るための安全な通路を提案する。

使者には白旗を二本持たせた。

一つが倒れても、もう一つが見えるように。

セリーナからの返答はまだない。

シリウスは机の上の灯を消さず、城壁の見張りが交代する時刻まで待った。

攻撃しないという命令も、兵にとっては耐えることを求める命令だった。


翌朝の配給に備え、パルラは鍋の数を数えた。

シリウスは攻城用の縄を運ぶ兵を、井戸の水汲みへ回した。

兵の一人が「敵城を落とすより骨が折れます」と笑う。

「その通りだ」とシリウスは答えた。

壊す準備は数日で終わる。

人を生かす仕事は、その後も続いていく。

停戦の使者が王都へ向かう直前、帝国軍の兵士がシリウスを呼び止めた。

「城壁の上から矢を射られたら、こちらだけが損をします」

シリウスは頷いた。

「だから盾は下ろすな。だが、こちらから最初の矢を放つな」

護衛の配置を改め、配給車の前に負傷者用の空荷車を置いた。

万一矢が飛べば、食料より先に人を退避させるためだ。

城門の向こうで鐘が鳴った。

降伏の合図か、警戒の合図か、まだ誰にも分からない。

シリウスは剣を抜かず、返事を待った。

停止命令は前衛だけでなく、投石機の担当と後方の騎兵にも伝えられた。

伝令が戻るまで攻城準備を再開しない。

シリウスは門前の避難民が移動したことを、目で確かめてから次の指示を出した。

王都の城門から白い布を掲げた使者が現れたが、背後の塔では弓兵が矢をつがえていた。

ガイルは攻撃許可を求めた。

シリウスは首を横に振った。

「使者を守る者と、矢を放つ者が同じ命令を受けているとは限らない」

彼は互いの射程外に交渉地点を設けた。

最初に守るべきは、言葉を交わせる距離だった。

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