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無能と罵られ追放された天才軍師、敵国で英雄になる ~追放した王国が、今さら停戦を求めて土下座してきても遅い~  作者: レモンティー


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第六十三話 王国軍は、自国の村へ食料を運ぶ帝国軍を襲撃した

襲撃を受けた御者は、次の便への参加を拒んだ。

「食料を届けるために死ぬのは、もう御免です」

シリウスは説得しなかった。

負傷者と希望者を後方へ戻し、護衛の経路を変更した。

救援の名の下に、荷を運ぶ者の拒否権まで奪ってはならない。

峠から矢が一本飛んできたとき、先頭の御者は荷車を止めなかった。

二本目が車輪の木枠を裂き、ようやく馬が悲鳴を上げた。

「王国軍です!」

伝令の声に、シリウスは積荷の位置を真っ先に確認した。

峠の曲がり角で王国軍の騎兵が現れた。

荷車の先頭に矢が刺さり、御者が馬を伏せさせる。

白旗を持つ兵が叫んだ。

「積荷は村の食料だ!」

返ってきたのは「敵軍の物資は押収せよ」という命令だった。

シリウスは村へ向かう道を封鎖させ、戦場を家々から遠ざけた。

ガイルは反撃の許可を求めた。

シリウスは射手を土手の陰へ移し、敵騎兵の進路に空の荷車を横向きに置かせた。

馬が止まったところへ槍兵が出る。

追撃は禁じた。

倒れた王国兵が泥の中で腕を押さえていたが、パルラは帝国兵と同じ包帯を巻いた。

「どうして敵を助ける」と護衛が聞く。

「今は患者よ」と彼女は答えた。

捕らえた王国兵の腰には空の弁当袋があった。

シリウスが積荷の麦を見せると、兵は唇を噛んだ。

「村に届けると言ったな。本当なのか」

村から駆けてきた老人が、荷車の横で頭を下げた。

「孫が二日ぶりに食べた」

兵は目を逸らした。

上官からは、帝国軍が村の井戸に毒を入れると聞かされていたのだ。

王国側の小隊長は降伏を拒んだが、部下の負傷者を引き渡すと告げられると剣を下ろした。

シリウスは武器を回収し、治療後の帰還を認めた。

帰り際、小隊長は「次は命令に逆らえない」と吐き捨てた。

「なら、命令の中身を確かめてから来い」とシリウス。

小隊長は返事をしなかった。

けれど彼の目は、白旗ではなく麦袋に向いていた。

襲撃は村へ続く一本道で起きた。

王国軍の弓兵は荷車を狙ったが、矢は食料袋ではなく先頭の牛に刺さった。

牛が暴れ、荷車が横倒しになる。

シリウスは追撃命令を止め、まず御者を車輪の下から引き出させた。

「敵が逃げます!」

「荷車の下に人がいる。先に助ける」

ガイルは兵を二隊に分けた。

一隊が盾を並べて道を塞ぎ、もう一隊が横倒しの荷車を起こす。

弓兵は撃ち続けられなくなった。

盾の背後から反撃が来ないことに戸惑ったのだ。

捕らえた隊長の命令書には「敵への兵糧供与を阻止せよ」とだけあった。

シリウスは村の配給名簿と照らし合わせた。

「帝国軍に渡す食料ではない。王国の村人に届ける食料だ」

隊長は答えず、牛の傷を見た。

御者が獣医の手当てを受けさせている。

王国軍の兵が「牛まで助けるのか」と呟いた。

「牛が死ねば、次の荷車を引けなくなる。次に飢えるのは村だ」

隊長は目を伏せた。

シリウスは彼の武器を取り上げたまま、村への食料搬入を妨げない旨の証文を書かせた。

捕虜の証言を得ることより、次の輸送路を開くことが先だった。

襲撃の合図は角笛ではなかった。

丘の向こうで、鳥が一斉に飛び立ったのだ。

斥候の報告を受けたシリウスは、荷車を円陣に組ませず、先頭だけを林の陰へ入れた。

「食料を盾にするな。人を守るための物資だ」

護衛の盾兵を道路の両側へ下げ、村人の避難路を開ける。

襲撃軍が狙うのは帝国の旗か、それとも積荷か。

その答えを見誤れば、最初に犠牲になるのは戦う力のない者たちだった。

王国軍の若い隊長が捕らえられた。

「食料を敵に渡すなと命じられた」と彼は繰り返した。

シリウスは彼の前に村の配給名簿を置いた。

「ここに書かれた子どもも敵か」

隊長は黙った。

彼の懐には、故郷の母親から届いた手紙があった。

冬を越す麦が足りないと書かれている。

シリウスは手紙を返し、負傷した王国兵も帝国の野戦病院へ運ばせた。

隊長が初めて顔を上げたのは、自軍の負傷者が見捨てられないと知った時だった。

襲撃後、シリウスは敵の矢を一本拾った。

矢羽には王国の補給部隊の印がある。

「正規の護衛隊まで、食料を奪う命令を受けている」

ガイルは敵将の首を取るべきだと言った。

シリウスは矢を机に置き、護衛隊の移動経路を書き出した。

次の輸送では荷車を一列にせず、村への入口を二つに分ける。

敵を倒すためではない。

どちらかが襲われても、もう一方が食料を届けるためだった。

戦闘のあと、道端に落ちた矢を拾っていた少女が、突然泣き出した。

矢羽根の色が王国軍のものだったからだ。

「お父さんも同じ矢を作ってた」

彼女の父は徴兵され、帰っていない。

シリウスは少女から矢を取り上げず、矢尻だけを外させた。

危険をなくした矢羽根は、帰還した父を見分ける手がかりになるかもしれない。

捕虜の隊長に父の名を尋ねると、彼は所属部隊を思い出した。

「北の駐屯地へ移されたはずだ」

確かな情報ではない。

それでもシリウスは、推測だと明記して伝令を出した。

少女に希望を売るのではなく、調べるべき道筋を渡すためだった。

荷車の修理が終わる頃、襲撃を受けた御者が再び手綱を握った。

腕には包帯が巻かれている。

「休め」とシリウスが言うと、御者は首を振った。

「この村までなら道を知っています」

シリウスは交代の御者を隣に座らせ、無理をさせない条件で出発を許した。

襲撃で壊れた荷車を調べると、車軸にひびが入っていた。

次の峠を越えれば折れるだろう。

シリウスは荷を別の車に移し、傷んだ車をその場に残すよう命じた。

御者が抗議する。

「この車は父の形見です」

シリウスは言い返さず、修理に必要な木材と職人の名を記録させた。

「帰りに取りに来る。約束できるのはそこまでだ」

御者は車輪に手を置き、しばらく動かなかった。

軍の作戦図には、車を失う者の名前までは書かれていない。

だからこそ、記録から消してはならないとシリウスは考えた。

次の峠に入る前、御者たちは自分たちで見張りの順番を決めた。

帝国兵に任せきりでは、道の危険を知らせるのが遅れるからだ。

シリウスはその案を採用し、護衛隊の合図も御者に教えた。

守られるだけの者を増やすより、危険を一緒に見つけられる者を増やす。

その方が荷車は遠くまで進める。

峠の麓で、襲撃に加わった若い王国兵が担架に横たわっていた。

彼は帝国の荷車を指して「毒を積んでいると聞かされた」と呟いた。

パルラは包帯を結び終え、積み荷の封を彼の目の前で切った。

麦と乾燥豆がこぼれる。

「これを村へ届けるために、何人死んだ?」

兵は答えられなかった。

シリウスもすぐには答えず、戦死者と負傷者の数を確認させた。

救援の名で犠牲を隠せば、次の護衛は同じ間違いを繰り返す。

次の輸送隊には護衛だけでなく、襲撃地点を避けるための先行偵察を付けた。

道を変える理由は村にも知らせた。

到着時刻がずれれば、配給所で待つ子供たちが一日食べられなくなるからだ。


翌朝、荷車の先頭には兵の名前ではなく、届け先の村名を書いた旗が掲げられた。

護衛隊の一人が、襲撃してきた王国兵の腕に同じ村の織物を巻いているのを見つけた。

「あの兵も、ここから徴発されたのかもしれません」

シリウスは捕虜の出身地を調べるよう命じた。

村人の中には襲撃者の家族がいた。

配給を止めずに事情を調べたことで、報復の連鎖は避けられた。

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