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無能と罵られ追放された天才軍師、敵国で英雄になる ~追放した王国が、今さら停戦を求めて土下座してきても遅い~  作者: レモンティー


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第六十二話 俺は敵国の村に、食料を運ぶよう命じた

出発前、補給長は荷車百台のうち二十台を残すよう求めた。

「帰路で橋が落ちれば、兵の食料も尽きます」

シリウスは村の人口と輸送日数を計算し直し、最初の隊を八十台に減らした。

残り二十台は次便と護衛隊の予備に回す。

「百台と命じたから百台を出すのではない。届く量を増やすために、計画を変えます」

白旗を結んだ荷車が八十台、帝国軍の陣を出た。

護衛の兵が尋ねた。

「敵地で白旗を撃たれたら?」

シリウスは荷台の麦袋を見た。

「逃げ道を先に確かめる。だが荷を捨てる判断は、村人の命と比べて決める」

荷車百台を王国領へ入れると聞き、ガイルは顔をしかめた。

「兵糧を敵に渡す軍など聞いたことがない」

シリウスは積荷の半分が子供と病人のための乾燥豆で、残りが麦と塩だと説明した。

白旗は掲げるが護衛は外さない。

攻撃されれば逃げる道も確保する。

「慈善ではありません。飢えが続けば、どちらの軍も民衆の敵になる」

最初の村では井戸の周りに誰もいなかった。

戸口から覗く顔は恐怖に固まり、老女は子を背中に隠した。

パルラが先に馬を降り、荷車の蓋を開けて麦を掌に載せた。

毒を疑う男の前で、彼女は自分で麦粥を口にした。

ようやく一人が椀を差し出し、次に二人、三人と続いた。

列ができるまで一刻かかった。

村長は受領書に署名することを拒んだ。

「王国の役人に見つかれば処刑される」

シリウスは紙を破らなかった。

受領した家の名は記さず、袋の数だけを村の共有帳面に残し、写しは封筒に入れて村長に託した。

「我々の手柄を示すためではない。次に来た者が二重に奪わないためです」

村長は震える指で印を押した。

配給が終わった夕方、荷車の車輪に泥を塗っていた少年が捕まった。

少年は「帝国軍が戻れなければ王国兵に褒められると思った」と泣いた。

ガイルが叱ろうとすると、シリウスは少年の膝の擦り傷を指した。

「手当てをして帰そう」

少年は驚いて顔を上げた。

彼にとって敵国とは、初めて自分を殴らなかった軍隊の名前になった。

輸送隊の最後尾が遅れた。

橋板の一本が腐り、荷車の車輪が深く沈んだのだ。

先頭の兵は急いで引き返そうとしたが、シリウスは村への到着予定を先に知らせた。

「遅れると知れば、配給の列を夜まで立たせずに済む」

荷車を軽くするため、兵たちは袋を肩に担いで橋を渡った。

リュカは馬を降り、対岸で一袋ずつ数えた。

ところが帳面の数字より一袋少ない。

疑いの目が向いたのは、案内役の少年だった。

「僕は盗ってない!」

シリウスは荷台の底を調べさせた。

裂けた麻袋から麦が車輪の隙間へ落ち、泥に混じっていた。

少年の疑いは晴れたが、謝罪はなかなか出なかった。

シリウスは兵を集めて言った。

「食料を守るための護衛が、食料を待つ者を傷つけてどうする」

村へ着いたとき、最初に渡したのは麦ではなく配給表だった。

家族の人数、乳児と病人、火を使えない家を村人に確かめてもらう。

老人は敵軍の帳面を信用しなかったが、誤字を一つ直すと自分から次の行を指さした。


その夜、炊き出しの湯気が広場に上がった。

護衛の兵が空腹を訴えると、村の女が椀を差し出した。

敵味方の印がない、同じ麦粥だった。

その後、ガイルは襲撃に備え、シリウスは配給台帳を村の長老に預けたという動きが生まれた。

彼はその違いを部下に何度も教えた。

輸送隊を率いるリュカは、荷車の車輪を一つずつ蹴って確かめた。

「槍を持った兵より、泥道の方が怖いとはな」

道案内の少年が首を横に振る。

「雨が降ったら、川沿いは沈みます」

シリウスは少年を地図の前へ呼び、指で示させた。

軍の地図には一本の道しか描かれていない。

しかし村人は、収穫期に牛を通す細道を知っていた。

荷車を二列に分け、橋の手前に修理用の木材を置く。

速さより、必ず届くことを選んだ。


夕刻、配給の列に王国軍の制服を着た少年兵が並んだ。

村人が「奪いに来た」と叫び、列が崩れかける。

少年兵は武器を持っていなかった。

「妹の分だけ欲しい」

パルラは彼を列の最後尾へ案内した。

シリウスは兵士だからという理由で追い返さず、村の代表に配給記録を付けてもらった。

「敵味方を問わない代わりに、二度受け取りもしない」

少年は初めて顔を上げた。

村に入った先頭の荷車へ、老人が石を投げた。

「敵の旗を掲げて、何をしに来た!」

護衛が槍を上げかけるのを、リュカが制した。

シリウスは荷台の覆いを外し、小麦と塩を見せた。

「受け取るかどうかは、あなた方が決めてください」

老人は長いこと動かなかった。

最初に近づいたのは、彼の背後にいた孫だった。

袋を開く音だけが広場に響いた。

老人は礼を言わず、石を拾って道端へ戻した。

それで十分だった。


翌朝、配給を受けた村人の中から腹痛を訴える者が出た。

帝国兵が毒を入れたという噂が走り、広場に緊張が広がった。

パルラは食べた物と症状を一人ずつ聞き、腐敗した井戸水を飲んだ家に患者が集中していることを突き止めた。

「我々の麦が原因でないと決めつけるな」とシリウスは命じた。

残りの袋も検査し、問題がないことを村の代表と確かめる。

疑惑を力で黙らせれば、次の輸送隊は村へ入れない。

パルラは水を煮沸する方法を教え、兵たちは薪を運んだ。

老人がようやく「次も来るのか」と尋ねた。

「必要なら」とシリウスが答えると、老人は道のぬかるみを避ける近道を教えた。

荷車の列が次の村へ向かう前、村長が道端で頭を下げた。

「あんたたちが来なくなったら、また奪われる」

シリウスは帝国軍の旗を村に残す提案を退けた。

旗は王国軍にとって攻撃の口実になる。

代わりに、配給を受けた家の数と残量を二通の帳面に記し、一通は村に、一通は隣村へ渡すよう頼んだ。

村同士が互いの不足を知れば、次の荷車をどこへ向けるか判断できる。

パルラは子供たちに水を沸かす方法を教えた。

食料を置くだけでは終わらない仕事が、荷車の出発を一刻遅らせた。

ガイルは時計を見たが、催促しなかった。

護衛兵は帰路、配給を受けた家の煙突から煙が上がるのを見た。

出発時には閉ざされていた窓が開き、子供が手を振っている。

兵は手を振り返そうとしてためらった。

王国の子に笑いかけていいのか。

シリウスは先に手を上げた。

兵も続いた。

敵国という言葉が、あの窓の向こうの家族まで指す必要はなかった。

配給の列の最後に、王国兵の制服を着た男が立っていた。

腕には負傷した子供を抱いている。

帝国の護衛は男を追い返そうとしたが、シリウスは子供の呼吸を確かめさせた。

「兵士の分まで配れば、村人の食料が減ります」と補給長が言う。

「この子の分は、最初から数えてある」

男は制服の袖で顔を拭い、子供をパルラに預けた。

シリウスは男の武器を預かり、配給が終わったあと事情を聞くことにした。

敵兵を助けることと、無警戒に通すことは同じではない。

最初の八十台を送り出した後、シリウスは次便の予定を村長へ渡した。

食料が一度届くだけでは、種麦を食べずに済むとは限らない。

軍の備蓄が減れば輸送を止める条件も、隠さず伝えた。

救援の食料を受け取った村長が、帝国軍への礼として王国旗を下ろそうとした。

シリウスはそれを止めた。

「旗を替えるために運んだのではありません。子供が食べられるように運んだのです」

村長は旗を元に戻し、配給表の先頭に病人と乳児の名を書き加えた。

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