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レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


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40/48

第40話 最初の半身

巨大な黒い目が。


 世界の果てで。


 ゆっくりと開いた。


「……」


 誰も。


 言葉を発しなかった。


 オルフェだけが。


 険しい顔で。


 その目を見つめている。


「まずい」


 私は。


 オルフェを見る。


「そんなに危ないの?」


「ああ」


「でも」


 私は。


 空を見る。


「虚無の王は」


「私のお父さんなんだよね?」


 その言葉に。


 全員が。


 固まった。


「……」


 セレナが。


 困ったような顔をする。


「ミア」


「うん?」


「それは」


「まだ……」


「確定じゃない」


「え?」


 セレナは。


 虚無の王を見る。


「千年前」


「あいつは」


「あなたを娘と呼んでいた」


「でも」


「血の繋がりがあるわけじゃない」


「じゃあ」


 私は。


 ノクスを見る。


「ノクスは?」


「……」


 ノクスが。


 静かに笑う。


「私は」


「ミアから生まれた」


「……!」


     ◇


「私から?」


「うん」


 ノクスが。


 私の前に立つ。


「正確には」


「あなたが」


「まだ自分というものを持っていなかった頃」


「あなたの中には」


「二つの意思があった」


「二つ……」


「一つは」


「この世界を守りたいあなた」


「そして」


「もう一つは」


「世界を壊したいあなた」


 私は。


 リナを思い出した。


「じゃあ」


「リナと同じ?」


「違う」


 ノクスは。


 首を横に振る。


「リナは」


「あなたが後から切り離した感情」


「私は」


「もっと前」


「あなたがまだ」


「世界を選ぶ前に存在していた」


「……」


 セレスが。


 静かに口を開く。


「ノクスは」


「ミアの最初の可能性」


「可能性?」


「うん」


「ミアが」


「どんな存在になるのか」


「まだ決まっていなかった頃」


「その一つ」


 ノクスが。


 笑う。


「私は」


「世界を壊す側のミアだった」


     ◇


「……じゃあ」


 私は。


 ノクスを見る。


「あなたは」


「私なの?」


「そう」


「でも」


「私はあなたじゃない」


「……?」


「あなたが」


「私を切り離したから」


「私は」


「あなたとは違う存在になった」


 私は。


 少し考える。


「じゃあ」


「どうして私を恨まないの?」


 ノクスが。


 驚いた顔をする。


「恨んでほしい?」


「ううん」


「なら」


「どうして?」


 私は。


 笑う。


「仲間だったんでしょ?」


 ノクスが。


 目を見開いた。


「……」


「だったら」


「仲間に戻ればいいよ」


「……」


 ノクスの目から。


 一粒。


 涙が落ちた。


「あなたは」


「本当に変わらない」


「そうかな?」


「うん」


「千年前も」


「そうだった」


     ◇


 突然。


 空が。


 真っ黒に染まった。


『――ミア』


 虚無の王の声。


「……」


『そこにいるのか』


 私は。


 空を見る。


「いるよ」


『ノクスもか』


「うん」


『……そうか』


 虚無の王の声が。


 少しだけ。


 寂しそうだった。


『ならば』


『もう隠せないな』


 巨大な黒い影が。


 空を覆う。


『ノクスは』


『私が作った存在ではない』


「……!」


『ミア』


『ノクスは』


『お前が私を殺すために』


『自分自身から切り離した』


「……」


 私は。


 息を呑んだ。


「私が?」


『そう』


『お前は』


『私を殺すことを決めた』


『その瞬間』


『自分の中にあった』


『私への情を捨てた』


「……」


 ノクスが。


 俯く。


『その情が』


『ノクスになった』


「じゃあ」


 私は。


 ノクスを見る。


「あなたは」


「私が」


「お父さんを殺すために」


「捨てたもの?」


「……うん」


     ◇


 胸が。


 苦しくなった。


 私は。


 ノクスへ近づく。


「ごめん」


「……え?」


「私」


「あなたを捨てたんだね」


 ノクスは。


 首を横に振る。


「違うよ」


「え?」


「あなたは」


「私を捨てたんじゃない」


「……」


「あなたは」


「私を守った」


「どうして?」


「私が」


「あなたの心を壊さないように」


「……」


 ノクスが。


 笑う。


「だから」


「私は」


「怒ってない」


     ◇


 私は。


 少しだけ。


 泣きそうになった。


「……ありがとう」


「うん」


 ノクスが。


 私の手を握る。


 その瞬間。


 私の胸が。


 強く光った。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 世界の核が。


 白く輝く。


 そして。


 ノクスの身体から。


 黒い光が。


 流れ込んでくる。


「……!」


 シエラが。


 驚く。


「これは」


「融合……?」


「違う」


 セレスが。


 首を横に振る。


「統合」


「ミアが」


「自分の一部を」


「受け入れている」


 私は。


 目を閉じる。


 頭の中に。


 知らない記憶が。


 流れてくる。


     ◇


 白い世界。


 幼い私。


 ノクス。


 セレス。


 ノア。


 そして。


 ルナ。


 みんなで。


 走っている。


「待って!」


 幼い私が。


 笑う。


「ノクス!」


「早く!」


「分かってる!」


 四人で。


 笑っている。


 その先に。


 一人の男。


 虚無の王が。


 立っている。


「また来たのか」


「うん!」


 幼い私が。


 抱きつく。


「お父さん!」


 虚無の王が。


 一瞬。


 驚いた顔をして。


 そして。


 幼い私の頭を撫でる。


「……そうか」


「今日は」


「何をした?」


「世界の外まで行った!」


「危ないな」


「大丈夫!」


「そうか」


 その光景は。


 あまりにも。


 普通だった。


 父親と。


 娘。


 ただそれだけ。


     ◇


 しかし。


 次の記憶では。


 空が。


 真っ赤だった。


 虚無の王が。


 世界を壊そうとしている。


「どうして……」


 幼い私が。


 泣いている。


「お父さん」


「やめて」


 虚無の王が。


 振り返る。


「ミア」


「私は」


「この世界を終わらせる」


「嫌」


「なぜ?」


「みんながいるから」


「ならば」


 虚無の王が。


 手を伸ばす。


「私と来い」


「……」


「二人で」


「新しい世界を作ろう」


 幼い私は。


 首を横に振る。


「嫌」


「どうして」


「私は」


「この世界が好き」


 虚無の王が。


 目を閉じる。


「そうか」


 そして。


 白い剣を。


 幼い私へ渡した。


「ならば」


「私を止めろ」


「……!」


「お前なら」


「できる」


「お父さん……」


「怖いか?」


「怖い」


「それでも」


「選べ」


 幼い私が。


 泣きながら。


 剣を握る。


「……ごめんなさい」


 白い剣が。


 虚無の王を貫く。


     ◇


 記憶が。


 そこで途切れた。


「……」


 私は。


 目を開けた。


 涙が。


 頬を伝っていた。


「お父さん……」


 空から。


 虚無の王の声がする。


『泣くな』


「でも」


『お前は』


『間違っていない』


「……」


『あの時』


『私は』


『お前に選ばせた』


『だから』


『お前は』


『何も悪くない』


 私は。


 空を見る。


「じゃあ」


「どうして今」


「私を連れていこうとするの?」


 しばらく。


 沈黙が続いた。


 そして。


『……怖いからだ』


「え?」


『お前が』


『もう一度』


『私を選ばないことが』


「……」


『だから』


『今度は』


『お前に選ばせたくない』


     ◇


 私は。


 その言葉を聞いて。


 悲しくなった。


「それは」


「お父さんじゃないよ」


『……』


「私が好きだったお父さんは」


「私に」


「ちゃんと選ばせてくれた」


「……」


「だから」


「私も」


「お父さんに選んでほしい」


 虚無の王が。


 黙る。


「世界を壊すか」


「私たちと生きるか」


「お父さん自身が」


「選んで」


 長い沈黙。


 やがて。


『……』


『考えておこう』


 黒い空が。


 ゆっくり消えていく。


 虚無の王が。


 去っていった。


     ◇


 私は。


 ノクスを見る。


「大丈夫?」


「うん」


「私」


「あなたのこと」


「もっと知りたい」


 ノクスは。


 笑った。


「じゃあ」


「白都へ行こう」


「どうして?」


「そこに」


「あなたが」


「千年前に最後に見た場所がある」


「最後に……?」


「うん」


 ノアが。


 静かに言った。


「白都の中心には」


「始原の時計塔がある」


「時計塔?」


「そこには」


「千年前の記録が残っている」


 セレスが。


 続ける。


「そして」


「そこには」


「ミアが最後に」


「世界を選んだ瞬間の記録もある」


「……」


 私は。


 少しだけ。


 怖くなった。


「私」


「本当に見ても大丈夫かな」


 レオンが。


 隣に立つ。


「怖かったら」


「俺たちがいる」


「……うん」


 私は。


 笑った。


「行こう」


     ◇


 白都へ向かう道。


 その途中。


 私は。


 ふと振り返った。


 遠く。


 黒い空が。


 一瞬だけ赤く光る。


 虚無の王。


 まだ。


 こちらを見ている。


 でも。


 もう。


 怖くなかった。


 私は。


 歩き出す。


 その時。


 ノクスが。


 小さな声で言った。


「ミア」


「なに?」


「一つだけ」


「まだ言ってないことがある」


「……?」


「千年前」


「あなたが」


「お父さんを殺したあと」


「もう一人」


「殺した」


 私は。


 足を止めた。


「……誰を?」


 ノクスは。


 答えなかった。


 ただ。


 白都の方向を見る。


「時計塔に行けば」


「分かる」


「……」


 胸の奥が。


 また。


 痛くなった。


 私は。


 歩き続けた。


 そして。


 その夜。


 夢を見た。


 血に染まった白い剣。


 泣いている私。


 倒れている虚無の王。


 そして。


 その隣に立っている。


 もう一人の少女。


 私は。


 その少女へ。


 白い剣を向けていた。


「……違う」


 夢の中の私が。


 泣きながら言う。


「あなたまで」


「殺したくない」


 少女が。


 私へ微笑む。


「大丈夫」


「ミア」


「私を殺せば」


「あなたは」


「普通の女の子になれる」


「……!」


 私は。


 目を覚ました。


 心臓が。


 激しく鳴っている。


「……誰だったの?」


 窓の外。


 白い月が。


 静かに輝いていた。


 そして。


 遠くの白都から。


 一度だけ。


 巨大な鐘の音が鳴った。


 ――ゴォォン。


 時計塔が。


 千年ぶりに。


 動き始めた。

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