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レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


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第35話 血に染まった母

白い世界。


 何もない場所に。


 一人の女性が立っていた。


 黒い翼。


 赤い瞳。


 銀色の髪。


 そして。


 手にした白い剣は――


 血で染まっていた。


「……お母さん」


 私は。


 震える声で呟いた。


 女性が。


 ゆっくり振り返る。


「ミア」


 その声。


 間違いない。


 私がずっと聞いてきた。


 母の声。


「お母さん……?」


「ええ」


 女性は。


 優しく微笑んだ。


「久しぶりね」


「……」


 私は。


 その場から動けなかった。


 だって。


 私の知っている母は。


 こんな姿じゃない。


 黒い翼なんてなかった。


 赤い瞳でもなかった。


 血まみれの剣なんて。


 持っていなかった。


「あなたは……誰?」


 女性が。


 少し悲しそうに笑った。


「あなたのお母さんよ」


「でも……」


「今の私とは」


「少し違うわね」


     ◇


 背後から。


 始原の王の声が聞こえた。


「……ルナ」


 女性が。


 振り返る。


「久しぶりね」


「なぜ、その姿を……」


「忘れていたの?」


 ルナは。


 白い剣を見つめる。


「これが」


「千年前の私よ」


「……」


 アレンが。


 苦しそうに顔を伏せた。


「ミア」


「聞かないほうがいい」


「どうして?」


「お前が知れば――」


「また自分を責める」


「……」


 私は。


 首を振った。


「もう嫌」


「え?」


「何も知らないままなのは嫌」


 私は。


 母を見る。


「私は」


「自分のことを知りたい」


「お父さんたちが隠していたことも」


「全部」


 ルナが。


 静かに頷いた。


「そうね」


「もう」


「隠せないわね」


     ◇


 ルナが。


 白い剣を床へ置いた。


 すると。


 周囲の景色が変わる。


 白い世界が。


 千年前の世界へ変わっていく。


 そこには。


 巨大な城があった。


 空は。


 真っ赤だった。


 地上では。


 無数の魔物が暴れている。


 そして。


 空には――


 巨大な黒い裂け目。


「これは……」


 シエラが。


 息を呑む。


「千年前の大災厄……?」


 ルナが。


 頷いた。


「そう」


「この時」


「虚無の王が」


「世界を飲み込もうとした」


     ◇


 映像の中。


 若いルナが。


 立っている。


 その隣には。


 始原の王。


 アレン。


 そして。


 幼いミア。


「……私」


 私は。


 映像の中の自分を見る。


 まだ。


 小さな女の子。


 ルナが。


 私を抱いている。


「かわいい……」


 クロエが。


 小さく呟いた。


 でも。


 誰も笑わなかった。


 なぜなら。


 その直後。


 黒い裂け目から。


 無数の腕が現れたから。


『世界を返せ』


『これは間違った世界だ』


『新しく作り直せ』


 虚無の王。


 その声。


 今よりも。


 ずっと大きかった。


 ルナが。


 剣を構える。


「この世界は」


「あなたのものではない」


『ならば』


『お前も消える』


 黒い波が。


 一気に押し寄せる。


 ルナが。


 片手を前に出す。


 巨大な光が。


 世界を包んだ。


「すごい……」


 私は。


 思わず呟いた。


 でも。


 ルナは。


 苦しそうだった。


「この時」


「私は」


「世界の力を使いすぎた」


     ◇


 映像が。


 さらに進む。


 アレンが。


 幼い私を抱いている。


「ミアを連れて逃げろ!」


 始原の王が叫ぶ。


「俺が時間を稼ぐ!」


「分かった!」


 アレンが走る。


 ルナが。


 後ろを振り返る。


 そこには。


 巨大な黒い影。


『ルナ』


『お前は知っているはずだ』


『この娘が何者なのか』


 ルナが。


 答えない。


『その娘は』


『この世界の外から来た』


 私は。


 息を呑んだ。


「……」


 セレスも。


 黙っている。


 虚無の王が。


 続ける。


『世界が生まれる前から存在した魂』


『それを』


『お前は娘として育てた』


 ルナが。


 剣を握る。


「この子は」


「私の娘よ」


『違う』


『お前が選んだだけだ』


「それでも」


 ルナが。


 叫ぶ。


「この子は私の娘!」


     ◇


 私は。


 胸が苦しくなった。


 母が。


 私を守ろうとしている。


 それだけは。


 分かった。


 でも。


 次の映像で。


 私は。


 言葉を失った。


 黒い裂け目の中から。


 白い光が落ちてくる。


 その光が。


 幼い私を包んだ。


「……何?」


 幼い私の身体が。


 宙へ浮かぶ。


 ルナが。


 必死に手を伸ばす。


「ミア!」


 でも。


 届かない。


 幼い私の胸から。


 小さな光が飛び出した。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 そして。


 その一つが。


 黒く染まる。


「……!」


 私は。


 思わず胸を押さえた。


「これ……」


 ルナが。


 静かに言った。


「あなたの魂は」


「最初から」


「一つではなかったの」


     ◇


「……え?」


 セレスが。


 目を伏せる。


 リナも。


 私の中にいる。


 そして。


 今見ている少女。


 さらに。


 黒く染まった光。


「じゃあ」


「私には……」


「何人もいるの?」


 ルナは。


 首を横に振った。


「違う」


「魂が分かれたのではないわ」


「あなたの存在が」


「いくつかの役割に分かれた」


「役割……?」


「世界を選ぶあなた」


「世界を守るセレス」


「世界を憎むリナ」


 ルナが。


 私を見る。


「そして」


「世界そのものを記憶する存在」


「……」


「それが」


「今まであなたが見ていた少女よ」


 私は。


 白い世界に立つ少女を見る。


「じゃあ」


「私たちは全部……」


「あなた自身」


「……」


 少女が。


 静かに笑う。


「そう」


「でも」


「まだ一つ」


「足りない」


     ◇


 突然。


 世界が。


 真っ暗になった。


「え?」


 何も見えない。


 声も聞こえない。


 そして。


 遠くから。


 誰かの泣き声がする。


「……誰?」


 私は。


 暗闇の中を歩く。


 一歩。


 また一歩。


 やがて。


 一人の少女が。


 膝を抱えて座っていた。


 黒い髪。


 青い瞳。


 白い服。


 小さな翼。


「……」


 少女が。


 顔を上げる。


 私は。


 息を呑んだ。


「あなた……」


 少女が。


 涙を流している。


「私」


「……?」


「あなたが」


「一番忘れたかったもの」


 私は。


 近づく。


「名前は?」


 少女は。


 答えない。


「どうして泣いてるの?」


「……」


「私は」


 少女が。


 小さな声で言った。


「あなたに」


「捨てられたから」


「……」


 胸が。


 痛くなる。


「私が?」


「うん」


「どうして?」


「あなたが」


 少女の青い瞳が。


 赤く染まる。


「世界を選んだから」


     ◇


 私は。


 立ち尽くした。


「じゃあ」


「あなたは……」


「そう」


 少女が。


 笑う。


「私は」


「あなたが捨てた」


「『世界を壊したいという心』」


「……」


 リナとは。


 違う。


 リナは。


 私から切り離された感情の一部。


 この少女は。


 もっと根本。


 私が世界を選ぶために。


 自分自身から切り離した。


「だから」


 少女が。


 立ち上がる。


「あなたは」


「私を殺した」


「……!」


 私は。


 また。


 その言葉を聞いた。


「殺した……?」


「うん」


「でも」


「私は死ななかった」


「ずっと」


「あなたの中にいた」


     ◇


 少女が。


 私へ手を伸ばす。


「ねえ」


「ミア」


「もう一度」


「私を選んで」


「……」


「今度は」


「世界じゃなくて」


「私を」


 私は。


 手を伸ばしかける。


 でも。


 その瞬間。


 レオンの声が聞こえた。


「ミア!」


 現実の声。


「戻ってこい!」


 私は。


 振り返った。


 白い世界の向こうに。


 みんながいる。


 レオン。


 シエラ。


 クロエ。


 ガルド。


 アリシア。


 セレナ。


 ルナ。


 アレン。


 始原の王。


 そして。


 セレス。


 みんなが。


 私を見ている。


 私は。


 少女を見る。


「ごめん」


 少女が。


 悲しそうに笑う。


「やっぱり」


「あなたは世界を選ぶの?」


「違う」


「……え?」


 私は。


 手を差し出す。


「私は」


「世界も」


「あなたも」


「どっちも捨てない」


 少女の目が。


 大きく開く。


「……そんなこと」


「できるの?」


「分からない」


 私は。


 笑った。


「でも」


「やってみる」


     ◇


 その瞬間。


 少女の身体から。


 黒い光が溢れ出した。


 世界が。


 大きく揺れる。


『選択不成立』


 声が響く。


『一つを選べ』


「嫌」


『一つを選べ』


「嫌だよ」


『世界か』


『自己か』


「どっちも!」


 私は。


 叫んだ。


「私が私でいるために」


「どっちも必要なんだよ!」


 その瞬間。


 少女が。


 泣いた。


 そして。


 私の胸へ飛び込んできた。


「……!」


 光が。


 私の身体へ戻ってくる。


 白。


 黒。


 赤。


 青。


 すべての光が。


 一つになる。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 心臓が。


 大きく鳴った。


     ◇


 現実へ戻る。


「ミア!」


 レオンが。


 私を抱き止めた。


「……ただいま」


「……!」


 レオンが。


 ほっとした顔をする。


「よかった……」


 私は。


 周りを見る。


 みんながいる。


 そして。


 私の胸の中に。


 今まで感じたことのない力がある。


 でも。


 怖くない。


「ミア」


 セレスが。


 私を見る。


「何を思い出した?」


 私は。


 少し考える。


「……いっぱい」


「でも」


 私は。


 笑った。


「まだ全部じゃない」


 セレスも。


 笑う。


「そう」


     ◇


 すると。


 空に。


 新しい表示が浮かんだ。


 『第零封印――再構築』


 『完全解除――失敗』


「え?」


 シエラが驚く。


「失敗?」


 続いて。


 表示が変わる。


 『新しい状態へ移行します』


 『第零封印――統合』


 そして。


 最後に。


 たった一行。


 『ミア・ルナベル――存在定義を更新』


 私は。


 その文字を見る。


「存在定義……?」


 その瞬間。


 世界の音が。


 全部消えた。


 神族も。


 魔族も。


 王都も。


 星空も。


 全てが止まる。


 そして。


 私の目の前に。


 一つだけ。


 新しい表示が出た。


 『レベル――』


 私は。


 思わず笑った。


「今さらレベル?」


 表示が。


 ゆっくり更新される。


 『Level 1』


「……」


 私は。


 首を傾げた。


「やっぱり1だ」


 クロエが。


 呆れた顔をする。


「そこ気にする!?」


 しかし。


 その下に。


 小さな文字が現れた。


 『世界法則適用外』


 さらに。


 その下。


 『本来の階位――測定不能』


 そして。


 最後に。


 今まで存在しなかった項目が。


 表示された。


 『称号――』


 そこに。


 一つの名前が浮かぶ。


 ――『世界を選びし者』


 私は。


 その文字を見つめる。


 すると。


 王都の地下から。


 巨大な扉が開いた。


 その奥から。


 聞き覚えのある声が響く。


『よく戻った』


『ミア』


『次は――』


『お前が生まれた場所へ帰ろう』


 ルナの顔が。


 再び青ざめる。


「……まだ」


 小さく呟く。


「そこまで行くのは」


「早すぎる……」


 私は。


 母を見る。


「お母さん」


「うん?」


「私が生まれた場所って」


「どこなの?」


 ルナは。


 しばらく黙っていた。


 そして。


 ゆっくり答えた。


「――この世界ではないわ」


 王都の地下に。


 星空よりも深い。


 新たな道が開いた。


 その先には。


 まだ見たことのない世界が。


 待っていた。

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