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レベル1の村娘、実は世界最強でした  作者: ななほし


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第34話 私自身を選ぶ

静かだった。


 あれほど騒がしかった王都が。


 神族の軍勢も。


 魔族も。


 騎士たちも。


 全員が空を見上げていた。


 そこに浮かぶ文字。


 『第零封印――第四条件達成』


 そして。


 『最終条件――自分自身を選ぶこと』


「……自分自身」


 私は。


 その言葉を繰り返した。


「どういう意味?」


 シエラが。


 表示を見つめる。


「普通に考えれば、自分の意思を選ぶということだと思います」


「でも」


 セレスが。


 首を横に振った。


「違う」


「え?」


「この封印は」


「そんな簡単なものじゃない」


 セレスが。


 私を見る。


「ミア」


「あなたは今まで」


「ずっと誰かを選んできた」


「世界」


「仲間」


「家族」


「……」


「でも」


 セレスが。


 自分の胸に手を当てる。


「一度も」


「自分自身を選んでいない」


     ◇


「……」


 私は。


 考えた。


 確かに。


 そうかもしれない。


 村にいた頃。


 私は弱かった。


 レベル1。


 魔力なし。


 スキルなし。


 それでも。


 冒険者になりたかった。


 誰かに認めてもらいたかった。


 でも。


 王都へ来てから。


 私はずっと。


 誰かを守ることばかり考えていた。


 レオン。


 シエラ。


 クロエ。


 ガルド。


 アリシア。


 セレナ。


 ルナ。


 アレン。


 そして。


 始原の王。


「じゃあ……」


 私は。


 小さく呟く。


「私は」


「自分のために何かをしたことがない?」


 レオンが。


 すぐに答えた。


「あるだろ」


「え?」


「冒険者になりたいって言った時だ」


「……」


「それは」


「誰かのためじゃなかっただろ」


 私は。


 目を丸くする。


「……そうだった」


 レオンが笑う。


「忘れてたのか?」


「うん」


「お前らしいな」


     ◇


 その瞬間。


 空の文字が。


 変わった。


 『不成立』


「……え?」


 シエラが驚く。


「条件を満たしていない?」


 セレスが。


 首を振る。


「違う」


「何かが足りない」


 すると。


 私の胸から。


 声が響いた。


『問う』


『お前は何者か』


 私は。


 答える。


「ミア・ルナベル」


『それは名前だ』


「……」


『お前は何者か』


「冒険者」


『違う』


「……」


『始原の娘』


「違う」


 私は。


 首を振った。


『世界の核』


「違う」


『管理者』


「違う」


『神』


「違う」


『人間』


「……違う」


 私は。


 自分でも驚いていた。


 何を言っているのか。


 分からない。


 でも。


 なぜか。


 答えだけは分かる。


「私は――」


 私は。


 ゆっくり顔を上げた。


「私だよ」


「ミア」


「それ以外じゃない」


 静寂。


 そして。


 世界が。


 震えた。


     ◇


 ――ドクン。


 胸の奥が鳴る。


 『回答――確認』


 『最終条件――判定開始』


「……!」


 セレスが。


 目を見開いた。


「ミア」


「うん」


「それでいい」


「……」


 すると。


 私の目の前に。


 新しい表示が現れた。


 『第零封印――解除条件、達成』


 私は。


 息を呑む。


「じゃあ……」


「封印が解けるの?」


 始原の王が。


 突然。


 私の腕を掴んだ。


「待て」


「お父さん?」


「まだだ」


 その声は。


 今まで聞いたことがないほど。


 真剣だった。


「完全解除はするな」


「どうして?」


「お前が自分自身を選んだ瞬間」


「第零封印は――」


 始原の王が。


 言葉を失う。


 代わりに。


 ルナが。


 静かに続けた。


「あなたの記憶が」


「すべて戻るから」


「……!」


     ◇


 私は。


 黙った。


「全部?」


「ええ」


「千年前のことも?」


「そう」


「始原の王を殺したことも?」


「……そう」


「私が何者なのかも?」


 ルナが。


 頷く。


「すべて」


 私は。


 怖くなった。


 知りたい。


 でも。


 知るのが怖い。


「もし」


 私は。


 小さな声で言った。


「全部思い出したら」


「私じゃなくなる?」


 始原の王が。


 答える。


「ならない」


「……」


「お前は」


「何を思い出しても」


「ミアだ」


 アレンも。


 頷いた。


「記憶が変わっても」


「お前が積み重ねた時間は消えない」


 レオンが。


 剣を鞘に戻す。


「そうだ」


「俺たちが知ってるミアは」


「今ここにいるお前だ」


 クロエが。


 笑う。


「昔のミアがどうだったとしても」


「今のミアは今のミア」


 ガルドも。


 短く言った。


「変わらん」


 シエラが。


 微笑む。


「私たちが一緒にいた時間まで」


「偽物になるわけじゃありません」


 私は。


 涙を拭った。


「……みんな」


     ◇


 その時。


 セレスが。


 私の手を握った。


「だったら」


「思い出そう」


「……うん」


「でも」


 セレスは。


 少しだけ悲しそうな顔をした。


「一つだけ」


「何?」


「私のことを思い出した時」


「嫌いにならないで」


「……」


「私は」


 セレスが。


 目を伏せる。


「あなたを守るために」


「あなたから切り離された」


「そして」


「あなたが忘れるはずだったものを」


「全部、私が持っている」


「だから」


「あなたが見る記憶の中には」


「私が」


「あなたを傷つけた場面もある」


 私は。


 セレスの手を握り返した。


「それでも」


「私はセレスを信じるよ」


「……」


「だって」


「私の最初の仲間なんでしょう?」


 セレスの瞳から。


 涙が落ちた。


「……うん」


     ◇


 その瞬間。


 空に浮かぶ文字が。


 一気に消えた。


 そして。


 王都の中央。


 王城の地下から。


 巨大な光の柱が立ち上がった。


「何!?」


 アリシアが叫ぶ。


 王城が。


 揺れる。


 地下から。


 巨大な階段が現れた。


 その先には。


 扉。


 扉には。


 こう刻まれていた。


 『第零層』


「……」


 シエラが。


 息を呑む。


「これが」


「王都の最深部……」


 始原の王が。


 扉を見つめる。


「違う」


「え?」


「ここは」


「王都の地下じゃない」


 彼が。


 小さく言った。


「世界の地下だ」


     ◇


 扉が。


 ゆっくり開いた。


 その向こうには。


 地下ではなく。


 星空が広がっていた。


「……綺麗」


 私は。


 思わず呟いた。


 足元には。


 何もない。


 空中に。


 無数の星が浮かんでいる。


 遠くには。


 巨大な惑星。


 そして。


 無数の世界。


「ここは……」


 シエラが。


 震える声で言った。


「世界と世界の間?」


 ルナが。


 答える。


「いいえ」


「ここは」


「世界が生まれる前の場所」


     ◇


 私は。


 一歩進んだ。


 すると。


 星々が。


 一斉に光った。


 そして。


 その中心に。


 一つの巨大な扉が現れた。


 白い扉。


 黒い扉。


 その二つが。


 重なっている。


 中央に。


 私の手形と同じ形の紋章。


「ミア」


 始原の王が。


 低い声で言う。


「触るな」


「どうして?」


「その扉の向こうにあるのは」


 彼が。


 息を呑む。


「お前の始まりだ」


「……」


「そして」


 アレンが。


 続けた。


「俺たちが」


「千年前から隠してきたものでもある」


 私は。


 扉を見る。


「……じゃあ」


「開けたら全部分かる?」


「分かる」


「だったら――」


 私は。


 手を伸ばした。


「開ける」


「ミア!」


 始原の王が叫ぶ。


 でも。


 私の指先が。


 扉に触れた。


 ――ドクン。


 世界が。


 揺れた。


 無数の星が。


 一斉に消える。


 そして。


 暗闇の中に。


 一人の少女が現れた。


 白い髪。


 青い瞳。


 小さな翼。


 さっき見た。


 あの少女。


「……」


 私は。


 少女を見る。


「あなた……」


 少女が。


 微笑む。


「やっと」


「ここまで来たね」


「あなたは誰なの?」


「私は」


 少女が。


 胸に手を当てる。


「あなたが生まれる前から」


「あなたの中にいた存在」


「そして――」


 少女の青い瞳が。


 赤く変わる。


「あなたが最初に」


「世界を選ぶ前に、捨てたもの」


「……」


 私は。


 息を呑んだ。


「名前は?」


 少女は。


 少しだけ笑った。


「私の名前は――」


 そこで。


 背後から。


 声が響いた。


「――言うな」


 始原の王だった。


 彼の顔は。


 青ざめている。


「その名前だけは」


「まだ」


「ミアに教えるな」


 少女が。


 始原の王を見る。


「どうして?」


「……」


 始原の王は。


 拳を握る。


「その名前を思い出したら」


「ミアは――」


 言葉を止める。


 私は。


 彼を見る。


「どうなるの?」


 始原の王が。


 ゆっくり答えた。


「世界の核ではなくなる」


「……え?」


「お前は」


「世界そのものになる」


     ◇


 その瞬間。


 遠くから。


 巨大な黒い声が響いた。


『――違う』


 虚無の王。


『ミア』


『お前は世界などではない』


『お前は――』


 黒い闇が。


 星空を覆う。


『世界を選ぶ者だ』


 そして。


 闇の中から。


 一つの巨大な赤い目が開いた。


『だからこそ』


『俺はお前を恐れている』


 私は。


 拳を握る。


「……私」


「世界になるつもりなんてないよ」


 そして。


 私は。


 みんなを見る。


「私は」


「ただ――」


「みんなと一緒にいたい」


 その言葉に。


 星々が。


 一斉に輝いた。


 そして。


 表示が現れる。


 『第零封印――完全解除』


 私は。


 目を見開いた。


「……え?」


 始原の王が。


 叫ぶ。


「違う!」


「まだ解除する条件じゃない!」


 しかし。


 もう遅かった。


 私の胸から。


 白い光が溢れ出す。


 世界が。


 音を失う。


 そして。


 私の頭の中に。


 千年前の記憶が。


 一気に流れ込んできた。


 笑っている私。


 泣いている私。


 セレス。


 リナ。


 ルナ。


 アレン。


 始原の王。


 そして――。


 もう一人。


 私が。


 絶対に思い出したくなかった存在。


 その顔を見た瞬間。


 私は。


 小さく呟いた。


「……嘘」


「どうして……」


 その人物は。


 私に向かって。


 笑っていた。


 そして。


 私は。


 その人の名前を。


 知っていた。


「――お母さん」


 ルナの顔から。


 血の気が引いた。


 アレンも。


 始原の王も。


 何も言えない。


 なぜなら。


 私が見た「母」は。


 今のルナとは。


 まったく違う姿をしていたから。


 黒い翼。


 赤い瞳。


 そして。


 その手には。


 血で染まった白い剣。


 ――第零封印。


 完全解除。


 そして。


 千年前の真実が。


 ついに。


 動き始めた。

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