第33話 最初の仲間、セレス
王都の空が。
白く染まった。
無数の門。
その一つ一つから。
神族が降りてくる。
十。
百。
千。
数え切れない。
「……多すぎる」
クロエが呟いた。
ガルドが盾を構える。
「これは……さすがにまずいぞ」
シエラも杖を握り直す。
「魔力反応が……」
「どうした?」
「測定できません」
「またかよ」
レオンが苦笑する。
でも。
その顔には。
いつもの余裕がなかった。
アリシアが前へ出る。
「王国騎士団!」
城壁の上から。
騎士たちが一斉に剣を抜いた。
「王都を守れ!」
「おおおおおっ!」
人間。
魔族。
そして。
黒いローブの者たち。
本来なら敵同士だったはずの者たちが。
今は同じ方向を向いていた。
空にいる。
神々へ。
◇
「ミア」
セレスが。
私の隣に立つ。
「怖い?」
「……ちょっとだけ」
「そう」
セレスは笑った。
「それでいい」
「え?」
「怖いのに前へ進める人のほうが」
「ずっと強いから」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が。
少しだけ温かくなった。
「セレス」
「なに?」
「本当に私の仲間だったの?」
「うん」
「千年前から?」
「そう」
「じゃあ――」
私は。
少し迷ってから聞いた。
「どうして私のことを知ってるの?」
セレスは。
空を見上げた。
「あなたが生まれる前から」
「……え?」
「私は」
「あなたを待っていた」
◇
神族の軍勢が。
一斉に動いた。
『始原の娘を確保せよ』
『抵抗する者は排除』
白い光が。
王都へ降り注ぐ。
「来る!」
アリシアが叫ぶ。
騎士たちが盾を構える。
「――防御陣!」
巨大な魔法陣が展開された。
だが。
白い光が触れた瞬間。
魔法陣が。
砕け散る。
「そんな……!」
アリシアが息を呑む。
光が。
王都へ落ちてくる。
「ミア!」
レオンが叫んだ。
「大丈夫!」
私は。
空を見上げる。
そして。
手を伸ばした。
「止まって」
――ピタッ。
光が。
止まった。
空中で。
何千本もの光が。
静止する。
「……」
「……」
「……」
誰も。
言葉を発しない。
私は。
少し困った。
「えっと……」
セレスが笑う。
「やっぱり」
「あなたは変わってない」
「どういう意味?」
「昔もそうだった」
「『止まって』って言うだけで」
「全部止めてた」
「……」
クロエが。
私を見る。
「ミア」
「うん?」
「もう驚かないことにするね」
◇
私は。
空に浮かぶ光を見る。
「これ」
「どうすればいいの?」
セレスが答える。
「消せばいい」
「どうやって?」
「あなたなら」
「触ればいいよ」
「……」
私は。
一番近くにある光へ手を伸ばした。
指先が触れる。
――消えた。
続いて。
二本。
十本。
百本。
千本。
全ての光が。
一瞬で消えていく。
「……」
神族たちが。
動きを止める。
『……何をした』
『神罰が』
『消えた……?』
私は。
少し申し訳なくなった。
「ごめんなさい」
神族の一人が。
怒鳴る。
『謝罪など不要だ!』
『貴様は神々に逆らった!』
「逆らった?」
『そうだ!』
「でも」
私は。
首を傾げる。
「先に王都を攻撃したのは」
「そっちだよね?」
「……」
神族が。
黙る。
クロエが。
吹き出した。
「正論!」
ガルドも。
小さく笑った。
レオンは。
肩をすくめる。
「ミアらしいな」
◇
その時。
一人の神族が。
前へ出た。
十二枚の翼。
黄金の髪。
白い鎧。
手には。
巨大な白い剣。
『私は』
『神界第一執行官――ゼノス』
『始原の娘』
『お前に最後の機会を与える』
「最後?」
『我々と共に来い』
「嫌」
即答した。
『……理由は?』
「みんなと一緒にいたいから」
『それだけか』
「うん」
『世界よりも?』
「比べるものじゃないよ」
ゼノスが。
目を細める。
『愚かな』
「そうかもしれない」
私は。
笑った。
「でも」
「私が選びたいのは」
「私が大切だと思うものだから」
その瞬間。
セレスが。
嬉しそうに笑った。
「それ」
「昔と同じ」
「……え?」
「千年前も」
「あなたは同じことを言った」
◇
ゼノスが。
白い剣を構えた。
『ならば』
『消えるがいい』
瞬間。
空間が裂ける。
白い斬撃が。
王都へ向かって走った。
「ミア!」
レオンが叫ぶ。
私は。
動かなかった。
怖くない。
なぜか。
この攻撃が。
私に届かないことを。
知っていた。
白い斬撃が。
私の目の前まで来る。
私は。
手を伸ばす。
「……やめて」
斬撃が。
消えた。
ゼノスの目が。
大きく見開かれる。
『……』
私は。
首を傾げる。
「これで終わり?」
『違う』
ゼノスが。
震える。
『これは――』
『始原の力などではない』
セレスが。
静かに呟いた。
「そう」
「まだ気づいてないんだ」
「……何に?」
「ミア」
セレスが。
私の胸に手を当てる。
「あなたの中には」
「世界の核だけじゃない」
――ドクン。
胸が鳴る。
「もう一つ」
「もっと古いものがある」
◇
その瞬間。
世界が。
一瞬だけ暗くなった。
王都。
神族。
魔族。
騎士。
全部が。
遠くなる。
白い空間。
私は。
一人で立っていた。
「……ここは?」
目の前に。
幼い私がいる。
その隣に。
セレス。
そして。
もう一人。
見覚えのない少女。
黒い髪。
青い瞳。
小さな翼。
『三人で約束しよう』
幼い私が笑っている。
『絶対に離れない』
『うん!』
セレスが頷く。
もう一人の少女も。
笑う。
『約束』
私は。
その少女を見る。
「……誰?」
すると。
幼い私が。
答えた。
『この子は――』
映像が。
突然。
黒く染まった。
『虚無』
その言葉だけが。
残った。
「……虚無?」
次の瞬間。
目の前の少女が。
こちらを見る。
青い瞳が。
赤く変わる。
『私は』
『あなたの――』
そこで。
映像が消えた。
◇
「ミア!」
現実へ戻る。
レオンが。
私の肩を掴んでいた。
「大丈夫か!?」
「うん……」
「急に動かなくなったから」
「ごめん」
私は。
空を見る。
ゼノスは。
まだそこにいた。
でも。
様子がおかしい。
彼は。
私ではなく。
セレスを見ている。
『……お前』
『なぜここにいる』
セレスが。
笑う。
「まだ気づいてなかったの?」
「私は」
黒い翼を広げた。
「ミアの仲間」
『違う』
ゼノスが。
剣を向ける。
『お前は――』
『虚無の眷属だ』
全員が。
凍りついた。
「……え?」
私は。
セレスを見る。
セレスは。
何も言わない。
ただ。
少し悲しそうに笑った。
「……そう」
「私は」
「虚無の眷属」
レオンが。
剣を構える。
「セレス……」
「大丈夫」
セレスが言う。
「私は」
私を見る。
「ミアを傷つけない」
「絶対に」
ゼノスが叫ぶ。
『嘘だ!』
『虚無の眷属は』
『始原を滅ぼすために存在する!』
「……」
セレスが。
静かに答える。
「だから私は」
「千年前に」
「虚無を裏切った」
◇
ゼノスが。
目を見開く。
『裏切った……だと?』
「うん」
「ミアが」
セレスは。
私を見る。
「世界を選んだから」
「私は」
「ミアと一緒に世界を守ることを選んだ」
私は。
胸が熱くなった。
「セレス……」
「だから」
セレスが。
微笑む。
「今度こそ」
「約束を守る」
その瞬間。
黒い翼が。
白く染まった。
神族たちが。
一斉にざわめく。
『ありえない』
『虚無の眷属が――』
『始原の光を……』
セレスの身体から。
白と黒。
二つの力が。
同時に溢れ出す。
ゼノスが。
初めて。
後退した。
『まさか……』
『始原と虚無――』
『両方を持つ者など……』
セレスが。
静かに言った。
「いるよ」
「私と」
「ミア」
その瞬間。
王都の地下から。
巨大な音が響いた。
――ゴォォォォン。
地面が。
再び揺れる。
私の胸の中で。
何かが。
目を覚ました。
そして。
空に。
新しい文字が浮かぶ。
『第零封印――第四条件』
その下に。
たった一行。
『最初の仲間を信じること』
私は。
セレスを見る。
そして。
迷わず。
手を伸ばした。
「信じるよ」
セレスの目から。
一粒だけ。
涙が落ちた。
「……うん」
「ありがとう」
その瞬間。
封印の残存率が。
90%から――
80%へ。
そして。
王都の地下。
さらに深い場所から。
何かが。
ゆっくりと。
目を開いた。
『……第四条件、達成』
『ならば』
『最後の条件を開始する』
誰かの声。
その声は。
私自身と。
まったく同じだった。
『――ミア』
『次は』
『お前自身を選べ』
王都の空から。
全ての神の門が。
一斉に閉じた。
そして。
静寂が訪れる。
ゼノスが。
青ざめた顔で。
呟いた。
『……始まった』
『本当の第零封印が――』
私は。
空を見上げた。
まだ。
何も知らない。
でも。
なぜか分かった。
次に問われるのは。
世界でも。
仲間でもない。
――私自身なのだ。




