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婚約破棄された落ちこぼれ聖女は、キス逃げした好きな人を追いかけます!絶対に離しません!  作者: *ほたる*


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7/12

7話 伯爵家

 庭を歩き始める。

 その時だった。


「……お嬢様?」


 震える声が聞こえた。

 顔を上げる。


 庭師の男が、

 手にした剪定鋏を落としかけていた。


 その声に、近くにいた侍女が振り返る。


「お嬢様……!」


 目を見開く。


 泥の付いた裾。

 乱れた髪。


 そして、その姿を認めた瞬間。


「ご無事で……!」


 侍女は口元を押さえた。


「今、執事へお伝えします!」


 そう言うなり、館へ駆け出していく。


「人気者ねぇ」


 ルルがくるりと宙を回った。


「そう?」


 アーリアはわずかに首を傾げる。


「そうよ!みんなびっくりしてたじゃない!」


「……そうなのかしら」


「へぇ。慕われてるんだな」


 ショウハが小さく呟く。

 アーリアは目を瞬いた。



 やがて玄関前へ辿り着く。

 扉の前には、いつの間にか一人の男が立っていた。


「……お嬢様」


 執事だった。

 普段は崩れない表情が、かすかに揺れている。


「ご無事で何よりです」


 一歩前へ出る。


「お怪我は?」


「大丈夫よ。少し擦り傷があるくらい」


 執事はほっと息を吐く。


「湯浴みの準備は整っております」


 一礼する。


 執事の視線がショウハへ向く。


「そちらは?」


「森で助けてくださった恩人です。

 ショウハさんといいます」


「あー、ショウハです」


 執事は一瞬息を呑んだ。


「そうでしたか」


 一拍。


「お嬢様を助けてくださり、

 ありがとうございます」


 深く頭を下げる。


「ショウハ様」


「え?」


「お部屋を準備いたします」


 執事はすぐ近くの侍女へ目を向けた。


「客室の準備を」


「はい!」



 アーリアは侍女に連れられ、浴室へ向かった。


 湯気の立つ浴室。

 温かな湯に触れると、張り詰めていた力が少しだけ抜ける。


 森で過ごした数日。


 泥も。

 疲れも。

 少しずつ流れていった。


 ***


 一方その頃。

 ショウハは客室へ案内されていた。


「こちらがお部屋になります」


「広……」


 思わず声が漏れる。

 執事は何事もなかったように一礼した。


「湯浴みの準備が整っております」


 奥の扉へ手を向ける。


「ご利用ください」


「風呂まであるのか……」


 ショウハは思わず呟いた。


「その後、こちらからお好きな服をお選びください」


 そう言って示された先には、

 見たこともないほど上質な服が並んでいた。


「いや。できれば今の服がいい」


 ショウハは即答した。


 執事が瞬く。


「こちらの方が着心地も――」


「絶対落ち着かない」


 ショウハは真顔だった。


「洗えるなら洗ってほしい」


 執事は少し驚いたように眉を上げた。


「……承知いたしました。

 洗浄魔法を使用いたします」


「魔法で洗えるのか?」


「はい」


「そりゃ助かる」


 ショウハはあっさり頷いた。


 しばらくして。


 湯浴みを終え、ショウハは客室へ戻った。

 机の上には、綺麗に畳まれた服が置かれている。


「早……」


 思わず呟く。

 手に取る。

 そして固まった。


「……同じ服だよな?」


 汚れ一つない。

 しわもない。

 ほつれていた箇所まで綺麗に整っている。


「すげぇ……」


 思わず服を広げて眺める。

 ショウハは綺麗になった上着を見下ろした。


「貴族ってすげぇな……」


 ショウハは苦笑した。

 その時だった。

 客室の扉が控えめに叩かれる。


「ショウハ様」


 扉の向こうから侍女の声がした。


「旦那様がお呼びです」

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