5話 光の向こう
「いいけど」
「え?」
「家」
「……本当に来るんですか?」
「誘ったのアーリアだろ」
ショウハは苦笑した。
なんでだろう。
少しだけ、ほっとしている自分がいた。
「ま、今後の方針も決まったし」
ショウハは立ち上がる。
「今日は休もう」
そう言って近くの木へ寄りかかった。
アーリアはその姿を見つめる。
そして、ふと気づいた。
「……ショウハさん」
「ん?」
「昨日も、ほとんど寝てませんよね?」
ショウハはきょとんとした。
「あー」
一拍。
「そうかも」
「そうかも、じゃありません」
思わず声が強くなる。
「見張りもしてましたし、怪我もしてるんですよ?」
「大丈夫だって。慣れてるから」
「慣れてるのと大丈夫なのは違います」
アーリアがぴしゃりと言い切る。
ショウハは少しだけ目を丸くした。
それから肩をすくめる。
「厳しいな」
「厳しくなんてないです」
ルルがけらけら笑う。
「アーリア怒ってるー!」
「怒ってません!」
「怒ってるわ!」
アーリアの顔が少し赤くなる。
ショウハは吹き出した。
「でも、見張りは?何か来たら困るだろ」
ショウハが森へ視線を向ける。
「それは……」
「大丈夫よ!」
ルルがアーリアの周りをくるりと回った。
「魔物が来たら知らせてあげる!
大声でアーリアを起こしてあげるわ!」
「ルルが、何かあれば起こしてくれるそうです」
「分かった分かった」
そう言って木へ背を預ける。
「少し休む」
「少しじゃなくて寝てください」
「はいはい」
子供をあやすような返事だった。
アーリアは思わず眉を寄せる。
――この人、本当に分かっているんだろうか。
そんなことを考えながら。
気づけば、ショウハの様子を目で追っていた。
焚き火が揺れる。
昼間の言葉が頭をよぎる。
『あの子、なんか寂しそう』
ショウハは木に寄りかかりながら、
静かに目を閉じていた。
しばらくして。
ふと、黒い瞳が開く。
「アーリア」
「っ!」
思わず肩が跳ねる。
「どうした?」
「な、何でもありません」
慌てて視線を逸らした。
「そう?」
ショウハは特に気にした様子もない。
「アーリア」
今度はルルが耳元へ寄ってくる。
「ちょっと顔赤い」
「えっ!?赤い?」
「熱はないよね?」
ルルがアーリアの顔を覗き込む。
「……大丈夫」
アーリアはぽそりと呟いた。
「熱?」
ショウハが不思議そうに瞬いた。
「違います!」
反射的に声が大きくなる。
「そうか」
それだけ言って、ショウハは再び目を閉じた。
アーリアは両手で顔を覆う。
ルルがけらけら笑った。
翌朝。
二人は再び森を歩いていた。
「もうすぐよ!」
ルルが嬉しそうに前を飛ぶ。
しばらく進む。
その時だった。
「……!」
アーリアが足を止める。
木々の向こう。
眩しい光が差し込んでいた。
「出口だ」
ショウハが呟く。
森を抜ければ、
町がある。
家がある。
そして――
父も、妹も、いる。
胸の奥が重くなる。
アーリアは無意識に拳を握った。
「アーリア?」
ショウハが振り返る。
アーリアは小さく息を吸った。
「……行きましょう」
光へ向かって歩き出す。
もう後戻りはできなかった。




