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婚約破棄された落ちこぼれ聖女は、キス逃げした好きな人を追いかけます!絶対に離しません!  作者: *ほたる*


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4話 焚き火の夜

 アーリアはショウハに顔を向ける。

 だが、当の本人は何も変わらない。

 不思議そうに首を傾げる。


「ルル」


 小声で尋ねる。


「どういう意味?」


「そのままよ?」


 ルルは肩をすくめた。


「なんか寂しいの」


 アーリアは眉を寄せた。


 寂しい。

 ショウハが?


 信じられなかった。


 強くて。

 落ち着いていて。

 何でもできるように見える。


 寂しいとは、まるで結びつかない。


「アーリア?」


 ショウハが首を傾げる。


「またその子?」


「……はい」


「仲良くなったんだな」


  アーリアはわずかに目を見開いた。


「そこなんですか?」


「違うか?」


 違わない。

 違わないのだが。

 何だか色々とずれている。


 ルルがくすくす笑った。


「面白い子ね!」


「……あ」


 アーリアの視線がショウハの腕へ向く。


 裂けた傷は塞がりきっていない。

 痛々しい傷跡が、まだ残っていた。


「ショウハさん、その傷……」


「ん?」


 ショウハが腕を見る。


「ああ。包帯巻いとくか」


 ポーチから包帯を取り出した。


「貸してください」


 アーリアはそれを受け取り、残った傷口へ丁寧に巻いていく。


「へえ。器用だな」


「慣れてるので」


 傷口を全て塞ぐことはできない。

 だから応急処置には慣れていた。


 アーリアは包帯を巻き終えた。


「これで大丈夫です。

 ……無理はしないでくださいね」


「善処する」


「しないでくださいね?」


 アーリアがじっとショウハを見る。

 ショウハは困ったように笑った。


 ルルが楽しそうに飛び回る中、二人は再び歩き始めた。


「アーリア!こっちよ!」


 ルルが前方を指差す。


「え?」


 アーリアは足を止めた。


「こっちが出口!

 まだ先だけど、街に出られるわ!」


 蜂蜜色の瞳が輝く。


「どうした?」


 ショウハが振り返る。


「あ、あの……」


 一瞬迷う。

 だが、言うだけなら問題ないだろう。


「ルルが、あっちが出口だって」


「へぇ」


 ショウハは特に疑う様子もなく頷いた。


「そんなこと分かるのか。

 すごいな、ルル」


「でしょ!」


 ルルが胸を張る。

 アーリアは思わず目を瞬いた。


 ショウハには見えていない。

 声も聞こえていないはずだ。


 それなのに。

 まるでそこにいるのが当然みたいに話す。


 アーリアはくすりと笑った。



 その日の夜も、二人は森で野営することになった。


 ぱちり。

 焚き火が小さく音を立てる。

 ルルは炎の周りを飛び回っていた。


「綺麗ねぇ」


「そんなに近く飛び回ったら火傷しない?」


「大丈夫大丈夫!ルル強いもん!」


「元気なんだな」


「うん!」


 ショウハには見えていないはずなのに。

 なぜか会話が続いている気がした。


 自然と口元が緩む。

 少し前までなら、こんな風に笑う余裕などなかったはずなのに。


 不思議だった。


 しばらく沈黙が続く。

 焚き火を見つめながら、アーリアは息を吸った。


「ショウハさん」


「ん?」


「私……ちゃんと話してませんでした」


 ショウハが顔を上げる。


「何を?」


「森にいた理由です」


 黒い瞳が静かに向けられた。


 急かさない。

 ただ待っている。


 アーリアはゆっくりと口を開いた。


「私の家は、代々聖女を輩出してきた伯爵家なんです」


「へぇ」


「幼い頃から、聖女になるための教育を受けてきました」


「普通なら、そのまま聖女として覚醒するはずだったんです」


「でも、私は覚醒しませんでした」


 膝の上で手を握る。


「……妹は、覚醒しました」


 碧の瞳がわずかに揺れる。


 何度も何度も努力した。

 神殿で祈りを捧げ、魔力で人を癒やす訓練も重ねた。

 それでも――聖女にはなれなかった。


 父の失望した顔が浮かぶ。

 婚約者の見限った顔が浮かぶ。


 胸が、少し痛んだ。


「それで婚約も失って……」


 自嘲気味に笑う。


「……無事に帰って来れたら、家に迎え入れるって言われました」


 しばらく沈黙が落ちた。


「……ひどいな」


 ショウハがぽつりと言った。

 アーリアは目を瞬く。


「え?」


「いや」


 ショウハは焚き火へ視線を戻した。


「普通にひどいだろ」


 それだけだった。


 アーリアは言葉を失う。

 今まで誰もそんなことは言わなかった。


 覚醒しない自分が悪いのだと。

 努力が足りないのだと。

 そう言われ続けてきたから。


「……アーリア」


 ルルが小さく呟く。

 だが、今は返事ができなかった。


 胸の奥が少し熱かった。

 誤魔化すように視線を落とす。


「……ここを出たら、私は家へ戻ります」


「うん」


「他に帰れる場所がないので」


 ショウハは頷いた。


「ショウハさんは?」


「俺?」


「この後……どうするんですか?」


 ショウハは少し考える。


「分からない」


「分からない?」


「この世界初めてだし」


 あまりにも気軽な答えだった。

 アーリアは思わず吹き出しそうになる。


「それでいいんですか?」


「今までも何とかなったし」


 アーリアは瞬いた。

 本気でそう思っているらしい。


 少しだけ迷う。

 そして。


「……あの」


「ん?」


「もし良ければ」


 勇気を出して顔を上げた。


「お礼もしたいので……

 私の家へ来ませんか?」


 焚き火の向こうで、ショウハが目を見開いた。

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