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婚約破棄された落ちこぼれ聖女は、キス逃げした好きな人を追いかけます!絶対に離しません!  作者: *ほたる*


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3/13

3話 心を緩めた日

 アーリアの悲鳴が森に響いた。


「あー……」


 ショウハは傷口を見下ろす。


「やっちゃったな」


 まるで他人事のように呟いた、その時。

 狼型魔物が再び飛びかかる。


「っ!」


 アーリアの顔が青ざめる。

 ショウハは顔を上げ――


 ザンッ!


 一閃。

 魔物は地面へ崩れ落ちた。


 森に静寂が戻る。

 残るのは、風が木々を揺らす音だけだった。


「よし」


 刀を振って血を払う。

 それから、改めて傷口を見た。

 少しだけ眉をひそめる。


「……結構いったな」


「ショウハさん!怪我を!」


 アーリアが慌ててそばへ寄る。


「ん?」


 ショウハが首を傾げる。


 左腕は深く裂けていた。

 血が滴り落ちている。


「まあ、大丈夫だろ」


「大丈夫じゃありません!」


 思わず声が大きくなる。

 アーリアは慌てて彼の腕へ手を伸ばした。


「治します」


「え?」


「じっとしててください」


 淡い光が掌から溢れる。


 その光に照らされ、

 アーリアの金色の髪が揺れた。


 傷口を包むように光が広がり、

 裂けた皮膚がゆっくりと閉じていった。

 だが――


「っ……」


 光が揺らいだ。

 完全には塞がらない。


 血は止まった。

 だが、深い裂傷は残ったままだ。


 アーリアが唇を噛んだ。


「ご、ごめんなさい……。

 私……」


 全然だめだ。

 聖女の家に生まれたのに。

 婚約破棄されて当然だったのかもしれない。


 そんな考えが頭をよぎる。

 その時だった。


「いや」


 ショウハが腕を動かした。

 ぐるりと肩を回す。


「あ、すげぇ」


「え?」


「さっきまで全然動かなかったのに」


 何度か腕を曲げ伸ばしする。


「めちゃくちゃ楽になった。

 助かったよ」


 ショウハはそう言って笑った。

 アーリアは目を見開く。


「でも……」


「十分だろ」


 まるで当たり前のように言う。


「ありがとう」


 どくん。

 一瞬、胸が跳ねた。


 どうしてだろう。

 ただ、お礼を言われただけなのに。


 その瞬間。

 胸の奥が、ふわりと温かくなる。


「――っ!」


 思わず息を呑む。

 淡い光が胸元から溢れた。


「――やっと」


 光の粒がくるりと回る。


「やっと出られたわ!」


 アーリアは固まった。


 光の中から現れたのは、

 手のひらほどの小さな少女だった。


 翠色の髪。

 蜂蜜色の瞳。


 ふわふわと宙に浮かびながら、

 満面の笑みを浮かべている。


「やっと会えた!」


「……え?」


「ずっと待ってたのよ!

 長かったんだから!」


 アーリアはしばらく呆然と見つめた。


「あなた、誰?」


 今度は小さな少女が目を丸くした。


「ルルよ?

 ずっとあなたの中にいたの」


「……アーリア?」


 ショウハの声がした。


 振り返る。

 ショウハが不思議そうにこちらを見ていた。


「どうした?誰と話してるんだ?」


「え?」


 アーリアは再びルルを見る。


 そこにいる。

 間違いなくいる。


「見えないんですか?」


「何が?」


「この子です!」


 指を向ける。

 ショウハはその先を見る。


 だが。


「……誰もいないけど」


「えっ」


「そうそう!他の人には見えないの!」


 ルルが元気よく手を叩いた。


「見えないの!?」


「うん!」


 なぜか誇らしげに胸を張る。


「ルルはね、ずっとアーリアの中にいたのよ!」


「私の中に?」


「そう!」


 ルルは満面の笑みで頷いた。


「アーリアがやっと心を緩めたから出られたの!」


 アーリアは言葉を失った。


 心を緩めた。

 その言葉が妙に胸へ残る。


「……アーリア?」


 ショウハが首を傾げる。


 アーリアは慌てて今の話を説明した。

 一通り聞き終えたショウハは、


「へぇ」


 とだけ言った。


「へぇ?」


 つい聞き返す。


「信じるんですか?」


「ん?」


「見えてないんですよね?」


 ショウハは少しだけ考えた。


「まあ」


 一拍。


「アーリアに見えてるなら、いるんだろ」


 あまりにも自然な答えだった。

 アーリアは目を瞬く。


 ――いつぶりだろう。

 自分の言葉を、そのまま信じてもらえたのは。


「変な人……」


「よく言われる」


 ショウハは肩をすくめた。


「アーリア!」


 ルルが耳元へ飛んでくる。


「あの子、なんか寂しそう」


 アーリアは思わずルルを見た。


 ――え?





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