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婚約破棄された落ちこぼれ聖女は、キス逃げした好きな人を追いかけます!絶対に離しません!  作者: *ほたる*


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2話 変な人

「……異世界?」


「そう」


 ショウハは軽く頷いた。


「たまに飛ばされる」


「たまに?」


「勝手に」


「勝手に!?」


「まあ、そのうち帰れるから」


 ショウハが肩をすくめる。


「帰れるって……」


「しばらく経つと、感覚で戻れるんだ。

 そのまま別の世界へ飛ばされることもあるけど」


「……そんなこと、あるんですか?」


「俺もそう思う」


 ショウハは笑った。

 アーリアはわずかに眉を寄せた。


 自分のことなのに。

 ……まるで、他人事みたい。



 しばらくの間、二人は並んで森を歩いた。

 木々は深く、空はほとんど見えない。

 風が葉を揺らす音だけが響く。


「アーリア」


 不意にショウハが口を開いた。


「はい?」


「この森、出口分かる?」


「……分かりません」


 正直に答える。


「連れて来られただけなので、道は覚えていないんです」


「だよな」


 ショウハは特に気にした様子もなく頷いた。


「じゃあ、とりあえず高い場所探すか」


「高い場所?」


「町とか道とか見えるかもしれないし」


 前を向いたまま言う。


「川があれば、人がいる可能性も高い」


 なるほど、とアーリアは思った。

 言われてみれば、その通りだ。


「……慣れてるんですね」


「ん?」


「こういうこと」


 ショウハは少しだけ考えた。

 そして、困ったように笑う。


「慣れたくはなかったけどな。

 まあ、生き残る方法くらいは覚える」


 そう言って歩き出す。

 アーリアはその背を見つめた。


 不思議な人だ。

 何もかも軽く言うのに。


 どこか寂しそうだった。



 気づけば、辺りは薄暗くなり始めていた。

 木々の隙間から差し込む光も少ない。


 ショウハが空を見上げる。


「今日はここまでだな」


「ここまで?」


「暗い森は危ない」


 そう言いながら、近くの開けた場所へ向かった。

 アーリアも慌てて後を追う。


 ショウハは慣れた様子で落ちていた枝を集め始めた。


「え?」


「ん?」


「何をしてるんですか?」


「野営」


「野営……」


 人生で一度もしたことがない。


 ショウハは枝を組み、火打ち石を取り出した。

 数度打ち鳴らす。

 火花が散り、やがて小さな炎が生まれた。


 アーリアは目を丸くした。


「すごい……」


「そうか?」


 本人は特に気にした様子もない。

 炎が安定すると、ショウハは腰のポーチを漁った。


「食う?」


 差し出されたのは、小さな包みだった。

 開くと、干し肉らしきものが入っている。

 アーリアはしばらく見つめる。


「……これを?」


「うん」


「生まれて初めて見ました」


 ショウハが吹き出した。


「そんなことある?」


「あります」


 少しだけむっとして答える。

 ショウハは笑いながら自分も干し肉を齧った。


 ぱちり。

 焚き火が音を立てる。


 夜の森は静かだった。

 しばらく炎を見つめていたショウハが立ち上がる。


「もう休むか」


 あまりにもあっさりした言葉だった。


「え?」


 アーリアが目を瞬く。


「夜だし。寝てていいよ」


 ショウハは近くの木へ寄りかかると、腰の刀を手の届く場所へ置いた。


「俺、起きてるから」


「でも――」


「大丈夫」


 黒い瞳が向く。


「何かあったら起こす」


 それだけ言うと、再び焚き火へ視線を戻した。


 アーリアは言葉を失う。


 見張り。

 夜の森。

 危険な場所。


 それなのに、ショウハはどこまでも自然だった。


「……分かりました」


 小さく答える。


 火の近くへ腰を下ろした。

 横になる。


 婚約破棄。

 父の言葉。

 妹の笑顔。


 そして――

 ショウハ。


 ちらりと視線を向ける。


 炎の向こう。

 ショウハは静かに森を見つめていた。


 どうしてだろう。

 昼間会ったばかりなのに。

 少しだけ、気になった。


 目を閉じる。

 焚き火の音が遠くなる。


 やがてアーリアは、ゆっくりと眠りへ落ちていった。


 ***


 翌朝。

 アーリアが目を開けると、木々の隙間から朝日が差し込んでいた。


「……ん」


 身体を起こす。

 焚き火はすでに消えていた。

 慌てて辺りを見回す。


「起きた?」


 少し離れた場所から声がした。


 ショウハだった。

 手には木の実らしきものを持っている。


 アーリアはほっと息を吐いた。


「おはようございます」


「おはよ」


 ショウハは気軽に返した。


「よく眠れた?」


「……はい」


 久しぶりに、肩の力が抜けていた。

 ショウハは木の実を一つ放ってよこした。


「朝飯」


 反射的に受け取る。


「食べられるんですか?」


「たぶん」


「たぶん!?」


 ショウハが吹き出した。


「冗談」


 そう言って自分でも一つ齧る。

 やっぱり変な人だ。


 朝食を終えると、二人は再び森を歩き始めた。

 昨日より少しだけ足取りは軽い。

 前を歩くショウハの背を見つめる。


「そういえば」


 アーリアは口を開いた。


「ショウハさんは、元の世界では何を?」


「ん?」


 ショウハは一瞬考えてから口を開く。


「……ほとんど帰ってないからな」


「帰ってない?」


「ああ。たまに家から異世界の鉱物とか頼まれるけど、そのくらい」


 肩をすくめる。


「ほぼ異世界生活」


「そんなに?」


「まぁ、普通だよ」


 全然普通じゃない。


 アーリアは思わず眉を寄せた。

 その時だった。


 ガサリ。

 前方の茂みが大きく揺れた。

 二人の足が止まる。


 木々の間から現れたのは、

 狼型の魔物だった。


 一匹。

 そして二匹。

 三匹目が姿を見せる。


 アーリアの顔が青ざめた。


「っ……」


 ショウハが軽く首の後ろを掻く。


「……面倒だな」


 刀に手をかける。


「アーリア」


「は、はい」


「絶対前出ないで」


 三体の魔物が、一斉に身構えた。

 そのうち一体が地面を蹴る。


 ショウハが一歩踏み出す。


 ザンッ――!


 一閃。

 先頭の魔物が真っ二つになった。


 返す刃。

 二体目の喉を断つ。


 血飛沫が舞う。

 あまりにも速い。


 アーリアは目を見開いた。


「え……」


 強い。

 昨日も見たはずなのに。

 改めて見ると、人間の技とは思えなかった。


 三体目が唸り声を上げる。


 一閃。

 魔物が崩れ落ちる。


 終わった。

 そう思ったその時――


 ガサリ。

 茂みの奥から新たな影が飛び出した。

 真っ直ぐ、アーリアへ向かって。


「っ――」 


 思考が止まる。

 動けない。


「アーリア!」


 声が響く。


 次の瞬間。

 ショウハが身体を割り込ませた。


 ザシュッ――!


 鋭い爪が腕を裂く。

 鮮血が散った。


「ショウハさん!」


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