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婚約破棄された落ちこぼれ聖女は、キス逃げした好きな人を追いかけます!絶対に離しません!  作者: *ほたる*


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16話 冒険者たちの世界

 そこには、小さな木彫りの置物が並んでいた。


 鳥。

 狼。

 鹿。


 その中に、一体だけ羽の生えた小柄な人形があった。


「可愛い……」


 声が漏れる。

 ショウハも覗き込んだ。


「それか?」


「はい」


 アーリアはそっと人形を手に取る。

 掌に乗るほどの大きさだ。


「精霊のお守りだよ。昔から旅人に人気でねぇ」


 店主の老人が教えてくれた。


「精霊?」


 アーリアが目を丸くする。

 その横で、ルルが人形を覗き込んだ。


「ふうん。たいしたことないわね」


「え?」


「ルルの方がずっと可愛いもの!」


 ルルが胸を張る。

 アーリアは吹き出した。


「何笑ってるんだ?」


 ショウハが尋ねる。


「いえ。何でもありません」


 アーリアは慌てて首を振った。

 ルルは満足そうに腕を組んでいる。

 もちろん、ショウハには見えていなかった。


「気になるなら買えば?」


 ショウハが言う。

 アーリアは迷った。


「……いえ。見るだけで十分です」


 人形を元へ戻す。


「嬢ちゃん、気に入ったならまたおいで」


 店主が穏やかに声を掛けてくれた。


「はい」


 アーリアは頷いた。

 露店を離れる。

 しばらく歩いたところで、ショウハが足を止めた。


「さて」


「?」


「ギルド寄るか」


 アーリアはきょとんとした。


「ギルド?」


「冒険者ギルド」


 言いながら歩き出す。

 アーリアは慌てて後を追った。


「情報収集ですか?」


「そんなとこ」


 ショウハは肩をすくめる。


「次の町の話とか、街道の様子とかな」


「なるほど」


 やがて、大きな建物が見えてきた。

 入口の上には剣と盾の看板。

 中からは賑やかな声が聞こえてくる。


「ここですか?」


「ああ」


 ショウハは迷いなく扉を押し開ける。

 途端に、熱気が流れ出した。


 笑い声。

 怒鳴り声。

 酒の匂い。


 剣を背負った男たち。

 鎧姿の冒険者たち。


「……」


 アーリアはその場に固まった。


「どうした?」


 ショウハが目を向ける。


「思っていたのと違いました」


「何が?」


「もっと……静かな場所かと」


「なんで?」


「なんでって……」


 アーリアは返答に困った。


 今まで暮らしてきた中で、こんなに騒がしい場所へ来たことはない。


 神殿や王宮とは、まるで空気が違う。

 だが、ショウハは平然としていた。

 ルルが肩の辺りを飛びながら笑う。


「すごい顔してるわよ」


「ルル!」


 慌てて小声で抗議する。


「またルルか?」


 ショウハが聞き返した。


「な、何でもありません」


 アーリアは視線を逸らす。

 ショウハは口元を緩めた。


 そのまま受付へ向かう。

 アーリアも後に続いた。


「すみません」


 ショウハが受付へ声を掛ける。


「東街道の様子を知りたいんだけど」


 受付の女性が顔を上げた。


「旅人?」


「そんな感じ」


「東街道なら問題ないわよ」


 女性は地図へ視線を落とした。


「次の町までは三日ほどね」


「三日か」


 ショウハが頷く。

 その横で、アーリアは壁に貼られた依頼書を見ていた。


『遺跡調査』

『魔物討伐』

『薬草採取』


 見慣れない言葉が並んでいる。


「遺跡?」


 声に出すと、受付の女性が頷いた。


「町の北に古い遺跡があるの。冒険者たちの稼ぎ場よ」


「へぇ」


 ショウハは興味なさそうに返した。


「最近は怪我人も増えてるけどね」


「魔物ですか?」


「そう。命がけの仕事だからね」


 受付の女性は肩をすくめた。


「遺跡……」


 アーリアが呟く。


「ショウハさんは興味ありますか?」


「全然」


「即答ですね」


「俺たち旅の途中だし」


「行ったことはあるんですか?」


「似たようなのなら」


「似たようなの?」


「別の世界で」


 アーリアは目を見開いた。


 そうだった。

 この人は時々、当たり前のようにそういうことを言う。


 受付の女性は、特に反応を示さなかった。

 旅人の冗談だとでも思ったのかもしれない。


「近くの神殿も大忙しよ」


「神殿?」


 アーリアが顔を上げる。


「重傷者が運び込まれることもあるわ」


 アーリアは眉を寄せた。


「大変なんですね」


「まぁね。それでも、遺跡に入る人は減らないのよ」


「そうか。ありがと」


 ショウハが頷いた。

 それだけ言って受付を離れる。


 外へ出ると、空は茜色に染まり始めていた。


「もう夕方ですね」


「宿探すか」


 ショウハが空を見上げる。


「怪我をする人、多いんですね」


「まあな」


「それでも遺跡に入るなんて……怖くないんでしょうか?」


「怖いだろ」


 アーリアがショウハを見る。


「え?」


「怖くない奴なんていないと思うけど」


 ショウハはあっさりと言った。


 ――じゃあ、なんで入るんだろう。


「冒険者って変わってるわねー」


 ルルが二人の間を飛び回る。

 アーリアは苦笑した。


 その日は宿を取り、早めに休むことになった。


 ***


 翌朝。

 二人が宿を出た時だった。


「道を開けろ!」


 怒鳴り声が響く。

 アーリアが振り返る。


 担架が運ばれてきた。

 若い冒険者が横たわっている。

 顔は青ざめ、負傷した足は血に染まっていた。


「……!」

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