15話 旅人一年生
朝食を終えると、二人は宿を後にした。
外はすっかり明るくなっている。
街道には旅人や商人の姿も増えていた。
「馬車って、どうやって探すんですか?」
アーリアが辺りを見回す。
「いるところにはいる」
「そんな適当なんですか?」
「適当だな」
「大雑把ね〜」
ルルがショウハの周りを一回りする。
アーリアはくすりと笑った。
しばらく歩く。
道脇には、出発準備をしている荷馬車が何台か停まっていた。
「あれ」
ショウハが顎で示したのは、そのうちの一台だった。
御者台には、恰幅の良い中年の男が座っている。
「おーい」
ショウハが手を上げた。
男がこちらを見る。
「リースまで?」
「おう」
「荷台でいい。二人乗せてくれるか?」
男はアーリアとショウハを見比べた。
「兄妹か?」
「違う」
「違います」
二人の声が重なる。
一瞬の沈黙。
男が吹き出した。
「息は合ってるじゃねぇか」
アーリアの頬が赤くなる。
ショウハは困ったように頭を掻いた。
「で、どうだ?」
「ああ、構わんぞ」
男は気さくに笑った。
「荷台で尻が痛くなっても文句言うなよ」
「助かる」
ショウハは軽く頭を下げた。
そうして二人は荷馬車へ乗り込むことになった。
荷台へ腰を下ろす。
馬車がゆっくりと動き出した。
風が頬を撫で、アーリアの金色の髪を揺らした。
顔を上げる。
どこまでも青い空が続いていた。
「寒いか?」
「いえ。気持ちいいです」
それが本音だった。
荷馬車の上から見る景色もまた、アーリアの知らないものだった。
「揺れるから掴まっとけよ」
「はい」
そう答えた瞬間、馬車が大きく揺れた。
「きゃっ」
身体がぐらりと傾く。
「ほらな」
ショウハが苦笑した。
アーリアは慌てて荷台の縁を掴む。
その様子を見て、ルルがくすくすと笑った。
「旅人一年生ね!」
「ルル!」
アーリアは頬を膨らませる。
その反応がおかしかったのか、ショウハが吹き出した。
空は澄み渡っていた。
荷馬車は街道を進んでいく。
のどかな景色を眺めながら揺られているうちに、いつしか日が高くなっていた。
やがて荷馬車はリースへ到着した。
荷台から降りたアーリアは周囲を見回した。
「すごい……」
自然と声が漏れた。
王都も人は多い。
だが、その賑わいは少し違う。
旅人。
商人。
職人。
様々な土地から来た人々が行き交い、街全体が活気に満ちていた。
「初めてか?」
「はい。こういう場所を歩くのは」
「へぇ」
ショウハは目を丸くした。
「知識としては知っています」
「知識と実物は違うだろ」
その通りだった。
見るもの全てが新鮮だ。
露店に並ぶ果物。
見たことのない香辛料。
木彫りの置物。
露店を覗くたびに、ルルが楽しそうに飛び回る。
「これ綺麗!」
「ルル、あまり離れちゃ駄目よ」
「分かってるわ!」
本当に分かっているのかは怪しい。
「腹減ったな」
ショウハが唐突に言った。
「もうお腹が空いたんですか?」
「空いたな」
「我慢してください」
「無理」
即答だった。
アーリアは思わず吹き出した。
ショウハは屋台で肉串を二本買う。
「ほら。熱いから気をつけろ」
「ありがとうございます」
受け取る。
一口かじると、肉汁が溢れた。
「……!」
慌てて離す。
「だから言っただろ。そんな食い方したら落ちるぞ」
差し出された布を受け取る。
「す、すみません。わからなくて」
「見れば分かるだろ」
アーリアは少しだけ頬を染めた。
「お嬢様ねぇ」
「ルル!」
抗議すると、ルルは楽しそうに飛んでいった。
アーリアがふと足を止める。
「?」
ショウハが振り返る。
アーリアの視線は、露店の一角へ向いていた。




