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婚約破棄された落ちこぼれ聖女は、キス逃げした好きな人を追いかけます!絶対に離しません!  作者: *ほたる*


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17/17

17話 変わり始めた力

「……!」


 担架の横を、仲間らしい冒険者たちが走っていく。


「急げ!」


「神殿まで保つか……?」


「分からん!」


 切羽詰まった声だった。

 アーリアの足が止まる。


 血。

 苦しそうな顔。

 震える呼吸。


 胸の奥がざわついた。


「アーリア?」


 ショウハが振り返る。


「……あの人」


 思わず呟いた。


 仲間たちは必死に担架を運んでいる。

 神殿へ向かっているのだろう。

 けれど、あの出血量では――


 アーリアは唇を噛んだ。

 治癒魔法は使える。

 だが、あの怪我を治せるとは思えなかった。

 それでも。


「……私」


 気付けば足が動いていた。


「私、少しなら治せます!」


 担架を追いかけながら声を上げる。

 冒険者たちが一斉に振り返った。


「何?」


 警戒した声だった。

 アーリアはまっすぐ彼らを見る。


「治癒魔法が使えます」


「神官か?」


「いえ……」


 言葉に詰まる。


 聖女ではない。

 神官でもない。

 だが。


「応急処置くらいならできます」


 冒険者たちは顔を見合わせた。

 担架の上の青年は苦しそうに呼吸をしている。

 迷っている時間はなかった。


「頼む」


 低い声だった。

 アーリアは頷き、担架の傍へ膝をついた。


 血の匂いがする。

 思っていたより酷かった。


「……っ」


 息を呑む。

 足には深い裂傷が走り、白い骨が覗いていた。

 それでも、震える手を傷口へ伸ばした。


「大丈夫……」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 淡い光が掌から溢れた。


 傷口を包み込む。

 血が止まる。

 裂けた肉がゆっくりと閉じ始めた。


「なっ……」


 冒険者の一人が目を見開く。

 アーリアも固まった。


 いつもより治っている。

 明らかに。


 傷はまだ残っている。

 だが、さっきまで骨が見えていた場所が、深い切り傷程度にまで塞がっていた。


「え……?」


 アーリアは自分の手を見た。

 何が起きたのか分からない。


「血が止まったぞ!」


 冒険者の一人が叫ぶ。


「助かる……!」


 彼らの顔に安堵が広がった。

 ショウハは離れた場所からその様子を見ていた。


 アーリアの肩の力が抜ける。

 でも、完全に治ったわけではない。

 冒険者たちへ向き直った。


「まだ傷が残っています。必ず神殿で診てもらってください」


「あ、ああ。本当に助かった」


「いえ。私は少し手伝っただけですから」


 それでも冒険者たちは感謝の言葉を繰り返した。

 アーリアは困ったように微笑んだ。


「行くか」


 ショウハの声だった。


 顔を上げる。

 彼はいつも通りの顔をしている。


「え?」


「神殿行くんだろ、あの人たち」


 ショウハは肩をすくめた。


「なら大丈夫だろ」


 アーリアは冒険者たちを見る。

 担架を持ち直し、神殿へ向かって歩き始めていた。


「……そうですね」


 素直に頷く。

 二人は再び歩き始めた。


 しばらくして、アーリアはそっと自分の手を見る。


 さっきの光。

 あれほどの治癒魔法は、今まで使えたことがなかった。


「……」


 考え込んでいると、横を飛んでいたルルが、なぜか得意そうに胸を張った。


「当然よ! だってアーリア、前よりずっと笑えるようになったもの!」


 アーリアは瞬いた。


「笑う?」


「そう! だからよ!」


 ルルは大きく頷く。


 だが、アーリアには意味が分からなかった。

 笑うことと治癒魔法に、何の関係があるのだろう。


 首を傾げるアーリアに、ルルはもどかしそうに頬を膨らませた。


 その時だった。

 ふわりと甘い香りが漂ってくる。


「?」


 アーリアは顔を上げた。

 通りの向こうに、小さな店が見える。

 店先には人が集まっていた。


 焼きたてなのだろうか。

 甘い香りが風に乗って流れてくる。


「あ」


「どうした?」


 隣からショウハの声がした。

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