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婚約破棄された落ちこぼれ聖女は、キス逃げした好きな人を追いかけます!絶対に離しません!  作者: *ほたる*


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11/12

11話 自分の意思で

 アーリアはしばらくその場に立ち尽くしていた。


「アーリア?」


 ショウハが不思議そうに首を傾げる。


「……あ」


 ようやく我に返る。


「よ、用意してきます!」


 慌てて屋敷へ駆け出した。


 ***


 屋敷へ戻る。

 空は少しずつ白み始めていた。


 部屋へ向かう途中、一人の侍女が目を丸くする。


「アーリア様? もう起きていらしたのですか?」


「ええ。少し準備をしたくて」


「準備……ですか?」


 アーリアは頷いた。


「旅に出ます」


「え……?」


 侍女が固まった。


 だが、アーリアは足を止めない。

 そのまま父の執務室へ向かった。


 扉を叩く。


「お父様」


 ややあって、低い声が返った。


「入れ」


 執務室へ入る。

 父は相変わらず書類へ目を落としていた。


「どうした」


「旅に出ます」


 反対されるかもしれない。

 そう思った。

 だが、父の手は止まらなかった。


「そうか」


「しばらく戻らないかもしれません」


「好きにするといい」


 淡々とした声だった。

 アーリアは思わず父を見つめた。


「……よろしいのですか?」


「お前が決めたことだろう」


 それだけだった。

 アーリアはそっと頭を下げる。


「……失礼します」


 部屋を出て、扉を閉める。


 廊下には先ほどの侍女と執事が立っていた。

 二人とも、どこか困ったような顔をしている。

 執事が口を開いた。


「お嬢様。旅支度をお手伝いします」


「え?」


「着替えも必要でしょう。保存食もご用意します」


 アーリアは目を見開いた。


「どうして……」


 二人は顔を見合わせる。


「どうして、と言われましても」


 執事は微笑んだ。


「心配ですので」


 アーリアは目を伏せた。


「……ありがとう」


 使用人たちは慌ただしく動き始めた。

 アーリアも部屋へ戻り、旅服へ着替える。

 侍女たちは必要な荷物を手早くまとめていく。


 やがて支度が整い、荷物を受け取る。

 そして門へ向かった。


 朝日が昇り始めていた。

 ショウハは腕を組んだまま待っていた。


「お待たせしました」


「おう」


 ショウハはアーリアを見る。


 先ほどの寝巻きとは違う。

 動きやすそうな簡素なワンピース。

 肩には小さな鞄を掛けていた。


「着替えたんだな」


「はい」


「意外と少ないな」


 荷物へ視線を向ける。


「多分、必要な物だけ入っているんだと思います」


「そうか」


 ショウハは頷いた。

 それだけなのに。

 なぜか少し嬉しかった。


「やーっとこの家から出られるわね! 辛気臭いったらなかったわ〜」


 ルルがふわりと二人の間を飛び回る。


「もう、ルルったら」


 アーリアがふっと息を吐いた。

 二人は並んで歩き出す。

 朝日が、その背を照らしていた。


 門をくぐり、朝の王都へ足を踏み出した。

 見慣れた景色だった。


 この道も、城下町の建物も。

 何度も見たことがある。

 それなのに、今日は違って見えた。


 馬車の窓越しではない。

 護衛に囲まれているわけでもない。

 ただ、自分の意思で歩いている。


「……」


 アーリアはそっと空を見上げた。


 青かった。

 当たり前のはずなのに、なぜか胸が弾む。


「どうかしたか?」


 ショウハがアーリアを見る。


「いえ。なんでもありません」


 アーリアは首を振った。

 その口元には、笑みが浮かんでいた。


 やがて、香ばしい匂いが風に乗って流れてきた。


「ん」


 ショウハが足を止める。

 視線の先には屋台があった。

 焼きたてのパンが並んでいる。


「朝飯にするか」


「ここでですか?」


 思わず聞き返してしまう。

 ショウハが首を傾げた。


「駄目か?」


「いえ……」


 アーリアは屋台を見る。

 見たことはある。

 だが、利用したことはなかった。


 王太子の婚約者として外出する時は、決まった店か、用意された食事ばかりだった。


「食べたことないのか?」


「ありません」


 正直に答える。

 ショウハは目を丸くした。


「そりゃまた珍しいな」


 そう言って屋台へ向かった。

 店主と二言三言言葉を交わす。


 ショウハは小さな銀片を渡した。

 店主はそれを確かめると頷く。

 ほどなくして、ショウハが戻ってきた。


「ほら」


 ショウハが紙に包まれたパンを渡す。

 焼きたての肉入りパンだった。


「え?」


「朝飯」


 アーリアは戸惑いながら受け取った。

 まだ温かい。


 少し前までなら、口にするのをためらっていたかもしれない。

 だが、森での生活を経験した今は違った。

 アーリアはパンを口に運んだ。


「……!」


 思わず目を見開いた。


「美味しい……」


「そうか」


 ショウハはそれだけ言って、自分のパンにかぶりついた。


 二人はパンを食べながら歩き出した。

 それだけのことなのに、少しだけ楽しかった。


 街もすっかり目を覚ましていた。

 開店準備をしていた店々も、次々と扉を開けていく。


「まずはギルドだな」


 ショウハが言った。


「ギルド?」


「金の確認」


「換金ですか?」


「ああ」


 ショウハは頷いた。


「旅は金がないと始まらないからな」


「だったら私も下ろします」


「下ろす?」


「口座があるので」


 ショウハが瞬く。


「自分の金なのか?」


「はい」


「自由に使えるのか?」


「はい。そうですけど」


「……へぇ」


 ショウハはそれ以上何も言わない。

 だが、どこか感心したような顔をしていた。


 やがて大きな石造りの建物が見えてきた。

 人の出入りも多い。


「ここだ」


 ショウハが足を止める。

 入口の上には大きな看板が掲げられていた。


「商業ギルド」


 アーリアは呟く。


「行こう」


 ショウハが言う。

 そして二人は、並んで中へ入った。

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