10話 私も行きます
黒い瞳が見開かれる。
「アーリア?」
「なんで……」
息が上手くできない。
「なんで、急にいなくなるんですか?」
ショウハが困ったように頭を掻く。
「いや、置き手紙は置いたけど」
「そういう問題じゃありません!」
言葉が出ない。
何が嫌なのか、自分でも分からない。
ただ、このまま行ってしまうのが嫌だった。
「……門まで、送ります」
「え?」
「送らせてください」
ショウハはしばらく黙っていた。
それからぽそりとつぶやいた。
「……別に、いいけど」
アーリアはほっと息を吐く。
胸のつかえが、少しだけ取れた気がした。
やがて、門の前に着いた。
沈黙が落ちる。
アーリアはスカートの裾を握った。
このまま……別れるの?
胸の奥がざわつく。
ここ数日の出来事が脳裏をよぎった。
魔物に襲われて。
助けてもらって。
一緒に過ごして。
誰も言ってくれなかった言葉をもらった。
『この環境で、よく頑張ってたな』
胸がぎゅっと締め付けられる。
「じゃあ――」
「待って」
気付けば声が出ていた。
ショウハが瞬く。
「アーリア?」
言葉が喉に詰まる。
でも――
「私……」
指先が震える。
「……やっぱり」
一度、目を閉じる。
そして顔を上げた。
「私も行きます!」
「え?」
ショウハが目を丸くする。
「いや、無理だろ」
戸惑ったように眉を寄せる。
「無理じゃありません。このまま別れるのは、嫌なんです」
ショウハが黙る。
風が、ふわりと茶色の髪を揺らした。
やがて、小さく息を吐く。
「アーリア。俺は君と、ずっと一緒にはいられない」
ショウハの声は真剣だった。
アーリアが目を見開く。
「いつ別の世界に飛ぶかも分からない。
君を保護することもできない」
「……っ」
「貴族の君がついてくる相手じゃない」
アーリアは唇を噛んだ。
分かっている。
ショウハの言うことは、何一つ間違っていない。
「……それでも」
顔を上げる。
「私はショウハさんと行きたいんです」
ルルが嬉しそうに飛び回った。
「アーリア!
今までで一番生き生きしてるわ!」
不安なはずなのに。
なぜだろう。
胸の奥が軽かった。
「お金ならあります」
アーリアは続ける。
「無理はしません。治癒魔法も使えます。家にも連絡します」
一歩前へ出た。
「だから――お願いします」
ショウハは頭を掻いた。
「……ほんと無茶苦茶だな」
「すみません」
一瞬、庭の草花が静かに揺れた。
やがて、ショウハが口を開く。
「その格好じゃ旅は無理だ。戻るぞ」
「……え?」
「着替えと荷物くらい持て」
ショウハは苦笑した。




