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元傭兵(男)ですが、公爵令嬢は無理です‼️  作者: くいたん
第一部 元傭兵(男)ですが、公爵令嬢は無理です‼️

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第7話 精霊継承の儀はすごいらしい(後編)


聖堂の中は、異様なほど静まり返っていた。


白銀の光だけが、壊れかけた継承陣の上をゆっくりと流れ、巨大な聖堂全体を夢みたいに照らしている。


床へ座り込んだ神官たちも、呆然と立ち尽くす貴族たちも、誰ひとりとしてすぐには声を出せなかった。


ただ、見上げていた。


継承陣の中央。


白銀の光の中に立つ、その存在を。


長い銀白の髪。


透き通る灰銀の瞳。


白銀の衣。


背後では幾重もの光輪が淡く揺れ、まるで古い神話そのものが、そのまま現実へ降りてきたみたいだった。


挿絵(By みてみん)


令嬢のひとりが、夢でも見ているみたいに小さく呟く。


「……まるで、月光そのものが人の形を取ったみたい……」


別の令嬢は、頬を赤く染めたまま息を呑んだ。


「美しいなんて言葉では、全然足りないわ……」


「これが……聖霊王……」


「存在そのものの格が違いすぎる……」


中には、本当に立っていられなくなった令嬢までいる。



神官たちも完全に顔色を失っていた。


「聖霊王……」


「本当に顕現されたのか……」


「伝承ではなかったのか……」


誰かが震える声で祈りを唱え始める。


聖堂全体が、半ば思考停止していた。



そんな中で。


ヴァレリアだけが、相変わらず真顔だった。


若返った青年――いや、聖霊王は、数秒だけ静かに瞬きをしたあと、少し困ったように笑う。


「失礼しました。名乗りがまだでしたね」


白銀の光が、さらりと揺れる。


「私はノルヴァル。現・聖霊王です」


その瞬間、後方で神官がひとり崩れ落ちた。


「おい、しっかりしろ!」


「神官が気絶したぞ!」


「記録係を呼べ!」


「記録係も倒れております!」


聖堂の端で、軽く地獄が始まっていた。



だが。


ヴァレリアだけは、やはり冷静だった。


「本当に聖霊王なのか」


「疑っておられる?」


「不審者の爺さんだっただろう」


空気が止まる。


ノルヴァルが、少しだけ困ったように笑った。


「その言い方をされる聖霊王は、歴代で初めてです」


「安心しろ。私も初めて見た」


ルシアンが片手で額を押さえる。


「ヴァル」


「なんだ」


「もう少し言葉を選べ」


「事実確認だ」


「雑すぎる」


ノルヴァルは軽く口元へ指を当てた。


咳払いを誤魔化しているように見える。


だが、灰銀の瞳だけは完全に笑っていた。


「……あなたは、本当に面白い」


「よく言われる」


「安心できない」


その瞬間、聖堂中の妖精たちが一斉に光を弾けさせた。


神官たちが騒然となる。


「聖霊王様が笑っておられる……!」


「記録にないぞ!」


「前例がありません!」


「そもそも顕現自体が、伝説級だ!」


後方では、記録係が半泣きで筆を走らせていた。


「ど、どこから書けばいいんだこれは……!」


「全部書け!」


「無理です!」


半分くらい現場が崩壊している。


クラリスが静かに呟いた。


「本日だけで、“前例がありません”を十二回は聞いたと思うのですが……」


「重要なことだからな」

ヴァレリアが真顔で返す。


ルシアンは、もう否定しなかった。


その時。


継承陣の残光が、ふわりと揺れる。


ヴァレリアの胸元。


サファイアの奥で、淡い青金色の光が静かに灯っていた。


神官長が震える声で呟く。


「……星境の加護……」


周囲がざわめく。


「記録にない……」


「アストレア家に、こんな加護は……」


ノルヴァルが静かに目を細めた。


「……なるほど。これは予想以上だ」


ヴァレリアは自分の胸元を見下ろした。


「これが加護か?」


「はい」


「面倒そうだな」


「第一声がそれですか」


「便利なものほど危険だ」


ノルヴァルが、また少しだけ笑う。


どうやら、かなり気に入られているらしい。


後に中央聖堂では、この日を『白銀顕現の日』として記録を残すことになる。


聖霊王顕現。


未知加護発生。


継承陣暴走。


聖堂半壊。


なお。


当日補助記録を担当していた若手神官は、提出した正式報告書へ、


『聖霊王ノルヴァル様は、終始極めて御機嫌麗しく見受けられた』


という、妙に情緒のある一文を書き残している。


大神官長は、その報告書を三回読み直した後、無言で机へ突っ伏したらしい。




そして――翌日。


七公家には、昨夜の報告が一斉に届けられていた。


「……聖霊王が現れただと?」


「若返った……?」


「アストレアの継承で?」


ある屋敷では、老公爵が無言で資料を閉じる。


別の屋敷では、若い当主が小さく笑った。


「なるほど。面白くなってきた」


また別の屋敷では、低い声が静かに響く。


「継承加護の詳細を調べろ」


「聖霊王との接触状況もだ」


「アストレア家の動きを監視しろ」



静かに。



だが確実に、七公家が動き始めていた。


そして。


その騒ぎの中心であるアストレア家では。


「なぜいる」


ヴァレリアが真顔で言った。



朝食席。


当然みたいな顔で、ノルヴァルが優雅に紅茶を飲んでいる。


「観察です」


「帰れ」


「嫌です」


即答だった。


挿絵(By みてみん)


ルシアンが静かに頭を押さえる。


「警備を増やすべきか……」


「意味があると思うか?」


ヴァレリアが聞く。


ルシアンは数秒考えたあと、小さく息を吐いた。


「……ない気がしてきた」


クラリスだけは、すでに追加のティーカップを用意している。


順応が早かった。




だがその頃。


王都のどこかでは、すでに“星境の加護”について調べ始めている者たちがいる。


その中には、アストレア家へ敵意を向ける者もいた。


――もっとも。


ヴァレリアは、まだそんなことを知る由もなかった。

お読みいただきありがとうございます♪

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