第1話 柱の影のエルマ
幼馴染が近すぎて無理です‼️ (元傭兵のスピンオフです)こちらに引っ越しました。
2話以降はこちらからどうぞ。
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夜会の音楽が流れている。
優雅だった。
実に優雅だ。
王都でも有数の名門貴族達が集う夜会。
煌びやかなシャンデリア。
磨き抜かれた大理石。
柔らかく混ざり合う香水の匂い。
色鮮やかなドレス。
絶え間なく続く笑い声。
洗練された会話。
完璧な社交空間。
――そのはずだった。
少なくとも、周囲にとっては。
「…………」
柱の影。
ひとりの女性が、静かに立っている。
地味な灰色のドレス。
まとめすぎた黒髪。
厚底の丸眼鏡。
目立たない立ち位置。
誰の記憶にも残らないような、存在感を消した立ち姿。
だが。
その内面は今。
大災害だった。
視線の先。
赤い髪の騎士――カイル。
そして。
その隣には、クラリス。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
声にならない悲鳴が、脳内を高速で駆け回る。
(無理無理無理無理無理無理)
(近い)
(距離が近い)
(なんですかその自然な距離感)
(夫婦ですか???)
(いや違う)
(違うけど)
(違わなく見えるんですよ!!)
クラリスが、静かにカイルの袖を整える。
その仕草が、あまりにも自然だった。
気負いもなく。
迷いもなく。
まるで昔からずっとそうしてきたかのような距離感で、彼の隣へ立っている。
呼吸をするような自然さだった。
「本日は視線が多めです」
クラリスが静かに言った。
「そうか?」
「はい。特に女性方から」
「……勘弁してくれ」
困ったように笑うカイル。
その瞬間。
エルマは壁へ頭を打ちつけそうになった。
(その顔ーーーーーーーー!!!)
(昔からそう!!!)
(そういう困った顔する!!!)
(なんで覚えてるの私!!)
(十年前の顔まで鮮明なんですけど!!)
(助けて!!)
ハンカチが握力で潰れていく。
近くを通りかかった貴婦人が、ちらりとこちらを見た。
「……具合でも悪いのかしら」
違う。
恋患いである。
しかも重症。
慢性化している。
完治の見込みはない。
エルマは静かに息を吸った。
落ち着け。
二十三歳だ。
淑女たれ。
冷静に。
優雅に。
社交的に。
「…………」
無理。
クラリスがまた近い。
近い近い近い近い。
なんでそんな自然に隣へ立てるんですか。
なんでそんな平然としていられるんですか。
私は今ここで過呼吸寸前なんですが。
カイルがグラスを取る。
その瞬間、クラリスが半歩だけ前へ出て、人の流れを自然に避ける。
完璧。
連携が完璧。
「〜〜〜〜〜っ!!」
(連携ーーーー!!)
(連携が自然!!)
(戦友なの!?)
(夫婦なの!?)
(まだ違う!!)
(でもお似合い!!)
(キーッ!!)
だが表面上は。
「…………」
無。
完璧な無表情。
もはや職人芸である。
その時だった。
クラリスが、ふとこちらを見た。
エルマの全身が凍る。
(ヒィッ!?)
視線が合った。
終わった。
死んだ。
今ここで社会的に死ぬ。
だがクラリスは、わずかに目を細めただけだった。
「どうした?」
カイルが尋ねる。
「いえ」
クラリスは淡々と答える。
「左後方より極めて強い感情圧を感知しております」
やめてください。
「感情圧?」
「はい」
クラリスが静かに続ける。
「敵意ではありません」
「じゃあ何なんだ」
「…………」
ほんの少しだけ考え。
真顔で告げた。
「長年熟成された執念に近いものかと」
「怖ぇよ」
カイルが苦笑する。
その笑顔を見た瞬間。
エルマは心の中で崩れ落ちた。
(好き)
(無理)
(なんでまだ好きなんですか私は)
(十年以上ですよ)
(正気ですか)
(正気じゃないですね)
(知ってました)
思い返せば。
最初は、本当にただの幼馴染だった。
泥だらけで走る少年。
木剣。
怪我。
笑顔。
ぶっきらぼうなくせに、妙に優しいところ。
気づけば。
ずっと見ていた。
ずっと。
本当にずっと。
騎士見習いになった日。
制服姿を見た瞬間。
「あ」
と思った。
人生終わった、と。
その日からずっと終わっている。
なのにまだ好き。
どういうことなの。
呪いなの。
そして今。
二十三歳。
未婚。
縁談は全部断った。
母には呆れられた。
『まだ好きなの?』
好きですが???
むしろ悪化していますが???
その時だった。
「……あ?」
不意に。
カイルがこちらを見た。
エルマの呼吸が止まる。
「どっかで見たことあるな」
やめて。
「…………」
やめてください。
「お前――」
やめろーーーーーーーー!!!
※脳内参考画像
お読み頂きありがとうございます。
★★お待たせしました、今度はカイルの番デスよ〜★★
しばらくしたら、とか言ってなかったっけ? と言うツッコミは受け付けておりません。
待て、が出来ない人間です。ごめんなさい。
1日1話の更新を目指します。
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