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元傭兵(男)ですが、公爵令嬢は無理です‼️  作者: くいたん
ー外伝ー 境界の向こうに残るもの

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外伝 後編 人の時間を生きた娘

前編を先に読んでいた方は、夜に追加した2人の結婚式のツーショット

見れていないかもしれません。 ぜひ戻ってご覧くださいませ。

二人は、人の世界で暮らし始めた。


最初に辿り着いたのは、小さな町だった。


石畳の道。


窓辺に並ぶ花々。


夕暮れになると静かに響く鐘の音。


どこにでもあるような、穏やかな町だった。


青年は決して裕福ではなかった。


広い屋敷があるわけでもない。


豪華な食卓が並ぶわけでもない。


それでも。


少女は、とても幸せそうだった。


挿絵(By みてみん)


朝には市場を並んで歩き。


焼きたてのパンを抱えながら笑い。


昼には洗濯物を干して。


夜になれば、小さな灯りの下で肩を並べて座る。


そんな。


本当に、どこにでもあるような暮らしだった。


けれど。


少女は、その何気ない日々を宝物みたいに大切にしていた。


ノルヴァルは、時折その様子を見ていた。


境界の薄い場所から。


遠く。


本当に遠くから。


声をかけることはない。


姿を見せることもない。


ただ静かに。


娘が笑っていることだけを確認して。


それで十分だった。


季節が巡る。


春が来て。


夏が過ぎ。


秋の風が吹き。


冬の雪が静かに街を包む。


それを何度も。


何度も繰り返すうちに。


青年は、少しずつ変わっていった。


背が伸び。


肩つきが変わり。


声が低くなり。


やがて。


目元へ、小さな皺が増え始める。


少女は長い間、ほとんど変わらなかった。


だから最初、周囲の人々は不思議がった。


「奥さん、昔から変わらないね」


そんな言葉へ、少女はいつも困ったように笑っていた。


二人は何度か土地を変えた。


名前を変えたこともあった。


それでも。


青年は、いつも笑っていた。


「まあ、お前綺麗だからな」


少女は呆れたみたいに眉を寄せる。


「そういう問題ではありません」


「俺にとってはそういう問題だよ」


そんなふうに。


本当に。


どこにでもいる夫婦みたいに笑い合っていた。


ノルヴァルは、その姿を静かに見つめていた。


娘は幸せだった。


それが分かったから。


だから。


何も言わなかった。


ある冬の日だった。


窓辺へ立っていた少女が、ふと小さく首を傾げる。


「……寒い」


本当に小さな呟きだった。


けれど、その瞬間。


ノルヴァルの目が、わずかに細くなる。


少女自身は気づいていない。


けれど。


精霊は寒さに震えない。


季節に身体を左右されない。


眠気に抗えなくなることもない。


だが。


少しずつ。


本当に少しずつ。


娘は変わっていった。


人の世界で笑い。


人を愛し。


人の時間を生きた結果。


その身が、ゆっくりと人へ近づいていく。


髪が伸びる速度が変わる。


眠る時間が増える。


疲れやすくなる。


そして。


青年と同じ速さで、歳月を重ねるようになっていった。


ノルヴァルは理解していた。


もう。


戻れないのだと。


境界の向こう側ではなく。


人の世界で生きる存在になったのだと。


けれど。


娘は幸せそうだった。


春の日には、青年と並んで花を植えていた。


夏の日には、笑いながら水を掛け合っていた。


秋の日には、並んで夕焼けを眺めていた。


冬の日には、同じ毛布へくるまりながら眠っていた。


その全てが。


あまりにも穏やかで。


あまりにも愛おしかった。


だから。


ノルヴァルは最後まで何も言わなかった。


止めなかった。


引き戻さなかった。


ただ静かに、遠くから見守り続けていた。


そして。


長い年月の果て。


青年は、静かにその時を迎えた。


白くなった髪。


深く刻まれた皺。


けれど。


最後まで穏やかな顔だった。


娘は、その手を握っていた。


ずっと。


挿絵(By みてみん)


本当にずっと。


離さないまま。


青年が小さく笑う。


「……泣くなよ」


娘の目から、涙が落ちる。


「無理です」


「お前、昔から泣き虫だよな」


「違います」


娘は涙を零しながら、それでも笑った。


「わたし、強かったです」


青年が苦笑する。


「それ、自分で言うか?」


長い時間を共に生きた。


笑って。


喧嘩して。


支え合って。


泣いて。


また笑って。


幸せだった。


本当に。


どうしようもないくらいに。


だから。


最後に青年は、静かに言った。


「……ありがとう」


娘は、その手を強く握り返した。


外では春の風が吹いていた。


窓辺の花びらが、柔らかく揺れている。


ノルヴァルは、遠くからその光景を見つめていた。


何も言わず。


ただ静かに。


長い沈黙のあと。


小さく目を閉じる。


娘は。


最後まで。


幸せそうに笑っていた。


白い花びらが、風へ舞う。


春の光。


柔らかな風。


笑い声。


その音が、少しずつ重なっていく。


遠い昔の記憶から。


今へ。


王都大聖堂。


「だからルシアン!!」


ヴァレリアの声が大聖堂へ響き渡る。


「なんでお前は毎回そうなる!!」


「黙ってたら進まないだろ」


「そういう問題じゃない!!」


カイルが腹を抱えて笑っていた。


「ははっ……もうダメだ……!」


「お前ら結婚式でも平常運転かよ……!」


クラリスは静かにため息を吐いている。


「お二人とも、そろそろ入場のお時間です」


「聞いているのかルシアン!!」


「聞いてる」


「絶対聞いてないだろ!!」


妖精たちが、くすくす笑いながら飛び回る。


騒がしい。


昔とは違う。


けれど。


どこか似ている。


その時だった。


ヴァレリアが笑う。


何も考えず。


心の底から。


幸せそうに。


その笑い方が、遠い昔と静かに重なる。


ノルヴァルは、ほんの少しだけ目を細めた。


今度は、寂しそうではなかった。


ただ穏やかだった。


ヴァレリアが、ふとこちらを見る。


「……何してる」


ノルヴァルは静かに答える。


「いえ」


「少し、昔を思い出していただけですよ」


「変なやつ」


そこへ、ルシアンが歩いてくる。


「ヴァル!!」


「待てと言ってるだろ!!」


「遅い」


「お前が早いんだ!!」


慌てて追いかけるヴァレリア。


その後ろで、カイルがまた笑い転げている。


「ははっ……もう駄目だ……!」


「結婚式くらい静かにできないのかお前ら!!」


クラリスは静かに額へ手を当てた。


「お二人とも、せめて入場まではお静かにお願いいたします」


「ルシアンが悪い!!」


「半分は認める」


「半分なのか!?」


妖精たちが、またくすくす笑いながら飛び回る。


騒がしい。


本当に。


昔とは違う。


けれど。


どこか似ている。


その時。


ヴァレリアがまた笑った。


何も考えず。


心の底から。


幸せそうに。


ノルヴァルは、その姿を静かに見つめる。


春の風が、白い花びらをさらっていく。


遠い昔。


花畑の中で笑っていた少女の姿が、ほんの一瞬だけ重なった。


けれど。


今度は、寂しさはなかった。


ノルヴァルは小さく目を細める。


「……騒がしいですね」


穏やかな声だった。


「本当に」


ヴァレリアの怒鳴り声。


ルシアンの落ち着いた声。


カイルの笑い声。


クラリスのため息。


妖精たちの笑い声。


それら全部が混ざり合って、大聖堂へ優しく響いている。


ノルヴァルは、どこか少しだけ楽しそうに笑った。


挿絵(By みてみん)


「……ですが、悪くありません」


春の風が、静かに吹き抜けていった。


 



  ーfinー

★★お読みいただきありがとうございました。★★

今回は、AIとのお絵描き頑張りました。

一部手動で手を加えたりもしました。プロンプトだけでは難しい部分がある事を実感。

また、ストーリーを作っていくと、最後はこうしたいっていう願望が出てくるけど、

まとめるのが難しい。

本編の最終話だけで、納得いくまで一晩たっぷりとかかりました。

一晩掛かってこれ? など・・・苦情は受け付けておりません(*'ω'*)

このあと、おまけでキャラ設定シートなどもアップする予定なので、お楽しみいただければ幸いです。

それではまた、

あ、「境界に眠る光」もよろしく。

泣きたい時や、孤独になった時、心の隙間を埋めるような温かい物語です。

ちなみに、私は書きながら泣きました(笑)

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