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元傭兵(男)ですが、公爵令嬢は無理です‼️  作者: くいたん
第一部 元傭兵(男)ですが、公爵令嬢は無理です‼️

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第13話 間合いを潰すもの


「こっちだ」


ジードはそれだけ言って、細い裏路地へ入っていった。


裏市場は、奥へ入るほど静かになる。


笑い声が減り、代わりに視線だけが増えていく。


ヴァレリアは自然に壁側を歩く。


後ろでは、ノルヴァルが黒いフード姿のまま串焼きを持っていた。


串の先には、最後の一切れだけ残っている。


「潜入とは奥深いですね」


「お前の潜入、何か違うんだよ」


「そうでしょうか?」


「目立ちすぎなんだよ存在が」


クラリスが静かにノルヴァルを見る。


「その外套、とてもお似合いですよ」


「ありがとうございます」


ノルヴァルが少し嬉しそうに目を細める。


「そこで嬉しそうにするな」


ヴァレリアが即座に言った。


ルシアンは後ろで小さく息を吐く。


「……緊張感というものがないんですか、あなた方は」


「あるぞ」


ヴァレリアが即答する。


「今かなり警戒している」


「そうは見えねぇんだよなぁ……」


ジードが疲れた声を出した。


やがて、古びた店の前で立ち止まる。


「ここだ」


中は薄暗い酒場だった。


誰も騒いでいない。


だが全員、周囲を見ている。


ルシアンが小さく眉を寄せた。


「……貴族街とは別世界だな」


「まあこっちは綺麗事じゃあ食ってけねぇからな」


ジードが奥へ進む。


その途中。


カウンター奥の男が、ヴァレリアを見て止まった。


「……おい」


「何だよ」


「お前、何連れて来てる」


「見りゃ分かるだろ」


「いや、そういう意味じゃねぇ」



男の目が細くなる。



「……氷の妖精姫か?」


ルシアンの空気がわずかに変わる。


だが男は、すぐ眉を寄せた。


ヴァレリアを見る。


座る位置。


視線。


出口との距離。


全部が妙に自然だった。


男が小さく息を吐く。


「……何だそりゃ」


ヴァレリアが首を傾げる。


「何がだ」


「いや、お前……」


男は言いかけてやめた。


代わりにジードを見る。


「なるほどな。お前が嫌そうな顔してる理由」


「だろ?」


「だいぶ面倒くせぇぞ、これ」


ヴァレリア本人だけが意味を理解していない。


「だから何の話だ」


「説明しづれぇんだよ……」


ジードが本気で困った顔をした。


奥の席へ座る。


ヴァレリアは壁側。


ルシアンは向かい。


クラリスはその後ろへ立つ。


ノルヴァルは最後の一切れを見つめていた。


「……食べないんですか?」


「終わるのが惜しくて」


「何なんだお前」


ノルヴァルは少し考え込み、最後の一切れを食べる。


「なくなりました」


「当たり前だろ」


その時だった。


店の奥から低い声。


「……ジード」


空気が一瞬で変わる。


黒衣の男が、こちらを見ていた。


痩せた男だった。


だが、目だけが鋭い。


ジードが小さく舌打ちする。


「ちっ……。もうかよ……早ぇな」


「お前が目立つガキ連れてるからだ」


男の視線がヴァレリアへ向く。


「聖霊王の件、やはり本当だったのだな」


ルシアンの空気が変わる。


男は続けた。


「七公家が動いてるぞ」


「どこだ」


「全部だ。……だが特に面倒なのはベルンハルトだな」


ルシアンの目が細くなる。


「あそこか……」


ジードも露骨に嫌そうな顔をした。


「うわぁ……最悪じゃねえか」


ヴァレリアだけが分かっていない。


「何だ?その反応」


男が鼻で笑う。


「武官系だよ。勘がいい」


クラリスが静かに補足した。


「正面から距離を詰めてくる傾向があります。間合いを潰してくる相手かと」


ヴァレリアが真顔で答える。


「怖いな」


「お前が言うな」


ジードが即答した。


男はさらに続ける。


「特に若い連中が騒いでるって噂になってる」

「“氷の妖精姫”に興味津々らしいとな」


ヴァレリアが露骨に嫌そうな顔をする。


「もう帰っていいだろうか……」


「帰るな」


ルシアンが即座に止めた。


挿絵(By みてみん)


男が小さく笑う。


「特に問題なのは婚約だな」


ルシアンの視線が上がる。


「聖霊王が出てきた今、アストレアの格は大きく変わる」


「……」


「“シュヴァリエでは弱い”って声も出始めてる」



静寂。



ルシアンの指先が止まる。



その横で、ヴァレリアが小さく首を傾げた。


「弱かったのか?」


「今そこ気にする!?」


ジードが思わず突っ込む。



ヴァレリアは本気で不思議そうだった。


「別に変える気ないだろ」


その瞬間。



ルシアンの目が少しだけ見開く。


静かになる。


男だけが、じっとヴァレリアを見ていた。


最初は“氷の妖精姫”を見ていた。


だが今は違う。


見ているのは、もっと別のものだった。


男が低く呟く。


「……ベルンハルトの連中、多分気づくぞ」


「何にだ」


数秒。


男が小さく笑った。


「――貴族の動きじゃねぇってことに」


静寂。


ヴァレリアだけが、意味が分からない顔をしている。


その横で、クラリスが静かに口を開いた。


「ですが、お嬢様は食事と睡眠を与えておけば問題ありません」


店の空気が止まる。


ジードが真顔になる。


「猛獣の飼育説明みてぇに言うな」


ヴァレリアは少し考え込み――


「……まあ、寝不足だと機嫌は悪くなるな」


「認めるな」


ジードが即座に返す。


だが。


店の奥の男だけは笑わなかった。


細めた目のまま、低く呟く。


「ベルンハルトなら、多分もう動いてるぞ」


空気が変わる。


ルシアンの視線が上がった。


男は続ける。


「“氷の妖精姫”を見たいだけなら、まだいい」


「……」


「だが、武官連中は距離を詰める」


静かな声だった。


「一回、“触って”確認したがるぞ」


ヴァレリアが露骨に嫌そうな顔をした。


「帰りたい」


「だから帰るな」


ジードが頭を抱える。


だが。


ルシアンだけは黙ったままだった。


裏市場の薄暗い灯りの中。


その横顔だけが、静かに冷えていた。

お読みいただきありがとうございます♪

☆☆☆☆☆ を ★★★★★ にして頂くと、モチベーションが爆上がりします。

AIのお絵描きにもやっと慣れてきた。

裏市場は同じキャラクターと暗い背景ばかりでちょっと鬱になりそう・・・

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