4-14 懸念点
今後、戦闘シーンなんかも入ってくる予定なので、作品にR-15指定を付けようと思います。
ご理解をお願いします。
ペースを上げた俺達は、すぐに第三階層のチェックポイントに辿り着き、三つ目のミニフラッグを手に入れた。
あれからここまで、魔物の群れが押し寄せることはなく、猪の魔物を見ることもなかった。偶に出てくるウサギの魔物をエマが倒して、すぐに先に進む。そうやってここまで来たのだ。
「無事、全部手に入ったな」
俺の言葉に、ピーターがコクコクと頷く。マリーも、俺達に合わせるようにニコリと笑った。
「気を抜かないでよ!家に帰るまでが遠足ですからね!」
「なんだよ遠足って……」
またエマが訳の分からないことを言っているなと思ったが、エマの笑顔が微妙に硬い気がする。気のせいかと思ったが、マリーがエマに声をかけるのを聞き、気のせいじゃなかったのかと気付く。
「エマ?何か気になることがあるの?私達に言えないこと?」
マリーの指摘に、エマは一瞬硬直し、困った顔を作った。
「うーん、気になることはあるんだけど、皆に言うべきか悩んでて……でも、気付かれちゃったなら言ったほうがいいのかな?」
そう言いながらエマは俺達に手招きし、皆を円状に集めて周囲を結界で囲った。
「エマ?」
「念のため、防音付き聖結界」
驚いたマリーの声に、エマが答える。
「周りに誰もいないけど、念の為、ね。」
そう言って真剣な顔をするエマのただ事じゃない雰囲気に、俺達は息を呑む。そんな俺達に向かって、エマは硬い声で喋り出した。
「王都ダンジョン内の魔物がおかしい気がするの。出てくる魔物が強すぎる。私はこのダンジョンに入るのが初めてだから、こんなもんなのかと思っていたけど、クリストファー殿下が言ってたでしょ?小石でも投げれば倒せるレベルの魔物しか出ないって。確かにそういうレベルの魔物もいたけど、小石じゃキツそうな個体も半分くらいはいたし、あの猪の魔物なんて、小石を投げたくらいじゃ絶対に倒せない魔物だった。まぁ、私にとっては雑魚だったけど」
説明中に自分の強さ自慢を入れたのは、俺とピーターの顔が強張っていたからだろう。エマなりの気遣いだ。
「浅い階層にいないはずの高レベルの魔物がいるなんて、ダンジョンに何らかの異常が起きている可能性がある。例えば……この先の階層で、魔物の大量発生が起きていて、そこから浅い階層まで魔物が溢れて来ている……とか」
「それって……」
「スタンピードが起きているということ?」
俺がエマに質問する前に、マリーが訊いた。ピーターは顔を真っ青にして、ガタガタ震えている。
エマは翠の瞳をで俺達をしっかりと見ていたが、視線を外して肩をすくめた。
「起きる可能性がある、という話よ。魔物の大量発生だって、ただダンジョン内で起きただけなら、ダンジョンへの入場を制限すれば良いだけだしね。とにかく、異常が起きているダンジョンに、素人同然の学生達が大勢潜っている今の状態が危ないわ」
エマの言葉がその通りすぎて、俺達は顔を見合わせて頷き合った。
「一刻も早く、ダンジョンから出るべきだわ。先生方にも懸念点を伝えて、演習を早期に終わらせて貰いましょう」
「ホイッスルで先生を呼ぶ?」
マリーが「先生方に懸念点を」と言ったのを受けて、ピーターがかかり気味に訊いた。手には既にホイッスルを握りしめている。早く先生に庇護されたいと思っての行動だろう。
しかし、エマはホイッスルを握りしめたピーターの手をそっと掴んで、下におろした。
「ホイッスルは最終手段よ。私達が見た目通り、非常に儚く、可憐で、虫も殺せないようなグループだったら、直ぐにでも吹いて先生に助けてもらいたいんだけど……」
「こんな時に、なに冗談言ってんだよ」
俺がエマをジト目で見ていると、マリーが俺の腕をギュッと握ってくる。
「ルカ!エマからお許しがでたわ。さぁ、ホイッスルを吹いて!この演習に、ルカほど儚く可憐な人はいないわ!」
「え……マリー?それ、俺のこと褒めてないよね?」
マリーがにっこり笑った。うっ、可愛い!もう俺、何も分からない!
「学年一弱いって言ってるわね」
エマのジト目返しと台詞に我に返った。
ちょっと、マリー!?
「ねぇ!遊んでないで、早く帰ろうよぉ!」
珍しくピーターに急かされ、俺達ははっとした。
「スタンピードが起きてるかもしれないのに、みんな呑気すぎるよ!」
涙目のピーターの正論に、俺達は本気で謝った。
足早に帰路につく。エマは先程張った結界はそのままに、移動することにしたらしい。瞳が紫のままだ。ちょっと複雑な結界のため、定期的に張り直さないといけないらしいが、守られている俺達からすれば非常にありがたく、頼もしい。
「私達がホイッスルを使わない理由だけどね、私の予想だと、既にいくつかの班がホイッスルを使ってると思うのよ。それも、先生達の予想以上の頻度でね。だから今、先生達は生徒の救出に大忙しだと思う。そんな中、救助の必要のない私達が先生を呼ぶのは良くないでしょ?」
そう言いながら先頭を迷いなく進んでいくエマは、本当に格好良かった。
第三階層の林の中を、四人で猛然と駆ける。エマの聖結界が全て消し去るため、魔物のことなど気にしない。気にしない、が……
「これで、ヤバめの魔物三体目ね」
「三体!?また猪の群れに突っ込んだのは、一体に数えるのか?」
「危ない魔物遭遇三回目、とかの方がしっくりくるかも」
「明らかに、往路より魔物の数が増えているわ。エマの結界があって本当に良かったわね」
そんな声を掛け合いながら林を抜けた先の草原に、またもや魔物の姿が見えた。だだっ広い草原のため分かりづらいが、まだ距離があるのにあの大きさ。かなりの大物ではないだろうか?
「レッドボアーかしら?かなり大きいわね」
「さっきから猪ばっかり。第三階層は兎系の魔物が多いんじゃなかったの?」
「え!?誰か、戦ってる!!」
ピーターの悲鳴のような叫びを受け、俺達は猪の足元に目を凝らした。
「本当だ……どこかの班が戦ってる」
俺がそう言った直後、レッドボアーが地面に蹄を突き刺すように、前脚を振り下ろした。そして、その前脚の先の方から、空高く人が飛ばされるのを見た。
「あっ……」
ショックで、息が止まりそうになる。あんなに高く打ち上がった人は、その後どうなるのか。見たくない、考えたくない!
思わず目をギュッと瞑ると、恐ろしく早く、いつもより数段低い声で、
「先に行く」
とエマの声が聞こえた。
次に、ルカ、とマリーの優しい声が聞こえて、
「エマに任せておけば大丈夫よ。心配しないで」
の言葉と共に、トントンと優しく背中を叩かれた。
少し気持ちが落ち着いて、そろそろと目を開けると、マリーの麗しい顔が近くにあった。目が合うと、にこりと微笑まれる。俺はようやく、深く息を吸えることに気づいた。
少し周りを見る余裕ができると、ピーターも俺の方を心配そうに見ているのに気付いた。
「悪い、二人とも。もう大丈夫だから」
「でもルーク、顔色悪いよ。やっぱりホイッスルで先生を呼んだ方がいいんじゃない?どんなに班のメンバーが強くても、ルークが自力で歩けなくなったりしたら大変だし」
「いやさすがに、歩けなくなることはないと……」
「じゃあ気絶することも無いね?」
ピーターの言葉に返答が詰まる。そんな俺達のやり取りを見て、マリーが眉をひそめた。
「ピーター様、今のお話、どういうことか私にもご説明して下さらない?」
「いや、なんでもな……」
「もちろん。マリアンヌさんには言っておかなきゃと思ってたんだ」
俺の誤魔化しの言葉を遮るように、ピーターがマリーに答えた。
「ルークは本当に、人が怪我をするところを見るのが苦手なんだ。特に血なんて見たら、気絶してしまうくらいで……たぶん、何らかのトラウマがあるんだろうけど、記憶喪失のせいで本人にもよく分からないらしいんだ」
「ルカ…………」
二人の視線が突き刺さる。憐れみのこもった視線を視界から無くすために、俺は顔を伏せた。
「ちょっとした傷くらいなら、今はもう大丈夫だ。できてしまった傷を見るのも、なんとか。ただ、俺の目の前で誰かが傷ついたりしたら、意識を保てるかは分からない」
そう言ってそっと顔を上げ、マリーの様子を伺った。
なんて情け無い男だと思われているだろうか。今まで秘密にしてきた罪悪感もある。マリーに嫌われたら、俺は…………
恐る恐る見たマリーの視線は、真っ直ぐ俺に注がれていた。黒曜石の瞳に俺を映した彼女は、俺を安心させる様にふんわりと微笑んだ。
「大丈夫よ、ルカ。ずっと言っている通り、ルカのことは私が絶対に守るからね。だから、ちょっとでも体調に違和感があったら言ってちょうだい。その時は、私がルカを担いで帰ってみせるわ!!」
「…………ありがとうマリー、そんなことにならない様に頑張るよ」
華奢なマリーに担がれるなんて、絶対に避けなければ!!
俺は、気付け薬を常備していないことを心底悔やんだ。
今回も、お読み頂きありがとうございました!
エマがレッドボアーと戦うところまで入れたかったのですが、何故かそこまで辿り着かず……無念。
次回はそこからスタートかな?と思っております。
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