4-13 エマ無双
各話タイトルって、内容が分かるように付けたいんですけど、ネタバレになっちゃうんですかね?塩梅が難しい……
結局、エマは俺を守る防御魔法をかけ直してくれた。いざという時、仲間が俺に触れないと危険な場面が出てくるかもしれないという、非常に現実的な理由からだ。
お陰で、グループメンバーであるマリー、エマ、ピーターだけは俺に触れる様になった。
「これでルーカスがうっかり落とし穴に落ちても、私達の誰かが引っ張り上げられるからね!」
「ありがとう、エマ。落とし穴に落ちないよう気をつけるよ」
俺がそう言うと、エマは
「冗談じゃ〜ん!」
と言って俺の背中をバシバシと叩いてきた。痛い。やっぱり今までの防御魔法の方が良かったかも?
「これでまた、ルカに触れるわ」
するりと俺の腕を抱きしめながら、マリーがにこりと笑う。あ、やっぱこのままで。このままがいいです。思わず頬が緩むも、エマが俺達を馬鹿力で引き離した。
「私が先頭を行くから、マリーは最後尾の警戒をお願いね。あと二人、距離近すぎ。暗いとはいえ、誰かに見られるかもしれないし自重して。特にマリー、あなたまだ、世間的にはクリストファー殿下の婚約者なんだから」
正論すぎてぐぅの音も出なかった。すみません、自重します。
それから俺達は、出くわした魔物と何度か戦いながら、難なく第三階層まで進んだ。
第三階層は、今までの第一、第二階層の暗い洞窟とは一変して、非常に明るくて広い、草原のような所だった。
第二階層からくだってきた階段の周囲に広がる草原の先に、木が密集した林のようなものがちらほら見える。階段付近に矢印状の色違いの看板がいくつかあり、それぞれ別の方向を指していた。看板をよく見ると、小さく『ベアステラ王立学園』と書かれているため、今回の演習用に学園側が用意した物だろう。
「紫の看板は……」
今までの階層で手に入れた紫色のミニフラッグを振りながら、エマがキョロキョロと辺りを見渡す。入手すべきミニフラッグの色と同じ色の看板を探しているのだ。
「あった。地図の方角とも一致するし、こっちに進めってことね。すっごい親切!」
エマが言うと皮肉に聞こえるのは何故だろうな?そんなことをぼんやり思いながら、俺はダンジョン内とは思えないほど呑気にエマの後をついて歩いた。
第三階層でも、出てくる魔物は低級の魔物ばかりで、基本はエマが自分の拳に聖属性のバリアを張って殴りつけるスタイルで倒している。
第二階層にはスライムしか出なかったため、エマはたまにピーターにスライムの討伐を譲り、倒し方を教えていた。しかし、第三階層の魔物はウサギに似ていたため、心優しいピーターが倒すのを嫌がった。結果、エマが全てのウサギ型魔物を蹴散らしているのだが、それの凄いこと!エマの聖結界を張った拳を前に、一瞬で消え去る魔物。俺が魔物を視認するより早く、戦いが終わっていることもしばしば。エマの戦い方は、拳で殴るという一見バイオレンスな戦い方だが、聖結界を使っているため、魔物の血痕や死体が一切残らない。聖結界に触れた魔物は、サラサラと消えてしまうからだ。
「魔物素材を採るのには使えないけどねー」
なんて言いながら、エマは拳を振り下ろしている。またサラサラと、ウサギの魔物が消えていった。ピーターが涙目になっているが、可愛いウサギに見えても、魔物だからな。先にやらないと、こちらがやられる。諦めろ、ピーター。
そんなエマの活躍ぶりに、マリーは頬を膨らませていた。
「エマ、もう少しゆっくり倒せない?私が支援魔法を掛ける間も無く倒しちゃうんですもの。私もルカに良いところを見せたいわ」
「さっきまで散々魔物を狩ってきといて、何言ってるの?でもまぁ、私だってマリーの支援魔法受けてみたいんだけどさぁ、さすがにここら辺の魔物じゃ、支援魔法なんて無くても瞬殺しちゃうっていうか……」
マリーの抗議に、困り顔をするエマ。見た目は愛らしい二人だが、話している内容は全く可愛くない。
うん。うちのグループの女子は、そこらの男よりも絶対に強いな。決して、俺とピーターが弱いというわけではなく……
「僕達が同級生の男子より弱いのは事実だと思うよ」
「げ。俺、今の声に出してたか?」
「うん。しっかり」
俺の脳内の言葉にピーターから返事があったためそう言うと、ピーターは即座に頷いた。なんか恥ずかしい。
「大丈夫よ!弱くても私達が護るから。弱くても!」
「そうよルカ、安心して?怖がらなくて大丈夫よ」
エマの煽るような、からかうような言葉より、心から善意で言ってくれていると分かるマリーの言葉の方が、正直居た堪れなかった。大丈夫、女性陣のお陰で全く怖くないよ。
そんな平和なやり取りをしながら草原をずんずん歩き、林の中も順調に進んでいた俺達だったが、突然、先頭を歩くエマが止まった。
「エマ?」
俺が声をかけると、エマは険しい顔で振り向いた。そして、殿を務めていたマリーと視線を交わす。
「マリーも気付いた?」
「ええ。どうするつもり?」
「聖結界を張る。このまま直進するわ」
「移動して平気なの?」
「問題ない」
二人の間の短い会話は、今までにない緊張感があった。俺とピーターが顔を見合わせていると、マリーが俺達の背をそっと押す。
「エマから離れないで」
「来た」
マリーの言葉とほぼ同時に、エマが言う。
そして、エマの言葉の直後、俺達の前方から猪の様な魔物が集団で突進してきた。
「うわぁぁああ!!!!」
思い切り叫んだ俺と、ぎゅっと目を瞑ったピーター。思わず足を止めると、背中をマリーに押される。先頭のエマが歩みを止めないからだ。
「止まると危ないわ。しっかり歩いて」
マリーのいつも通りの声音に少し落ち着きを取り戻し、俺は歩きながらしっかりと前方を見据えた。
エマが右手を前に突き出し、聖結界を張っている。前から来る大量の猪の魔物は、聖結界にぶつかって次々と消えていった。その間十数秒。無限にも思えたその時間は、実際にはかなり短く、あっけなく終わった。
「お、終わった……」
俺が言ったのと同時に、緊張の糸が切れたのか、ピーターがその場に座り込んだ。
「こ、怖かったぁ〜〜〜〜」
半べそで言うピーターを、エマが笑い飛ばす。
「あれくらいの魔物の群れ、聖結界で一発よ。猪は真っ直ぐ突っ込んでくるだけだしね。大丈夫大丈夫!ただ……雑魚魔物なんだけど、数が多すぎる気はしたかな」
ピーターを安心させる様に笑っていたエマだが、急に真顔で考える様に視線を下げた。
「演習の事前授業では、第二階層にはスライム、第三階層にはウサギの魔物が殆どだと習ったわ。他の魔物も出るけれど、稀なことだと。あんなにたくさん猪の魔物が出るなんて習っていないし、うちは兎も角、他の班が心配ね」
優しいマリーの言葉に、俺達も頷く。確かに、俺達にはたまたまエマがいたから助かったが、他のグループがあんなのに出くわしたらたまったもんじゃないだろう。
「うーん、なんか嫌な予感がする……ちょっと急ごうか。ルーカス、ピーター、速度上げるけど、体力は平気?」
俺とピーターは、顔を見合わせて頷いた。
「エマ、私には訊いてくれないの?」
「マリーは平気でしょ?」
頬を膨らせて言うマリーに、エマが聞くまでもないわと返すと、マリーはますます頬を膨らませた。マリーは可愛いなぁ。
「逞しすぎて、ルカに可愛くないと思われたらどうしよう……」
マリーが小さく呟いたのが聞こえた。
マリーは可愛すぎるなぁ!!
勿論、即座にマリーの頭を撫でて、耳元で
「マリーはいつでも可愛いよ」
と囁いておく。
こうすると、マリーが頬を真っ赤に染めて、嬉しそうに微笑んでくれるんだ。
「むしろ、俺の方がマリーに格好悪いって思われてないか不安だよ」
と苦笑混じりに言うと、マリーは黒曜石の瞳で俺をきょとりと見た後に、俺の耳に唇を寄せて、
「ルカはいつでも格好良いわ」
と囁くのだ。
俺の赤く染まった顔を見て、満足そうに笑う彼女に、俺も自然と笑顔になる。
ああ、本当に好きだな。
日に日に可愛くなる俺の彼女に、俺は二人を出会わせてくれた神様に心から感謝した。
神様には感謝するけど、仲人には感謝しない!
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