4-12 マリーに守られて
ダンジョンに入るまでが長かったですが、ダンジョンに入ってからも長くなる予感がしています…
薄暗い階段を降り切ると、開けた空間に出た。周りはゴツゴツとした岩壁で、ダンジョン入口の階段から見て奥側に、通路の入口が3つある。通路入口の横にはランプが灯っていて、薄暗い空間を照らしてくれていた。
この場に誰もいないということは、先に入ったグループは全員、この通路のどれかを進んだのだろう。
そんなことを考えていると、突然エマが「あぁっ!」と声を上げた。
「私今、大変なことに気付いたんだけど、うちのグループって誰も灯りを持っていないんじゃない?誰かライトとか持って来てる?」
エマの問いに、全員がはっとして首を振る。そんな俺達を見て、エマは肩を落とした。
「そうだよね。皆ダンジョンに潜るのは初めてなんだもんね。経験者として、私が持って来るべきだった。クリストファー殿下が持ってるだろうと思って置いてきちゃったんだよね」
ごめんねー、と言いながら、エマがランプの下に俺達を誘導するように移動する。
「エマ、謝らないで。灯りのこと、私も頭から抜け落ちていたもの。ところで先程の話、エマはダンジョン経験者なの?」
頭を抱えたエマの肩を慰めるように優しく撫でて、マリーが訊く。その問いに、エマは大きく頷いた。
「もちろん!なんたって武人の家系、ライオネル家の人間ですからね!ライオネル家に引き取られてからは、領地のお屋敷にいた時間より、ダンジョン内で鍛練してた時間の方が長かったし」
誇らし気にそんなことを言うご令嬢が、どこにいると言うのか。まして、彼女は聖女候補であって、騎士や冒険者候補ではないはずだが。というか、お屋敷にいた時間よりダンジョン内で鍛練してた時間の方が長いってどういうことだ!?あんまりにもエマがサラッと言うから、聞き逃しかけたぞ。ライオネル辺境伯家、恐ろしい……
「だからダンジョンには慣れてるんだけど、まさか王都ダンジョンがこんなに暗いとはねー。私は暗くても、魔物や人の気配が分かるし大丈夫なんだけど、皆は無理だよね?」
「当たり前だろ」
「無理だよぉ……」
俺とピーターが同時に言い、マリーは無言で笑顔を作った。
そのマリーの笑顔を見て、エマは目を丸くする。
「え、もしかしてマリーも大丈夫な感じ?」
「バレンティ家の教育の賜物ですわ」
エマの言葉にそう返したマリーは、するりと俺の腕を取ってぎゅっと抱きしめた。急な接触に驚くも、マリーの体温が温かくて不安が和らぐ。
「暗くて危ないから、ルカは私にくっついていてね。暗いから人の目も気にしなくていいわ。魔物からも、第二王子派からも、全ての危険から守ってあげる」
上目遣いで頬を染めた全力の可愛い顔で、めちゃくちゃカッコいいことを言うこの子、俺の彼女なんですよー!!あぁ、自慢したい!マリー可愛い!!
「……うん、守って」
「ルカ!!可愛い!!大好き!!」
「……はーい、じゃあそろそろ出発しよっかー。私達は右の通路に入るよー。……ピーター、私達も手でも繋いどく?」
「繋がない。でも、逸れないように固まって移動したいな。あと、魔物が出たら教えて欲しい」
「分かった、出たら教えるね。でも、ピーターは戦わなくていいよ。私が倒すから」
俺とマリーが二人の空間を作り上げていた横で、エマとピーターはそんなやり取りをしていた。
最初のチェックポイントを目指して、俺達は右の通路を進んだ。灯りが無くとも、女性陣の強い足取りで難なく一つ目のミニフラッグを手に入れた俺達は、階段を降りて第二階層に到達した。因みにここまで、人にも魔物にも一度も出会っていない。
「うーん……第一階層で魔物に出会わなかったのは、運が良かったなぁくらいにしか思ってなかったけど、第二階層でもスライム一匹見つからないのは、流石におかしいと思うんだよね……」
言いながら、エマが視線をマリーに向ける。
先程からずっと、俺の腕に自分の腕を絡めているマリーは、ことりと首を傾げた。俺の肩に、マリーの頭がコツリと当たる。
「とぼけないで。さっきから、私達に近づきかけた魔物の気配が次々消えていること、気付いてるんだからね。……マリーの魔法って、支援魔法なんじゃないの?」
「あら、私、魔法は使っていないわ」
「本当に?じゃあどうやって遠距離の魔物を倒してるのよ。魔法は使ってないって言うなら、他の方法で倒してるんでしょ?」
エマの質問には答えず、マリーはただ天使の様に微笑むだけだ。マリーから答えが得られないと思ったエマが、今度は俺に質問の矛先を向けてくる。
「ルーカス、マリーの一番近くにいるんだから、何か分からない?」
俺は、少し苛ついているらしいエマの鋭い視線から目を逸らし、俺の腕を離さないマリーの顔を伺う。
上目遣いのマリーの愛らしい顔が、至近距離にあった。
「可愛い…………」
あ、微笑んだ。あああ、可愛いぃぃ!!!
俺の答えに、エマは額を抑えて天を仰ぐ。そして、心底呆れた声で、
「ダメだ、使い物にならないわ」
と言いながら首を振った。
俺達のやり取りに入れず、ピーターがあたふたしている。ごめんな、ピーター。今はマリーの事で頭がいっぱいで、お前のフォローをする余裕が無い。
諦めるように溜息を吐くエマに、マリーは眉を下げて口を開いた。
「本当に、魔法は使っていないの。ただ、これを投げているだけなのよ」
そう言って、マリーはどこからともなく太い針のような物を取り出した。……いや、本当にどこから出したんだ!?
「え……何これ?暗器?どっから出てきたの!?」
「護身術として、家で教わった投擲武器ですわ。私の魔法は支援型だからと、自分の身を守る為に教わったの。これを……こう」
言いながら、マリーが針をシュッと投げる。針はすぐに暗闇に消えていった。
それを見たエマは、元々大きな翠の瞳を更に大きくして固まっていた。そして暫くして、硬直を解かれたように、深く長い息を吐いた。
「…………とりあえず、マリーの戦闘能力が非常に高いことは分かったわ。暗闇にいる遠距離の魔物の急所を、的確に狙い仕留めてたし。あんなのを目の前で見せられちゃったらね……」
「え!?今のマリーが投げた針、魔物を倒していたのか!?」
俺の言葉に、マリーが微笑む。
「実は今までも、こうやって近づいて来る魔物を倒していたの。万が一にも、ルカに危険が無いように」
「すごいな、マリー!全然気づかなかった!ありがとう」
お礼を言うと、マリーが嬉しそうに俺の腕に頭をくっつけてきた。そっと撫でると、ふふふ、と小さく笑う。あぁぁ!!可愛いぃ!!!
俺がマリーの愛らしさに内心悶えている傍で、エマは顎に手を当ててうぅん、と唸っていた。
「確かにすごいし、これがルーカスを守る護衛依頼とかなら完璧な仕事ぶりなんだけどね。ちょっと、強すぎるかも?マリー、悪いけど、魔物を倒すのは暫く我慢してくれない?これは一応演習だから、ルーカスやピーターが魔物を一匹も見られずに終わるのは良くないと思う」
エマの言葉にマリーははっとして、しゅんと俯いた。
「そうね……エマの言う通りだわ。ごめんなさい」
俯いてしまったマリーの頭を、俺は優しく撫でる。
「俺は、マリーに守られるの嬉しいよ。間近で戦闘が始まるのも怖いし……」
「僕も、魔物とか怖いから、あんまり見たくないなぁ」
俺の発言に便乗する様にピーターも言う。そんな俺達に、エマは真剣な顔を向けて言った。
「私はダンジョンによく潜ってたし、マリーも今の感じだと、魔物との戦闘経験があるはず。でも二人は、私達と違って魔物に慣れてないでしょ?今回の演習はたまたま私達が一緒だったけど、今後はどうなるか分からない。だから、他の同級生達と同じ様に、今日の演習で経験を積んで、ある程度魔物や戦闘に慣れておいた方がいいと思う」
確かにエマの言う通りだ。そう思っていると、エマが俺に視線を向けた。
「それに、ルーカスにはなるべく、私達が魔法を使っているところを見せてあげた方がいいと思うんだよね。魔法を使えないルーカスが危険を冒してまで演習に参加してる理由は、魔法の使い方を見て勉強することなんだから」
エマの意見はもっともすぎて、俺達は三人とも素直に頷いた。
「じゃあ次の魔物は、私かピーターが倒すから、マリーは私達に支援魔法をお願いできる?あ、安心して。ルーカスには聖属性の防御魔法をかけといてあげる。絶対に傷付かない様に、ルーカスの周囲三センチに何も侵入できないって魔法ね」
言いながら、エマが俺に掌を向けた。翠色の瞳が紫に変化する。
「それってまさか、私も弾かれ……」
言っている途中に、俺の腕を抱き締めていたマリーが、弾かれる様に離れてよろめいた。
「大丈夫か?」
離れたマリーを伺い見ると、彼女は呆然と立ち尽くしていた。
「ルカから、弾かれちゃった…………」
「マリー…………」
あまりにも悲しそうな声を出すマリーに、俺の胸は痛くなったが、エマはケラケラと楽しそうに笑っていた。因みに、ピーターもニコニコしている。
「ほら行くわよ、バカップル」
エマに言われ、とぼとぼと歩き出すマリーが可哀想で、可愛くて、
「マリーだけ例外にすることはできないか?」
とエマに訊いてみた。
エマは翠に戻った瞳をこちらに向けて、呆れたような視線をよこす。
「出来るできないは置いておいて訊くけど、何で?」
「マリーが腕につかまってないと、寂しい」
エマが無言で俺の頭をはたいて来たが、防御魔法のお陰で無事だった。
おい!今、結構な力だったぞ!!
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