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4-11 ダンジョンへ向けて

いざ出発!の前置き回です。


 王立学園内大広間でのグループ顔合わせと、教師陣からの注意説明の後、俺達はいよいよダンジョンに出発した。


「まさか王都の、それも学園から歩いて行ける距離にダンジョンがあったなんてな……」


 グループごとに固まって集団でダンジョンへ向かう最中、思わず口をついて出た俺の言葉に、ピーターがブンブンと首を振って頷く。


 学園の西側には、ちょっとした森がある。そこを突っ切れば王城に辿り着くそうだが、学園側の西門も王城側の東門も、普段は封鎖され立ち入り禁止となっている。その森の中に、王都ダンジョンと呼ばれるダンジョンの入り口があるらしい。


 ダンジョンとは、魔素と呼ばれる魔力の素みたいなものが溜まった場所に突如現れる迷宮のことで、かなり謎多き場所である。

 魔素はこの世の全ての物に含まれていて、濃い魔素は魔物を作る。魔物は人間を襲うため、ベアステラ王国は聖結界を張って魔物の侵入を阻止しているのだが、ダンジョンには魔物がいる。だから、ダンジョンの入り口に扉をつけ、魔物が外に出てくることがないようにしていた。


 通常、ダンジョンには冒険者が出入りして、ダンジョン内の珍しい素材を摂ったり、魔物を狩ったりしている。冒険者が定期的に魔物を討伐してくれているおかげで、ダンジョンから魔物が溢れることなく済んでいるらしい。そんなベアステラ王国内に幾つかあるダンジョンの管理は、ダンジョンを有する土地の冒険者ギルドが管理することになっていた。


 しかし、この王都ダンジョンは一般公開されていない。理由は、このダンジョンの持ち主がベアステラ国王になっているからだ。

 代々ベアステラの国王に受け継がれてきたダンジョンの管理は、主に王城が担っている。故に、王都ダンジョンでは、王城の騎士や魔法師団の訓練、王立学園生の演習によって魔物の数を減らしているらしい。全く知らなかった。


「王都で普通に生活する人には関係ないところだしね。でも、王立学園を卒業した人や王城勤めの人には常識なんだって。マリーは知ってた?」


 エマの問いに、マリーが頷く。


「魔法師団に所属するお兄様がたまに潜っているわ。気兼ねなく魔法の練習をするのに丁度いいのですって」


 マリーの答えに、何故かエマが顔を強張らせた。俺が気付くくらいだから、マリーも勿論気付いて、不思議そうに首を傾げる。


「エマ?どうかした?」

「あー、いやぁ……」


 何故か歯切れの悪いエマに、益々不思議がるマリー。答えを待つようにじっと見つめられて、観念したようにエマが口を開く。ただし、発言は何かを探るように慎重だ。


「一応、一応ね、聞いておきたいんだけど。マリーのお兄様って、魔法師団で副団長を務めてらっしゃる方よね?たしか、ライアン・バレンティ様」


「ええそうよ。よくご存知ね。お兄様は魔法がとっても上手なのよ。自慢のお兄様ですわ」


「仲良いの?……いや、これはマリーに聞くものじゃないか。えーっと最近、というか、子どもの頃のライアン様と今のライアン様で、性格変わったなーみたいなことはない?例えば、暗くなったなーとか、卑屈になったなーとか、笑わなくなったなーとか」


「?特に変わらないと思うわ。今も昔も、家族想いの優しいお兄様よ?」


 エマは一体、何を言い出したんだ?急にマリーのお兄様に興味を持って、どうしたというのだろうか。質問されているマリーも困惑気味だ。


 しかし、エマはマリーの答えに安心したように笑って、

「良かったー!今のところ、魔王にはなっていなさそうね!」

と言ってから、両手でばっと自分の口を押さえた。


 いかにもうっかりまずいことを言ってしまったという態度のエマだが、俺としては、偶にあるエマの妄言の一つに過ぎない。なんたって、俺に初めて会った時にも、平民の俺のこと王子だとか言っていたしな。……まぁ、実は合っていたみたいだが?

 分かってるぞ、エマ。お前の妄想がうっかり口を突いて出てしまったんだな。しょうがない奴め。

 生温かい目でエマを見る。ちらりとピーターを見ると、彼も俺と同じような視線をエマに向けていた。


「その……エマ?ちょっと発言の意味が分からなかったけれど、どうも聞かれたくない内容だったようだし、聞かなかったことにするわね」


 マリーの大人な対応に、エマは恥ずかしそうに顔を伏せ、

「ごめん。そうしてくれると助かる」

と、額の辺りで手を合わせた。


 そうして喋りながら歩いているうちに、隊列が止まった。目的地に着いたらしい。


 適度に手入れされた歩きやすい森の中の道を進むと、木が途切れて広場のようになっている場所に出た。俺達一年生は、その広場に集められる。

 広場の中心部の地面に、金属でできた四角い蓋のようなものがあった。教師の一人がその蓋を開けて、閉じないようにつっかえをする。


「へぇ。あの蓋に刻まれている魔法陣、聖属性の魔力を溜めておけるのね。蓋を閉めたら聖結界が発動して、万が一にもダンジョンから魔物が出てこないようにしてる、と」


 感心するようにエマが言うと、彼女の言葉が聞こえたのか、周りの生徒達が蓋に注目し始めた。


「……かなり古いし、そろそろ魔力切れみたいだけど」


 最後にエマが呟いた言葉は、近くにいた俺達にしか聞こえなかっただろう。ピーターが不安そうにエマを見る。


「それ、大丈夫なのか?」


 ピーターの代わりに俺が訊くと、エマは肩をすくめた。


「平常時なら、勿論大丈夫よ。そもそもこんな蓋無くたって、よっぽどのことがない限りは魔物がダンジョンから出てくることなんて無いし」

「よっぽどのことって?」

「スタンピードとか」


 スタンピードとは、魔物の大量発生を意味する。国外で稀に発生報告があり、周囲に甚大な被害を及ぼしている大災害だ。

 エマの答えにピーターは震え上がり、マリーも眉をひそめた。俺も、思わず顔をしかめる。


「スタンピードって、今までベアステラで起きたことないよな?」

「確実に起きないとは言い切れないでしょ?ベアステラに魔物がいないのは、聖結界によって外からの魔物が入ってこれないから。でも、結界内のダンジョンの魔物を弾く効果は、国守りの聖結界には無いの。だからもし、このダンジョンでスタンピードが起きて魔物が溢れたら……王都は大変なことになる」


 俺が前例の無さを指摘するも、エマは即座に否定し、可能性を告げてくる。真に迫るようなエマの言葉に、俺達は黙って固唾を呑んだ。


「ねぇエマ?さっき貴女が言っていた、蓋に刻まれている魔法陣の聖属性の魔力が切れかかっているのなら、同じ聖属性の貴女が魔力を補充することはできないの?」


 マリーからの問いに、エマは首を左右に振る。


「見た感じあの魔法陣は、以前聖属性の魔力を込めた人専用に効率化されてるようなの。だから、私が後から魔力を入れてしまうと、結界の効力が極端に弱まってしまう。それよりは、私が新しく聖結界を張る方がよっぽど良いんだけど、今ある結界に私の結界を重ねがけすると、効果を打ち消し合う可能性があるのよ。つまり……今ある結界の効果が切れるまで、私は何も手出し出来ないってこと。まぁ、そもそもが国王の持ち物を勝手にどうこうする訳にいかないしね」


 エマはそこまで言うと、パンッと一つ手を叩いて、神妙な空気を霧散させるように笑った。


「私から言い出しといてごめんなんだけど、今すぐ何か起こるわけじゃないし、気にしてても仕方ないよ。とりあえず、今日これからの行動について考えよっか」


 エマに言われて、俺達はようやく目の前の状況に目を向けた。


 ダンジョン入り口の方を見ると、丁度最初のグループであるクリストファー殿下達がダンジョンに入っていく所だった。

 俺達と目が合った殿下は、ウインクと共に片手をひらりと振って、颯爽と蓋の下へ降りて行った。蓋の先は石でできた階段のようになっているが、俺のいる所からだと先がどうなっているかよく見えない。

 

 王都ダンジョンは全100階層からなる巨大なダンジョンだが、入り口は狭いため、グループ毎に時間差で降りることになっている。今回の演習では、比較的魔物が低レベルかつ少ない3階層まで降りる予定だ。


 俺達のグループの番がきて、ダンジョン入口付近に待機する筋骨隆々の教師に呼ばれた。現在マクレイド先生の姿は見えなかったが、生徒のサポートの為に先にダンジョン内にいる教師もいるはずなので、彼女はそういうポジションなのだろう。

 筋骨隆々の教師は、俺達にダンジョンの地図を渡し、説明を始める。


「今渡した地図のチェックポイントに置かれているミニフラッグを持って帰ることが、今回の演習の目標だ。

 ミニフラッグは全部で3つ、各階層毎に置かれている。君達のグループは紫の4班だから、紫色の4と書かれたミニフラッグを3つ持って帰ればいいわけだ。

 他のグループは君達のチェックポイントとは別の場所にチェックポイントがあり、それぞれ対応する色と数字のミニフラッグを持って帰ることになっている。だからくれぐれも、他のグループのミニフラッグを持って帰らないこと。

 もし間違えて他のグループのミニフラッグを持って来てしまったり、自分達ではどうしようもないトラブルがあった時には、迷わずこれを吹いて教師を呼ぶように」


 そう言って、人数分のホイッスルを渡された。いざという時の為に、首から掛けていなさいとのことだ。俺達全員がホイッスルを首に掛けたのを確認して、筋骨隆々の教師は満足気に頷いた。


「よし。ダンジョン内は危険な所だ。低階層だからと言って油断するなよ。ミニフラッグを持って帰るのが目標と言ったが、一番の目標は仲間と協力し合って、全員無事に戻って来ることだ。優先順位を間違えるな。

 では、説明は以上だ。入口は狭いから、まず階段を全部降り切ってから作戦会議はするように」


 そうして説明を締めくくった教師に促され、俺達は一列になってダンジョンの中に入って行った。


お読み頂きありがとうございました!

次回からようやくダンジョンに入れそうです。


次回もよろしくお願いします。

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