4-10 グループ分け
「ああ、合同演習な。勿論、私達五人でひとグループだぞ」
マクレイド先生からクラス合同魔法演習の話を聞いたその日の昼休み。いつものメンバーが集まったプライベートサロンでランチボックスを開けながら、クリストファー殿下がさも当然という様に口にした。そして、俺が目を丸くするのを見て、苦笑する様に笑う。
「当然、私の方から学園側に掛け合ってある。私の身分的に、安全面を考慮して、よく知った者と組ませて欲しいと頼んだ。ダンジョン内ではグループだけで行動することも多く、仲間内に変なのが紛れ込むと危険だという理由でな。まぁこれは表向きの理由で、私が一番警戒しているのはルーカスのことだ」
俺の名前が出てきてドキリとする。
殿下は真剣な顔を俺を含めた全員に向けた。
「マクレイド先生の件からも分かる通り、見る人が見れば、ルーカスが第二王子であることはすぐに分かる。公表していなくとも、第二王子派が近づいてくる可能性だってあるんだ。ルーカスは私達と常に一緒に行動した方がいいだろう。まして、ルーカスはまだ、魔法が使えない。ダンジョンという場所自体が危険だからな。守れる人間が多いに越したことはないだろう?」
殿下の言葉に、俺以外の全員が頷いた。
「ルカ、安心して。いざという時は、私が絶対に貴方を守りますわ!」
マリーが俺の手をぎゅっと握って、漆黒の瞳で見つめてくる。うっ、可愛い……
「マリーの魔法って支援魔法でしょ?どうやってルーカスを守るの?」
「ふふ。やりようはいくらでもあるのよ?私、こう見えて魔法は得意なのです」
エマのからかい半分、興味半分の言葉に、マリーは恐ろしく綺麗に笑って答えた。人形の様に整った美貌の形のいい唇が、ほんの少しだけ上がって笑みを浮かべるも、漆黒の瞳は一つも感情を映さない。無機質な笑みとは、こういうものを言うのか。大好きな彼女の美しい笑顔の筈なのに、見ているとなんだか寒気がする。
そんなマリーの雰囲気に気付いていないのか、エマが明るい声で続ける。
「まぁ、マリーの魔法は演習で見られるか。じゃあルーカスは、私達とはぐれないようにだけ気を付けて、ダンジョン内散歩を楽しめばいいよ。戦闘は任せて!」
「ありがとう……だけど、エマこそ聖属性魔法使いなんだから、戦闘はしないだろ?」
俺の言葉に、エマはきょとんとする。翠の大きな瞳をぱちぱちさせて、小首を傾げる様は大層可愛らしいが、喋る内容は全く可愛らしくなかった。
「何言ってるの?敵の攻撃を防いで、その隙に殴ればいいんだから、聖属性魔法は戦闘向きでしょ!うっかり怪我しても治せるし」
え……何それ怖い。エマの態度を見るに、大真面目に言ってそうなところが余計怖い。エマは常に、俺の今まで習ってきた聖女像をぶち壊してくる。
「戦闘は普通に私に任せてもらえないか?」
クリストファー殿下が苦笑しながら言った。少し頬が引き攣っているように見える。殿下でも、今のエマの発言にはドン引きだったか。
「そんなのつまんないじゃない。私も戦いたい!」
口を尖らせて言うエマ。殿下とのいつもの口論に発展しかかったところ、今までの俺達のやり取りを聞いていなかったのか、
「ルークと一緒で良かったぁ……」
しみじみと嬉しそうに呟いたピーターの声がサロン内に響いて、俺達は笑った。どうやら、グループ分けの話を聞いてからずっと内心恐慌状態だったが、クリストファー殿下の知らせに安堵し、ようやく俺達が同じグループになれたことを実感できたらしい。
ピーター、お前は本当に可愛い奴だな!
「ピーターは本当に可愛いわね」
俺と同じ感想を抱いたエマが、俺が口に出さなかったことを平気で口にして、ピーターを困惑させていた。
♢♢♢♢
数週間後、クラス合同魔法演習の日がやってきた。
今日は王立学園の一年生全員が、この演習に参加することになっている。朝の登校後すぐに大広間に集められた俺達一年生は、昨日発表されたばかりのグループメンバーと顔を合わせた。勿論、俺達はクリストファー殿下から事前にグループメンバーを知らされているため、気心知れた仲間と朝の挨拶を交わすだけの時間となるはずだった。
「皆、すまない。私は一緒に行動できなくなった」
グループメンバー五人のうち、最後に現れたクリストファー殿下は、開口一番そう言って謝罪した。
「実は昨晩、うちのクラスの生徒の一人が大きな怪我をしたそうでね。彼の入る予定だった四人グループは、彼以外に攻撃手段を持たないメンバーだそうなんだ。メンバー全員侯爵家の子息令嬢で、私とも入学前から親交のある者達だったこともあり、私にグループ移動が可能かと打診されたんだ」
殿下の話によると、役立たずの俺を含めても、全グループ中うちのグループの戦力が突出して高いそうなのだ。学園に入学して一月も経たない一年生の戦力など、殆ど無いに等しい。そんなひよっこ達の中で、クリストファー殿下は、今すぐに魔法師団に入団できるレベルの魔法が使えるそうだ。つまり、俺達一年生全員が束になっても勝てないレベルである。
しかも、うちのグループには次期聖女のエマがいる。どんな怪我も一瞬で治す治癒魔法と、どんな魔物も通さない聖結界を張れる彼女がいれば、ダンジョン内であっても危険など無い。
つまり、クリストファー殿下とエマが同じグループにいるのは、完全に過剰戦力なのである。
「一応、私が抜けてもピーターが戦える。教師陣の見解はこうだろう」
急に名前を出されたピーターが、ビクリと肩を跳ねさせた。
「ぼ、僕……戦ったりしたことないですよ……?」
震えながら申告するピーターに、クリストファー殿下は笑みを返した。
「あくまで教師陣から見たイメージの話だ。エマは聖属性、マリアンヌの闇魔法も支援型と来れば、土属性のピーターが攻撃役に回ると見られる。今回行くダンジョンは洞窟みたいな所だから、動かせそうな土は少ないかもしれないが、魔法で小石でも作ればいいしな。出てくる魔物も弱いし、小石をぶつければ充分倒せる」
「それ、わざわざ魔法でやらなくても、私達が普通に殴れば良くない?」
「エマ、俺みたいな平民ならともかく、貴族の子息令嬢は普通、魔物を殴るなんて発想出ないと思うぞ」
思わずエマに突っ込んでしまった俺を、マリーが楽しそうに見ている。少なくとも、彼女はグループからクリストファー殿下が抜けるかもしれないことに不安を感じていない様だ。
俺達のやり取りを面白そうに眺めながら、殿下は震えているピーターの肩に手を置いて、にっこりと笑った。
「まぁ、そんなに心配せずとも、他の生徒達もピーターと同じ位のレベルだ。ダンジョンも浅い層にしか行かないし、弱くても攻撃手段さえあれば危険は少ない。それに、どうしてもと言う時には、エマとマリアンヌがなんとかしてくれるさ。なんたって、エマは聖女候補というだけでなく、一騎当千の武人を多く輩出するライオネル家の者だし、マリアンヌのバレンティ家だって、代々素晴らしい闇魔法の使い手の家系だ。戦力的には申し分ない」
殿下の言葉に、エマとマリーが目を輝かせた。
「任せて!どんな魔物でもぶっとばしてあげるから!ピーターはルーカスと一緒にお散歩気分で大丈夫よ」
「ええ、お任せを。ルカのことは絶対に、完璧にお守り致しますわ!」
女性陣がやる気を漲らせ、お互い顔を見合わせて握手を交わしている。なにやら通じ合うものがあったようだ。
そんな二人の様子を、ピーターはあわあわしながら、クリストファー殿下はくすくすと笑いながら見ている。俺も、頼もしい二人のやり取りに笑った。
「という訳で、申し訳ないが私は別のグループへ移動する。私が断ったら、エマを向こうのグループにという案も出ていたそうだが、エマにはルーカスの側にいてもらいたいからな」
「そうね。第二王子派が仕掛けてこないとも限らないしね。……あれ?ルーカスが断ったら、私がグループ移動だったの?ピーターじゃなくて?教師陣的には、聖属性の私は攻撃手段が無いことになってるんでしょ?」
「教師陣の間で、エマを普通の聖属性魔法使いと同じ扱いをしてはいけないという見解になったそうだぞ。……君、授業で何をやったんだ?」
「えー?真面目に授業を受けてましたよ?ねぇ?ルーカス、ピーター?」
急にこっちに話題を振ってくるな。ピーターが驚いて固まっているだろう!
俺が肩をすくめると、エマは不服そうに口を尖らせた。
「教師陣は、まぁ、あのライオネル家の者だし、という事で納得しているそうだ」
エマの奇行が、全て「あのライオネル家の者だし」ですむなんて、ライオネル家というのはどんな家なんだと戦慄する。
エマはエマで、
「お父様、どれだけやんちゃしてたのよ」
なんて言っているが、お前も大概だからな?
呆れた顔でエマを見ているうちに、いつの間にか隣に来ていたマリーに、控えめに服の袖を引かれる。
「ん?」
と顔をマリーに向けると、手を離した彼女は漆黒の瞳で俺をじっと見つめてくる。そして、麗しい唇をそっと開いて、
「ルカ。私が絶対に守るから、決して離れないでね」
と囁いた。
身体中の血液が沸騰するのを感じる。
一言囁いた彼女は、可憐に微笑んでさっと離れていってしまう。
そう、ここには不特定多数の目と耳がある。公表していない俺達の関係を見せつけることはできない。
今すぐ、可愛いマリーを抱きしめたいのに出来ない、今の状態がもどかしい。
「早く公表したいな……」
俺はぽつりと呟いた。
一応、恋愛小説ですから。
ということで、お読み頂きありがとうございました!
次回からダンジョンに行く予定です!




