第二章‐11
翌日。俺とスラッグはモンストラクター狩り兼調査の先遣隊として、森の奥へと向かっていた。
部隊の編成には俺も口を出して決めていき、人選はスラッシュ、ストレイフ、スラッグが中心となって決定した。先遣隊は一部隊十名、それが四つ。壁内側には四人一組が等間隔に配置された。
チャージャーとスクライブを組み合わせた壁は昨日の晩から設置を開始していたが、日の出には間に合わず、午前七時(聖堂にある大時計で先程確認した)現在、七割だ。モンストラクターの活動時間に大きく食い込む事になるため、先遣隊の肩に責任が上乗せされている。
俺はグラスレットを持ち背中に矢であるエスターン、テストを詰めたバッグを背負う。基本装備のチャージャー、エッジポストを腰に提げ、インスプロイド、クォーラム、予備のエスターン、テスト、そしてスクライブをホイーラーに背負わせ森の奥へと進む。他の人間も似たような装備で、主要武器が異なるくらいだった。
「気を抜くな、いつ来てもいいように身構えておけ」
俺がいる部隊のリーダーであるスラッグは再三、注意喚起をする。森の異変は昨日突然起きたもので、どういう変化がなされているのか正直、分からない。もしかしたら昨日の変化と今日の変化が異なるかもしれない。もしそうなら昨日の情報は全くの無意味となる。だからスラッグはそれを危惧しているのだ。一瞬で殺されるかもしれないと最悪の想像を。
森へ突入する前、エーベルバスとその仲間が既にヘリオスから姿を消していると知った。その理由は十中八九アレスと関係していると思われ、昨晩はその事でも議論が交わされた。そしてエーベルバスに直接問い質すべきと結論がでたものの、結果がこうだ。そのために貴重な人材を削り、アレスへの使者としてグリムロックとその護衛が向かった。この異変とアレス、エーベルバスが関係しているのか、彼らが帰ってきたとき判明するはずだ。無関係ならそれに越したことはない。
「昨日の様子を判断材料にするなら、そろそろ遭遇してもおかしくない」
周囲を見回して駆けてくるモンストラクターがいないか注意深く確認する。ハンターは手を繋いで陣形を張り切れるほど多くはなく、そのため各部隊には守備範囲を多くせざるを得ない。
「スラッグ、停止もしくは減速しよう。この速さで正面に来られたら全滅しかねない。中型区域に入ってすぐに。落ち着くには丁度いい」
時速約四十キロで進んでいた俺達だが、今のところヘリオスへ向かうモンストラクターなし。しかしこれ以上この速さで進めば余計な犠牲を出す事になるだろう。
「そうだな。よし、皆ホイーラーを止めろ、ここで様子を見る」
留まることにしたものの、ここは中型区域。大型はともかく中型はそこら中にいるはずだ。今視界に入ったあいつらみたいに。
「スエンシェル……」
ハンターの周りに、全長一メートル弱、細身のモンストラクターが群れをなして現れた。
「なんだこの数は……尋常じゃない」
この森はどこまでも非常識だった。スエンシェルは人間を襲う。友好的な例外はなく、周囲に見えている数十の群れは一体残らず、俺達を食い殺すため襲うだろう。普段なら五、六体単位で群れを作るのだが……異常というものは恐ろしい。
「片付けろ、気を抜くなっ」
スエンシェルは各々、間近のハンターに飛び掛かる。このモンストラクターは中型の中では小さく動きが素早い。普段でも殺すのは手がかかるものだ。そして今は更に、エキセントリックな動きを可能としていた。
「なんだこいつら」
スエンシェルは剣を避けるために、空中を起点に体を捻った。そして更に空中を蹴るように飛ぶ。
「飛ぶならまだしも、陸上動物だろ、コイツはっ」
コウは叫ぶ。空を足場にするだと、そんなこと普通できない。物理法則すらおかしくなっているとでも言うのか。
「くっそ、クルーガめっ」
森の奥から地面を揺らす大きな振動。大型モンストラクター、クルーガが向かってきていた。
「対応できない、皆避けろっ」
スエンシェルに対峙している状態でクルーガも相手にするなんて無理だ。
しかし、俺は違った。俺はスエンシェルの襲撃を現状、免れていた。クルーガは皆が避けたことで開いた道を駆け抜けていく。先にはヘリオス。クルーガはコウ達を襲う気はなく、初めから街へ向かっていたのだ。
「コウっ、先に行けっ」
スラッグの後押しで俺はスエンシェルを皆に任せ、クルーガを追う。クルーガはその巨大な体で地面を強く揺らしながら街の方角へ突き進む。動きはとても大味であるがゆえクルーガの足は遅い。他のモンストラクターと比較して、と前置きは必要だろうが。時速五十キロくらいか。あまり大したことのないように感じるかもしれないがこの世界に車はない。今俺達が乗っているこのホイーラーが唯一乗り物と言えるのみ。そしてホイーラーはクルーガと同等かそれ以下のスピードまでしか出ない。
「俺一人ってそんな」
小回りが利くモンストラクター、スエンシェルから逃れられたのは幸いだったが、それが一人だけと言うのはどうしようもない不幸だった。クルーガ退治に長けているスラッグが抜けてくれさえすれば……しかし、皆は遠くなり、追いつくのが困難になっている。最低でもクルーガを足止めする程度の仕事は要求されている。やるしかなかった。
持っている武器で状況的に使えるのは射出型のグラスレットくらいだ。
スクライブを投げてみよう、と屈んでバッグから一つ取り出す。スイッチを押しクルーガの前方へ投げた。スクライブは突撃するクルーガの頭部に接触し、網が広がる。すると、巨体をまるごと覆い包むほど広がった網はクルーガの体を巻き込んで自由を奪った。その身体は網に包まれて地面を抉りながら転がっていく。
よし、止まった。網の中で抜けだそうともがく。本来であれば、その行為は自らの首を絞める結果となる。しかし、クルーガの場合、スクライブの使用は推奨されていない。なぜなら、大型のなかでも力があるクルーガには破られる可能性があるからだ。今の状態なら尚更。十秒と保たずに網は突破される。




