第二章‐10
「スラッシュの意見は実行に値するものだと思うが、ジンバルト、どう思う」
グリムロックに訊ねられ、ジンバルトは考えるように顎へ手をやる。彼は若く、確か二十だったか、少なくとも俺よりも年下だったはずだ。それなのにヘリオスにいる何人もの優秀な仕掛師を追い抜いて最も才のある人材だと言われている。優秀な人間というものは年齢など関係ないのだと思わされた事を思い出す。
「ヘリオス防衛の手段として検討、いや実行すべき案だと思う。壁の強度としては疑問が残る組み合わせだが、試行錯誤する時間がない以上、最低限機能する程度で妥協するしかない。だがそれでも、今夜中に設置できないだろう。夜が明けてからも作業を続ける必要がある」
「君がそういうのなら設置をお願いしよう。有効な設置場所は任せる。今から準備に取り掛かれるか」
「問題ない。これから俺の意見が必要になるときがあれば工房まで伝えに来てくれればいい」
そう言ってジンバルトは講堂から出ていく。それを目で追いながらグリムロックは再び声を張り上げる。
「スラッシュの他に案がある者はいないか。どんなことでもいい。些細な事でも役に立つかもしれないんだ」
今日遭遇したモンストラクターが、標準になっているのなら狩りは今までの比ではない苛烈さになるだろう。どれだけ鍛え、名のあるハンターであれそれは同じだ。弱いハンターならば逃げる者が現れる。現に今日そんな話を聞いた。強力なハンターが死んでいるのを見ればそれも当然だ。しかしだからと言って皆が皆逃げるわけにはいかない。そして数を減らす事もいけない。皆が無事に戦えるように状況を整えなければほんの少し全滅が遅くなるだけだ。スラッシュの案があれば明日の行動指針は出来る。けれども、盤石なものじゃない。だから別の視点を持つ他人の案で補強できればそれに越したことはないのだ。
「明日から不用意に外へ出ないように呼びかけるのは必要では」
「うむ、今日の事で出歩く人も少なくなるだろうが、念押しのための呼びかけも大事だな」
「僕に使えそうな組み合わせの案があるんだ。ちょっと聞いてくれるかい」
「勿論だ」
スラッシュの有益なアイデアに後押しされたように、何人ものハンターが自分の考えを使えるかもしれないと発言していく。単純なものや複雑なもの、簡単にできる事、間に合わない事、意味のあるなしに関わらずそうやって皆が会議に参加しているという現状に高ぶる。普段これほどの人数で集まり、意見を出し合う事はなかった。スラッシュが行うような集団での狩りでも十人前後で、太陽神との報告会でも、普段行われる会議でもここまでの大人数ではない。ヘリオスの危機に対して誰もが一堂に会すこの会議は民の団結力を表現しているようでとても頼もしい。
……当然だが、エーベルバスとその仲間はこの場にいない。恐らくやってきていたとしても追い出されていた事だろう。太陽神をないがしろにするその思想は信者の反感を買う。それはつまりヘリオスのほぼ全員を敵に回すのと同義で、太陽神が平和主義だから未だに無傷で生きているに過ぎない。厚顔無恥なためにここへも堂々やってくるかもとわずかに心配していたのだが、流石に立ち位置を弁えているのか、それとも単に思想が違うものと力を合わせたくないのか。ともかく場を乱す元凶がいないのは好都合だ。
「盛り上がっているね。あまりこういう場には顔を出さないのだが、皆結束力があるようだ」
いつの間にか俺とスラッグの間へ入り込むように仕掛師、トラドキアがいた。
「先日はいい仕事をもらえて素晴らしい狩りが出来ましたよ、あらためてありがとうございます」
「いやいやいや、スラッグ。君達のおかげで良い武器が作れそうだ。我々仕掛師は作る技術はあっても狩る技術はないものだ。これからも頼むよ」
そう言ってすぐに去ろうとしたので慌てて頭を下げる。トラドキアは会釈すると離れていった。わざわざ律儀な方だな、と思っていると、スラッシュが話し出す。どうやら考えがまとまったらしい。
「皆の考えをいくつか拝借して負担の分散方法をまとめた。チャージャーの壁内側にハンターを配置するのは決定事項だが、理想として十名一単位の集団を複数作り、森の奥へ先行して突入、森の外へ出ようとするモンストラクターを仕留める。外へ出るのは現状大型か中型なので森から出られるまで時間的余裕はある。その間にヘリオスへ害を成すであろうモンストラクターを狩る。が、その集団には狩り以外に森の現状を、以前と変わっている部分を記録し報告する仕事も担う事になる。行動範囲の変化、凶暴さ、出来る事ならそうなった原因。奴らは一貫して強度、行動力、種類差はあれど個体差は存在しなかった。兆候は確かにあった。行動力は変わらないものの体躯の個体差が酷くなっていったことは今となってはこうなることを予期できたのかもしれない。森の奥まで行けば分かる事も多いだろう。その集団は狩りと調査、二つの仕事を請け負ってほしい。先行した集団が狩り切れなかったモンストラクターを壁側のハンターは食い止める。単純な策ではある。でも狩りの負担を分散はできるはず」
壁の案を補強する布陣を説明して、スラッシュは一息つき、後ろに下がる。しかし彼は思考を続けているのか、自分の世界に入っているように、話しかけられても反応が遅い。より効果的な案を考えているのだろう。
……森がこうなってしまったのは、乱獲が原因なのだろうか。以前から乱獲によって個体差が増えているのかもしれないと言われ続けていた。以前の個体差は体の大きさが異なる程度で狂暴性や強度などの差はなかったが、いずれこうなるかもしれないとは言われていたのだから、予想通りではあってもあくまで可能性の話で唐突に力が大幅に増すとは誰も想像していなかった。この会議ではまだ話に出ていないが、乱獲、その中心格エーベルバスの名はいずれ出るだろう。もう黙って演説を聞いていられるときではないはずだ。




