第二章‐9
食事もそこそこに、俺とスラッグは暗い夜道を歩く。ランタンの明かりによって道は照らされるが、普段夜は滅多に出歩く事がないので、太陽光が不在なのは寂しく感じる。
今後の方針を議論するため、ハンターや仕掛師など大人数を招集しての会議が急遽行われることになった。いつもなら昼間に行われ、それも十数人程度なので聖堂で太陽神を交えて行われるが、悠長に待っている時間はない。明日になれば恐らく今日同様にヘリオスへと攻めてくる。太陽が姿を現す前に対処法を講じなければならなかった。
スラッグは無言だ。疲れているのもあるだろうが、仲間と、無抵抗な人々の死で心中穏やかではないはず。穏やかでいられるはずがない。ずっと慣れ親しんだ森が、急に理不尽な牙を剥いたのだから。
到着した講堂はとても広く、千人は入れる空間だ。そこにはグリムロックが壇上に立ち、皆が集まるを待っていた。そして暫くしてから、グリムロックは声を張り上げる。
「ここにいる皆は、森がどうなっているのか知っているものと思う。出現以来、一度として起こらなかった街への侵入が起きた。そして程度は不明だが、モンストラクターは以前よりも凶暴さが増しており、長らく当然のものとして慣れ親しんできたモンストラクターが再び脅威へと格上げされた。その二つの事柄により、多くの仲間と民間人が死んだ。とても残念で、激しく腹立たしい。俺はすぐに太陽神様へ報告にいった。何が起こっているのか、知っていると思ったからだ。するとこの異変は世界中で起き、そして多くの命が失われている、と教えてくれた。あの森だけの異常ではなく、世界全体の異常だったのだ。しかし、太陽神様にはこうなってしまった理由が分からないと言っていた。これは神にすら理解の及ばぬ、試練が我々人類に課せられているわけだ。モンストラクターは明日も外に出てヘリオスに攻めてくる事だろう。今日の戦いで多くの仲間が死に、恐怖した者も多くいるかもしれない。だが、我々は脅威に怯えている場合ではない。狩られる側ではなく狩る側なのだ。ここからが今回の議題となる。一度たりとも森から出る事がなかったモンストラクターは活動範囲の縛りを解かれたかのようにヘリオスへ攻め入ってきた。これは皆が知るように勇敢なハンター達によって犠牲は比較的少なく済んだだろうが、いつまでも逐一殺して回るわけにはいかない。この場で有効な策を集めたいと思う。犠牲を出さず、安全にヘリオスを守れる理想的な策を」
ここに集められたのはハンターや仕掛師といった、モンストラクターについて詳しい人間ばかりだ。ハンターはそれぞれが独自の狩り方を編み出し、仕掛師も多くの新たな太陽武器を設計する。有効なアイデアによる一刻も早い対策が必要だった。
「やはり太陽武器の強化をするべきだ。仕掛師、どうにかできないのか」
ハンターの一人がそう言って、太陽武器を製作する仕掛師の一人、ジンバルトが答える。
「勿論それは考慮済みだ。今日仕留められたモンストラクターは我々の元へ運ばれて解体が始まっている。肉体が強化されているのなら、素材にした場合にも同様の効果が得られるだろう」
太陽武器の良し悪しは素材となるモンストラクターによって左右される。これまで同種では大きさしか差はなかったのだが、今日初めて明らかに今までと肉体強度、運動値が高い個体が出現した。このことは太陽武器の大幅な能力上昇に繋がるだろう。犠牲はあったが収穫もあった。
「まぁ、太陽武器を強化したところでヘリオスへの侵入を防げるわけでもない。会議の趣旨とはちょっと外れるんじゃないか」
ジンバルトは冷静に、太陽武器の強化によってなしえる事を評価する。例えモンストラクターを倒す時間が短縮できたとしてもヘリオス全体を守る術としては有効な手段ではない。武器の強化自体は必須なのだが。
「ここはやはり、ヘリオス、または森を封鎖するしかないだろうね」
スラッシュだった。
「具体的にはどうするんだ。早期の対応が求められる、できることなら今夜のうちにできるとありがたい」
「仕掛師の意見も聞く必要があるけれど。チャージャーを森、またはヘリオスの外周に張り巡らせる。それにスクライブを張り付ければ雑だけど多少は持つんじゃないかな。明日の朝には間に合わないと思う、でも何かを設置するとしたらこれ以上手間がかからない方法はないはずだよ。しかし。これだけでは森から出さないという目的は到底果たせない。少なくとも間に合わせの壁である網の内は。要は狩りをやりやすくするという案だね。モンストラクターが外に出ようと網に突っ込み続ければ当然壊れる。だからあくまで予防線という扱いで、網への被害を最小限に食い止めつつ早々に仕留める。インスプロイドやグラスレット、その他強力な太陽武器を用いてね」
スラッシュの考えは、安心まではいかないまでも気休め程度には使えそうな案だった。少なくとも早急になんとかできる範囲内ではそれなりに効果を成し得るように思える。
「網で食い止めたとしても、そこには大量のモンストラクターが集まる。仕留め切れるのか」
疑問を呈したハンターが声を上げる。ここにいるハンターは明日、モンストラクターを迎え撃つ覚悟を持ってこの場に集まっているはずで、この会議の行方如何で自らの運命が決まると言っても過言ではない。無茶な計画を立てれば命を危険に晒す。
「その部分を今整理している途中なんだ。でも、これからどういう案が出るにしろ壁に相当する仕掛けは準備しておいた方がいい」
今日の襲撃の経験から、最も防がなければいけないのは人が死なない事。それもハンターではない者。森に出入りするとき、人は出入り口として整えた道を通る。しかし、モンストラクターはそんなもの知った事ではない。進みやすい道があるかどうか気にする事なくどこからでも出ていく。そして対抗する力のない人が死ぬ。平和主義である太陽神の信者達は意味のない死を嫌う。本来なら森に入ることのない人々は返り討ちに遭う、何て事はありえない。それなのに、今までありえなかったモンストラクターの侵入によってありえてしまった。ここに居る皆が、静かだが、とても強い怒りを携えている。平和を愛するが故に、本来の関係性を信じ続けていた故に。




