第二章‐8
先頭を行くスラッグが持ち前の怪力でエッジライナーを振り、一方のオーレンフライルの足首を切断する。
例え肉体が強化されていると言ってもスラッグの力はオーバースペックだ。そう簡単に耐えられるはずがない。左足首との繋がりを失ったオーレンフライルはバランスを崩しうつぶせに倒れる。すると避難していたハンターに夢中だった他の二体の関心がスラッグに移る。
「コウ、イクリエ、トスツはオーレンフライル一体を仕留めろっ」
オーレンフライルは大型だが細身だ。短い手足、長い尻尾、見た目の印象は爬虫類、とかげに近い。だが爬虫類と違って表皮は鱗に覆われておらず哺乳類のように体毛がある。
「了解っ」
俺達三人は大型モンストラクター、オーレンフライルとの戦闘を開始した。
俺が持つ武器はグラスレット、エッジポスト、インスプロイド。イクリエはクォーラム、テレゲイン、エルエナ。トスツはグラスレット、テレゲイン、エッジポスト。
戦うのに不足はない。十分相対できる装備だ。これがもしマキムダイス三体だったりしたときには相当な苦労をしたことだろう。甲殻類のような体でカマキリのような形状のマキムダイスは元から殻が異様に固く、スラッグでさえ苦労するのだ。それを討伐するのは一筋縄ではいかないだろう。
目の前にいる、スラッグに足を切断されていない方のオーレンフライルは、標準的な大きさ、尻尾まで含めて約二十メートルだ。けれども例によってスペックが上がっているはず。まずはどの程度の動きが可能になっているかの見極めが必要だ。
俺はスクライブを頭部めがけて放つ。球体が接触した瞬間に網が展開して頭部を包み込む。頭を振ったり口を大きく開けようとして網を剥がそうと試みるが簡単には取れない。だが既に網が千切れている箇所が散見された。スクライブの網はチャージャーと比べ耐久力は低い。それでも大型狩猟の際にある程度効果が見込めるほどの強度はあるはずだった。
「今までの武器は半分以下くらいの効果しかなさそうだ」
スクライブの網は十秒も保たなかったのではないだろうか。だがそんなこと関係ない。俺達は破られる前に背中側に回った。
「トスツはそこのグラックを、俺とイクリエは背中に飛ぶ」
「わかった」
空中を移動中にやられてはどうしようもない。潜んでタイミングをうかがっているグラックの処理をトスツに任せチャージャーでオーレンフライルの背中に回る。上手くワイヤーを扱えば下からでも飛び移れる。
生物の弱点はやはり頭部だ。脳を潰して死なない生物はいないだろう。
「うおっ」
オーレンフライルが体を大きく揺らし俺達二人を振り落とそうとしていた。体をできるだけ寝かせてバランスが崩れないように努める。まだチャージャーを解除していなくて助かった。
「体に毒を流してみないか」
イクリエはそう言ってテレゲインを稼動、オーレンフライルの背中に押し付ける。テレゲインは太陽光を熱として出力し燃やすことができる、最も太陽武器らしい代物だ。それゆえか表皮がみるみる溶けていく。力がダイレクトな分、肉体の強化に負けていないのかもしれない。
「コウ、エスターンを打ち込みまくれっ」
「準備は万全だっ」
四本のエスターンを指に挟み溶けて肉が露出しているオーレンフライルの背中に射ていく。その間にイクリエが動く。動きが止まっている隙にチャージャーを頭部に刺して瞬時に近づいていった。
エスターンを打ち込んで効果が何秒続くか確認したところ、約一秒と、一本では殆ど意味をなしていない。イクリエがとどめを刺すまでは動きを止める必要があるのだが……早く仕留めないとエスターンがなくなってしまう。
「届けぇっ」
イクリエが頭部に突き刺したのはクォーラム。初めて見たときは肉を抉っていく芝刈り機、という感想だった武器だ。四つの牙でガリガリと削っていく刃物。元になったモンストラクター、クォーエンは中型の中で最も嫌われている。
「コウっ、コイツは死んだ、次に移ろうっ」
そう叫んでイクリエは背中を伝い俺のところまで戻る。射出をやめるとオーレンフライルは力なく地面に倒れた。
「俺なしで倒すなよ」
グラックを倒している間に俺達がオーレンフライルを仕留めたことにトスツは不満らしい。
それはともかく。
「マキムダイスは苦戦してるな」
もう一方のオーレンフライルは首をほぼ切断していて時間の問題だったがマキムダイスはスラッグが挑んでいるにも関わらず未だ生存している。
原因はどう考えてもグラックだった。俺達にはトスツが倒した一体だけだったが、マキムダイスに挑んでいるスラッグ、スナール、クルツルト、ケイノウの周りには様子を窺うグラックが五体、既に死んでいるのが数体。マキムダイスはスラッグによって脚を二つ落とされているものの死ぬ気配はない。
「さっさと倒して帰るぞっ」
グラスレットを構え、グラックに向けてゴードを放つ。ゴードは大型用の矢
だ。小型や中型には威力が強すぎるきらいがある。目の前のグラックにはそうでもないらしい。ダメージ具合は今までの大型に放ったとき程度。現在の中型モンストラクターの肉体強度はおおよそ大型モンストラクター並みといったところか。
グラスレットを背中に担ぎ代わりにインスプロイドを手に持つ。グラック相手だとやはりこの武器が適切だ。
チャージャーで俺はグラックを接続、そして跳ぶ予備動作を見逃さない。俺達は同時だった。一方は跳びもう一方はワイヤーを巻き取る。双方がぶつかった瞬間、片方、グラックは肉体を破壊され肉が地面に散乱した。
グラック退治を五人が行い、マキムダイスの注意を二人が請け負い、スラッグ含む三人が頭部破壊までこぎつけ殺すことに成功した。
「皆っ、早く降りてこいっ、大型がいない今が絶好の機会だっ」
戦闘をずっと見守っていたハンター達は恐る恐る木の下に降りてきた。一緒にホイーラーへ乗って、来た道を戻る。モンストラクターはいつだって現れる。グラスレットやスクライブ、遠距離系武器で牽制しながらヘリオスへ。肉体強度や強さは大型並みにスペックアップした中型でも、大きさは目に見えて変わっていないため、スクライブで覆える分まだ対応が楽だ。
それでも間近に迫るモンストラクターは近接武器で薙ぎ殺す。俺達は必死に逃げた。
ホイーラーから降りて森から出た直後だった。小型区域を突っ切って中型モンストラクター、クォーエンの群れが森の中から現れた。数は七体。
「君達は下がっていろ、俺達が仕留める」
救助した四人を下がらせて十人が前に出る。ここで彼らに死なれてはせっかくの救援が無駄になってしまう。
種類ごとの性能がどれほど上がったのかは分からないが、おおまかな予想はできてきている。救援に向かう中で複数種と交戦したことには大きな意味があったようだ。俺達は苦労しながらも七体全て倒しヘリオスへと帰還した。
ハンター達が防衛するヘリオスの入り口を超えた先の道、大の字になったり倒れ伏したり、緊張の糸が切れたように皆、疲れが体を包む。
「俺としては誰一人死なずに帰ってこられて嬉しいところだ」
エッケンラートがそう言うと救援組は苦笑い、救助された組は暗い顔。結果的に人一人死んでいる。良い発言ではなかった。
「スラージ。……あまりいい知らせは聞けそうにないな」
武器を持って森を見るスラージに向かってスラッグが話しかけていた。スラ
ージは俺達に負けず劣らず、むしろ勝っているくらいに疲弊しているように見えた。俺も立ち上がり話を聞きに行く。
「その通りだ。もう見ているだろうが、七人死んだ。ウーロ、ハーバーガケット、リエント、ホーブ、ビレイ、キミゲシカ、ロッタ……皆が大型に慣れたハンターだった。貴重な人材を一瞬で失った」
スラージによれば俺達がルックを退治して森に入ったあと、六体のエッジスコナーが現れた。モンストラクターが狂暴化していると聞いてはいても具体的な情報はなにもない。そして慣れというものは恐ろしいもので普段通りに挑んだらしい。しかし未知の動きをすぐ目の前でやられ呆気にとられたモンストラクターマニアは死に、それに気を取られた二人が更に死んだ。そのときのエッジスコナーはなんとか仕留めたが、その後に現れたモンストラクターにもやられた結果七人という数になった。
「くそっ、なにが起こってやがんだ」
とっくに息絶え肉塊となっているモンストラクター、トリゴに湾曲した剣を何度も突き刺し怒りをあらわにしているのはスコーン。彼は派手な戦いを好むが、こんな襲撃は望んでいないとばかりに表情が歪んでいる。
大通りであるここはスラージ、スコーン、スラッシュが中心となって守っていた。
「またきやがった」
中型モンストラクター、ルックがまたも、現れた。森から戻った俺達も武器を構えて防衛に加わった。
太陽が沈んでやっと、モンストラクターの攻勢は止んだ。間隔にはバラつきこそあったが一時間に一、二度の頻度でモンストラクターは森から抜け出してヘリオスへ侵入しようとする。種類は中型から大型、数は始めのルックが多かっただけであとは五体前後が大半だった。
モンストラクターはどの種類も強く、更に八人の犠牲が出てしまった。だがこの八人は全員がハンターではない。ハンターは大通りを張っていたが、森はどこからでも外に出られる。そのため武器を持たない人間が殺された。それがトリゴ二体だけで、すぐにハンターが仕留められたために八人で済んだに過ぎず、ヘリオスは無防備に等しい。
今日一日は狩りをひっきりなしに続けて、ハンターは俺含めゆっくりと考える時間がなかった。この状態が一体なんなのか。どうやって対処するべきなのか。この異常事態をどう切り抜けるかを早急に考えねばならない。今日はまだ終わらないのだ。




