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太陽の声  作者: 仲村戒斗
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第二章‐4

 数日後。狩りに出かけない今日は三人で洗濯や買い出しなどアテラだけではこなしきれない仕事を共に片付けてから聖堂に向かっていた。太陽が真上で燦々と輝いている今の時間、地上の気温はとても高く、暑い。日中は森にいることが多いためここまで暑さを感じないのだが滝のように汗が全身から噴き出して気持ち悪くすぐにでも吐きそうだ。

 

なんとか持ちこたえて聖堂の中に入ると、さっきまでの熱射が嘘のように消える。建物内には風が循環していて涼しく、まるで熱を遮断する何かしらの働きが生じている森のようだ。


「ふぅ、気分が落ち着いていくよ。やっぱり昼間の日光は堪えるね」


「こればっかりはいつまで経っても慣れようがないな。鍛えたことでいくらかマシにはなっても根本的な解決にはなりえない。お手上げだ」


 長椅子に座り共に布を取り出して汗を拭っていく。そしてバッグに入った水筒から水を摂取すれば気分は十分に回復したと言える。


「お二人とも、ご苦労様です」


 靴を鳴らし俺達に寄ってくるのはこの聖堂に住まうコードペイター、サモスタルコス。太陽神に選ばれた彼はこの都市で唯一の存在価値を担っている。

 周りを見ると、グリムロックを筆頭に何人ものハンターが集まっていた。


「サモスタルコス様もお役目ご苦労様です。太陽神様は来られるのですか」


「ええ、勿論。世界の歪みを正そうとする者は大歓迎です。時間は作ってあります」


 世界の歪み、と聞くとこの世界全体が歪んでいっているんだということを再認識する。この世界にきて一年程しか経っていない故に、モンストラクターが元々種類差はあれど、それぞれの種で個体差が全くなかったことを知らないため実感としてはないに等しいからだ。


 以前、疑問に思ってスラッグに訊ねたことがあった。個体差があることはまずいことなのか、と。対してスラッグは返答せず、代わりに聖堂へ連れて行き太陽神様の声を聞くように言われ、そして聞いた。モンストラクターに個体差が生まれているのは何者かが世界のバランスを崩し、歪みが生じたからだと。神はとても苦しそうに、悲しそうに語った。太陽神は神であるから、歪みの影響を直に受ける。しかし神であるけれどその原因を特定することはできない不完全さがある。神は世界を見ているが、それは感覚的なものなのだと言っていた。


「世界を正そうと奮闘する若き命達よ、我の声を聞くべくこの場に来てくれたことを感謝する」


 サモスタルコスの体には早速、太陽神が憑依して声を俺達に向けて届けてくれていた。場を沈ませ、グリムロックが口を開く。


「太陽神様、まず先に報告をさせていただきます。近頃ヘリオスを賑わすエーベルバスについて。エーベルバスは前に報告したときから変わらずモンストラクターを必要以上に狩り続けており、今現在も森の中にいます。彼らが狩った種は乱獲の影響か、再び姿を見せるまで数日を要します。今までそのようなことはありませんでしたので深刻な事態が進行していっている模様。注意を呼びかけても、神に貢献していると一点張り。聞く耳を持たない。強行手段を持ち出さない限り解決は難しいと考えます」


 エーベルバスとその仲間はこのところヘリオスで聞かない日はない程問題のある存在だ。モンストラクターは現状、狩りすぎないように太陽神が制限を掛けている。生態系を崩さないためだ。とは言っても、森自体が広大で数も多いことから実質ないと言っていい制限だった。しかし禁止令を提示しなければいけない程エーベルバス達はモンストラクターを乱獲している。


 エーベルバスは現在五人で狩りをしており、朝早く森に入り陽が落ちる前にヘリオスへと戻る。定期的に広場で演説を行っており、我々が行っているのは神に仇なす存在を殺し尽くすという信仰心の現れであると。よりよい世界を作るため綺麗にしていっているのだと主張している。


 しかし太陽神はそんなことを一切望んではいない。モンストラクターは狂暴で恐ろしい動物ではあるがこの世界で共に暮らしている、神にとって人間と同等に愛すべきものなのだ。生態系を崩さず安定して世界を存続させるには乱獲などという余計な死を無駄に増やし続ける行為は今すぐにでも止めたいはず。コードペイターの体を通して声だけしか地上に顕現させられないことに悔しい思いをしているに違いない。いくら神と言っても思考が人間と違いすぎることはないだろう。同じように憤るはず。


「モンストラクターが棲む場所はあの森が最大規模であり、世界の中心である。あの森のモンストラクターが死に絶えることがあれば人類は飢餓に陥ることとなるのだ。しかしそれほどまでにモンストラクターを狩り尽くすことはエーベルバス以下五人には到底できることではない。他にも仲間がいるはずである。調べはまだつかないのか」


 太陽神は淡々と、しかし威厳を持ったままよく通る声で皆に伝える。ヘリオスでエーベルバスは確かに一刻も早く対策を講じたい人物ではあるが、彼の存在以上に森は深刻なダメージを負っていた。


「調べた限り、ヘリオスの領地ではエーベルバス以外の乱獲は確認されていません。ヘリオスは皆素晴らしい心を持っています。エーベルバスらが異端すぎるのです」


 グリムロックはヘリオスの結束力を強く信じる。彼の人生の中で仲間を信じたことで良い結果を得てきたことを感じさせた。それは他の皆も同じで、俺だってそうだ。スラッグやスナール、ヘリオスの皆のおかげでこの世界に馴染み不自由なく生きている。だからエーベルバスのような異端が目立つ。元いた世界ではもっと市民権を得ていたであろう、清くない心を持った人間。


「であればやはりアレス側の森で乱獲が行われていると考えるのが適当だろう。アレスにコードペイターはおらず、状況が不明瞭だ。彼らが一方的に交流を絶ったのは後ろめたいことを行っているからという可能性が高い。確証を得て、止めさせるように働きかけるのだ」


 アレスにはヘリオスと違って聖堂や、コードペイターが存在しない。モンストラクターが現れる以前は森が今のように行き来が困難でなかった事から、ヘリオスの聖堂にアレスの住民がやってきていたらしいが、交流を絶たれている今はやってくる気配は微塵もない。


「そう簡単に言いますが、太陽神様。もしそうだとしたらアレスは何十年と乱獲をしてきたことになります。そんな奴らにいくら呼びかけても止めるとは思いませんがね。エーベルバスみたく神に貢献していると思っているのではないかと」


 あの森は規模が大きすぎる。小型区域から大型区域まで直進して到達するにはホイーラーに乗れば一時間もかからないが、大型区域が広くモンストラクターも強力なため更に反対側まで行こうとすれば倍以上かかるだろう。ヘリオスとアレスが交流を一切絶つことになってしまったことも納得できる。ヘリオスの目が届かないアレス側まで調べるのは至難の業だ。


 アレスとの断絶はモンストラクターが原因とはいうものの、現在では技術的な問題より、折り合いがつけられなかったことが大きいらしい。太陽武器が開発されて森の突破が可能になった頃にアレスと交流を再開しようと使者が派遣されたとき、アレスはそれを拒否した。理由はわからないが、森を今まで通り半分ずつを領地として、互いに干渉しないようにと彼らは言った。以来ヘリオスはアレスと決別し交流することをやめた。


「我はここにいる民を信頼している。しかしこれ以上森が荒れれば世界がどうなってしまうのか、想像だにできない」


 俺達にとって神は特別で、世界の頂点だ。ヘリオスの誰もが崇めてその存在を尊いと認識している太陽神が、理解できない未来へ向かうという。

 太陽神はずっと具体的な説明を行っていない。モンストラクターに個体差が現れたことによってどのような影響があり、どのような結末を迎えるのか誰も知らない。ただ太陽神が焦り恐れているから同調しているにすぎない。


 だがそれも致し方のないことだった。これまで太陽神は世界と共にあり、地上に顕現する以前から世界を照らして恵みを与えていた。顕現してからは直接世界を幸福に導いて捉え方は違えど多くの心を一つにした。なんの説明もなくとも助けを求められれば誰もが神を助けようとする。そんな土壌が出来上がってしまっていた。俺とて例外ではない。皆ほど信じきっているわけではないが、神とは出会ってから幾度も対話し、考えを聞いた。結果、俺は神を助ける意義があると判断し、今に至る。悪い存在では決してなく、神は世界を見守っているだけで本当に知らないか、理由があって説明することができないに違いない。俺はそう解釈してこの会合に参加していた。


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