第二章‐2
「あんなに狩っているけど、運び出し大変じゃないかな、今日中に終わるだろうか」
ただでさえ移動が難しい大型の骸をあんなハイペースで増やされたら、後処理が億劫でたまらない。だがスナールは胸を張って自信満々に口を開く。
「あのスラッグだぞ、あいつならできるさ。恐らく。俺は応援してるぜ」
「おい、全然安心できないじゃないか。そして手伝え、自信満々に言うなよ」
「確かにいくらなんでもこれ以上はまずいかもね、ここらで打ち止めにした方がいい。依頼側もこの量は想定外だと思う。一週間で十種の大型を仕留めてくれ、程度のものだったはず」
モンストラクター狩り勝負の大元はスラッグが受けた、大型の研究材料を手に入れたいという依頼だ。一週間で十種の指定された大型を狩ってくれればいいというものだったが、それをスラッグは四人でやれば一日で終わる、勝負にすれば楽しいぞと言ってきたのだ。結果的に四人で十種は達成しているがスラッグが単身狩りまくっているせいで重複が過ぎる。残りは受け取ってくれないと思うんだけれども。依頼を忘れて勝負に熱中しすぎだ。
「スラッグのとこに行こう。勝負はあいつの断トツ勝利ってことで決着」
俺達を狙って付近を大型が動き回っているのを無視し、腰のチャージャーをスラッグがいる方向へ向けてアンカーを射出する。この大型区域では木を渡っての移動が主流だ。どんなに優れたハンターでも、大型がうろうろしている地面は移動が難しい。ワイヤーを巻き取って離れた位置にある木に移動する。初めのうちは苦労したワイヤー移動だが、今では見誤ることなく無事に渡り切ることができるようになっていた。スナールとスワープも俺のあとに続く。流石ベテラン、余裕を持って渡っている。
スラッグの元にたどり着くまで五分。こちら側に寄ってきていたので合流は割と早かった。
「勝負はお前の勝ちで終わりだ。後片付けに入るぞ」
エッジライナーを肩に担いでまだまだ俺はやると言わんばかりの眼光を宿していたがそれを認める訳にはいかない。あんたはどれだけ狩れば気が済むというのだ。主にスナールが説得し、どうにか狩りを続けようとするスラッグを引き留め、狩ったモンストラクターをホイーラーが引く荷車に載せる。
「まさか超大型に全く出くわさないとは驚いたぞ。数増えてきてるってのに」
「モンストラクターだって馬鹿じゃない。スラッグと戦う時期を鍛えながら待ってるんだよ。いずれ向こうから探しに来るさ」
スワープが希望的予想を述べる。しかし笑いながら言っているので一ミリもその可能性を持てない。多すぎるモンストラクターの量に、流石に不満を漏らす。
「気に入らないスペックなら見逃せばいいんじゃない、今どれだけ大変か」
求めるものが高スペックの超大型なら平均的な大型を見逃せば、運び出しがここまで大変にはならなかっただろう。スラッグの分だけで十四体だ。多い。
「はっはっは、しかしこれだけ狩ればいい稼ぎになる。良かったな、良い飯食えるぞっ」
過剰分を依頼者が引き取らなかったとしても、残りを市場に持っていけば売ることができるから依頼料を含めれば相当な金額にはなる。そこに関して不満はないのだが、もっとこう、一日に濃縮されすぎというか、もっとゆっくりやりたかった。
結果的に、仕事が全部片付いたのは太陽が傾きだした夕方だった。勝負を始めたのが早朝、切り上げたのが昼、そこから四、五時間くらいは荷運びに使っていたことになる。なんてことだ。大型モンストラクターを狩るとき、一番大変なのは荷運びだ。小型、中型ならまだいいのだが、大型区域だと襲ってくる種類が多く、どれも強い。そいつらを避けたり相手をしながら移動するのは困難で骨が折れる。それを計二十四体分、数時間でやってのけたのだから俺達は街中から褒め称えられてもいいと思う。自業自得だからそんなことはないけれど。
「何日分の仕事だよこれ……」
ヘリオス中央広場のベンチで俺達四人は汗にまみれながら腰かけたりうつぶせになって呻いたり疲弊しきっていた。流石のスラッグも湯気を出して俯いている。スナールくらいは軽口を叩くかと様子を窺っていたのだが一向に口を開く様子はない。この中では華奢な部類に入るスワープは目が虚ろだ。もはや意識があるのかも怪しい。俺達はそれから暫くずっと動けなかった。
体力がある程度回復し、そろそろ帰ろうかと思ったときだった。広場がなんだか騒がしくなっている事に気付く。
「あいつら、また今日も獲物自慢か。神様は喜びやしないってのに」
賑々しさの中心を見据えてスラッグが憎々しげに呟く。スナールとスワープ
も同じ方向を向いて嫌な顔をする。
「我々は化け物共を狩りつくし、生きやすい素晴らしい世界を太陽神様にお返しする事をこの胸に誓いますっ、大昔から世界を混乱に陥れ、平穏を脅かし、多くの血を流した憎き化け物をこれ以上森にのさばらせていいのでしょうかっ、化け物共によってどれだけの同胞が死んでいったことか、それはもう数えきれないほど多くの犠牲を払ってきました。それをこれからも続けていくというのでしょうか、そんなことあってはなりません。神は言いました、化け物によって光は失いつつあると。化け物は狩り尽くさねばならないと。そうです、神は我々に訴えたのです、化け物によって力を失いつつあると。そうであるのなら動き出さねばなりません。化け物共を狩り尽くすのに五人では少ないのですっ、どうか、神を助けるためにっ」
まばらに集った人々の視線の先にいる男は演説のように大きな声を出して訴える。全く理解できない内容を。叫ぶ男はエーベルバス。傍には四人の仲間が立ち、周囲には狩ってきた数種の大型モンストラクターを並べている。
「一体、太陽神様の言葉をどう聞き間違えたらそう解釈できるってんだ。なぁ」
スナールの意見は尤もだ。太陽神は一貫して乱獲はいけない事だと言っているし、現状維持の方針を貫いている。それはモンストラクターが現れた時からずっとで、故に今もこうして何も問題なくモンストラクターは地球上で人類と共存している。
「モンストラクターを全滅させたらどうなるか、想像できないのかな、彼らは。世界を保っている太陽神が乱獲をさせないのは、そこに問題があるからなのに」
「代わりに別の大人しい生物が湧いて出てくるならいいが。しかしそんな保証はどこにもない。ただ狩り尽くしても飢え死ぬだけ。考えなしだ」
スワープもスラッグも、エーベルバスの演説には当然共感しない。当たり前だ。するわけがない。俺だってそうだ。信じられる要素が何もない。しかし、人間とは面白いものだ。いや、面白くはないのだが。
「エーベルバスが妄言をまき散らす事は別に大したことじゃない、なんたって妄言だ、それ自体はくだらない冗談でしかない。言っている本人はともかく。けれど、それを聞いて、同じ思想になってしまう人間が出てくる事は頂けない。例えそれが理屈の通らないものだとしても声をデカくして何度も何度も訴えれば真面目に耳を傾け、そのまま染まり切ってしまう」
エーベルバスを見ている民衆は少ないが、中には発言にいちいち頷いている人が何人か見受けられた。恐らく、ほとんど真に受けてしまっている。誰もが太陽神の言葉を直接聞いているはずなのに、なぜ違う人間の言葉を信じてしまうのか。
「どうにかしなきゃあ、本当にまずい事になりかねない」
今はまだ極少数だが、更に増える可能性は十分にある。最初から破綻している演説だ、むしろ増えていく一方になる。エーベルバスはヘリオスを歪めている、大きな問題だ。
「エーベルバスの件は何度も議論されてる、でも現状維持って結論になってしまう。ちょっとずつ進展はしているんだけど」
溜息をつくスワープの表情は浮かない。
「あいつらのせいで森が荒らされているのはたまんねぇよ」
エーベルバスを見つめるスラッグの目はとても恐ろしかった。森の中で自慢の体を動かし、モンストラクターを狩る事が生き甲斐だと語る彼にとって、生態系を乱す彼らの存在は疎ましくて仕方ないのだろう。しかしそう思っているのは俺だって、ほとんどの住民もだろう。森が乱れればダイレクトに生活が乱れる。森の維持は必要不可欠なのだ。
しかし太陽神の許しが出なければ、エーベルバスを勝手に裁く事は許されない。今はまだ眺める事しかできないのだ。




