第二章‐1
異様に成長した巨木が生い茂る広大な森。太陽は煌々と輝き全体を明るく照らす。そんな森の奥地で巨大なモンストラクターを追いかける。前方を行くゴーガンは俺の存在に気付かず、その目は更に前方のカンテローを捉えている。ゴーガンは大型に属するモンストラクターに相応しく巨大な肉体を持つ。上半身が肥大して大きく、下半身が小さいという体躯で移動の速度は奴らの中ではとても遅い。人間の俺でも苦労せずに追いかけられる。ゴーガンの特徴は異様に発達した上半身だけではなく全身を覆う硬質の皮もだ。動きを妨げないよう、ひび割れたように纏うそれは多くの攻撃を防ぐ。その前脚で殴られれば凹凸の激しい皮によって激しく崩れた死体となるだろう。
仕留める方法はいくつもあった。場所、状態、持ち物、いくつもの要因、制限によって選ばれる策は変わるが、俺は数ある中で適切なものを選び行動に移す。それはとても簡単だ。ゴーガンの後方から並走するように左前方へ移動する。奴の視界は狭く未だ気付かれていない。腰に吊り下げた球状の物体を取り外し、ゴーガンが走り続ける方向に投げた。すると球体は接触されて弾け、中から大きく広がる網が展開される。捕獲用の太陽武器、スクライブだ。最大十二メートル五十センチまで広がる広範囲捕獲網はゴーガンの動きを鈍らせるどころか、前脚を絡ませて転ばせる事に成功する。スクルトールの細く、華奢だが柔軟性のある毛で形成されたスクライブはもがけばもがくほど捕獲対象を絡め取っていくのだ。だが、大型は力のある種類が多く、ゴーガンもその一種。今はもがいているが暫くすれば網を破るだろう。捕獲網としてスクライブは優秀でもチャージャーのように剛健さはないため大型の力に対応しきれない。それでも狩りには必要で、十分役目を果たせる。網が突破される前に次の行動へ。
網に絡まってもがいている傍の木に備え付けの巻き取りワイヤー、チャージャーを使って登った。そしてインスプロイドを持ち、ゴーガンの頭上に飛んだ。木上から目標までの距離は約五メートル。そこそこの高さだが、問題はない。俺はインスプロイドを下に向けて自由落下した。これは衝撃をこの太陽武器に集中させることで機構を極限まで発揮するためである。ゴーガンは網を突き破り体を解放させたが、急所はむき出しだ。後頭部のやや後ろから首にかけて硬い皮が存在しない死角に向けてインスプロイドを衝突させた。衝撃を受け止めた太陽武器は圧を受けて、接触している頭部に杭を突き刺す。更にそれは内部で展開、ヒレのようになった杭は三百六十度回転する。
こうして大型モンストラクターは隙間を狙われたあげく脳を破壊されてあっさり狩られたのだ。
「お見事。手際のいい狩り、素晴らしいぞコウっ」
「狩れば狩るほど洗練されていくようだよ、コウは」
近くで眺めていた二人が手を叩きながら現れる。スナールとスワープだ。
「んなこと言ってないでアンタらも狩れよ、誰が一番大物狩れるか勝負中だろ」
俺達はスラッグの発案で誰が多く狩れるか、誰が最大のモンストラクターを狩れるかの勝負をしていた。
「自分で狩るよりコウの狩りを見ている方が楽しくてねぇ」
「俺らは大型をぽんぽん狩れるほどの力は持ってねぇしな。実質スラッグとコウの勝負だろ」
「冗談言うなよ、大型狩ってるのを何回だって見てるぞ。というか俺だってぽんぽん狩れねぇっての」
スワープも、スナールも筋肉達磨なスラッグほどではないが大型を容易に狩れる実力を持ち合わせている。さっきまで、クルーガやインスライノ、オーレンフライル、俺が今狩ったゴーガンだって彼らは仕留めていた。
「スラッグはどうしてる、遠くで音は聞こえるけれど」
この森は広く大型区域だけでも広大な土地だ。共にいるスナールとスワープも離れた場所にいたのだが比較的近場にいたため、俺の狩りを眺めるという有り様に。ショーじゃないんだぞ。しかしスラッグは一人で遠くへ行き、つぎつぎと大型を狩っているらしい。ときおり重量のあるものが倒れる音が聞こえてくる。一体何体狩っているのだか。
「少し前に近況を窺いに行ったらクルーガ四体、エッジスコナー一体、カンテロー六体、ゴーガン一体……だとさ」
書き留めていたメモを取り出してスワープは読み上げる。彼は記録係を請け負っていた。十二体って、なんて多さだ。
「ただ、どれも納得のいくものではないようだ。個体差が激しくなってきたとはいえ、ここまで大物を狩れないとは運がないね。獲物自体の充実具合で言えばコウの方が上かもしれない」
苦笑するクールガイは言外に自分でさえ大物を狩っているのに、と含ませているかのようにスワープ自身のハント状況を指す。その記録にはそれぞれの名前が横に三つ並び、その下にモンストラクターの名前と仕留めた個体のスペックが羅列して書かれていた。文字はカタカナで書かれているように見える。
この世界にきてから様々なものを観察し分かったことは、俺が日本語だと思っていたものは主観だけ、ということだった。誰も日本語を話していないのだ。彼らの言葉を注意深く聞くと、ごくわずかに間が生まれる。声は動いているのに音声は遅れて聞こえるのだ。ほんの一瞬なために気付きにくいが、一度気付けばとても不思議な感覚となる。故に言葉がそのまま伝わらないことは多い。日常的に必要な言葉でないことから不便ではないのだが。この文字だってカタカナで書かれているように見えていてもそれは俺がそう見えているだけで実際は別の文字が記されている。これも一瞬だけ、違和感が発生する。文字を見ると認識する直前に文字が変化する。本来の文字からカタカナへと。これらの原理は不明だが、俺の過去を知る上で重要なことだと考察する。一番不思議なのは、俺は日本語を話しているつもりなのに別の言葉を話している事か。
脱線した。それぞれの成績を見る限り俺達三人は狩り数とスペックを総合すればドングリの背比べってところだ。いやこの比喩として不適切かな、いやこの言葉に卑下した意味はなかったかな、どうだっただろう。まぁいい、ともかく大した差はない。一方、スラッグは個体スペックこそ低いものの狩り数は多いため、暫定一位だ。今俺達が話している間にも音が聞こえた。場所からしてスラッグがもう一体仕留めたに違いない。
「スラッグの勝ちだなこの勝負。あの勢いじゃ勝てねぇよ」
モンストラクターかあの筋肉、と褒めているのに貶しているような口ぶりで称賛するスナール。あんたも相当鍛えている部類ではあるけれど、確かにスラッグの体は恵まれ過ぎていると思う。初めに見たとき、コイツは人間かと疑った、かは覚えていない。ともかくよっぽどの大物を仕留めない限り追い上げることは難しそうだ。
「というか移動しないか、視線感じるんだけど。せめて木に登ろう」
俺達は数分の間地面で立ち話をしていたために、格好の餌食だ。俺達は手っ取り早く木の上に登る。




