第一章‐13
「どうでしたか、太陽神様の声は」
「神と表現する他ないと、思いました」
素直に感想を言えばそう言うしかない。本物の神と全面的に信じたわけではなくとも、その存在感は神としての風体を表現して余りあるものだった。太陽神と名乗るあの存在がスラッグやアテラ、ヘリオスの民にとって崇められるだけの影響力を有するのは事実のようだ。そうして神について思考していたとき、スラッグが俺の顔を見て慌てたように声を掛ける。
「コウ、大丈夫か」
指摘されて、しかし意味が分からなかった。大丈夫も何も、変なところはない。
「顔色が悪いぞ。どうしたんだ」
同意というようにアテラも頷く。どうやら本当に顔色が悪いらしい。何故だろう、と顎に手をやろうとして手が震えている事に気付く。
「なんだよ、これ」
まるで何かに恐怖しているかのような反応を俺の体が表現しているようだ。もしや、これは思考の奥で燻っている気持ちの悪い感覚が表に出たのだろうか。思いつく限りではそれしか見当たらない。
「コウ、安心して。何も怖がる事はないのよ。大丈夫だから」
アテラも恐怖している事を感じ取ったのか心の平穏を促してくる。
「うん、大丈夫、大丈夫。多分すぐに治るよ。ほら、ここって日光が強く入るじゃないか、そのせいで具合が悪くなったんだよ、きっと」
そういうことにして誤魔化す。日は当たっていないし、意外にも暑くないので嘘にしても下手だったが、一応は納得してくれたようだ。長椅子に暫く座って落ち着かせる。
「顔色、よくなってきたみたいね。でも油断しないで、歩いたらまた具合悪くなるかもしれないから」
「おいおい、そんなんじゃ本当に貧弱だぞ、コウ。もっと逞しいところを見せてくれよ」
アテラは動き出しても心配する言葉を続けたが、スラッグは鼓舞するような言葉を発する。どちらも心配してくれているのだけれど、方向性が違って面白い。神という超常的存在と接する事も興味深いが、対等な人間と会話する方が安心する。
「スラッグ、昨日言っていた通り、俺に狩りを教えてくれよ。早く役に立ちたいからね」
頭の中のもやもやをを取り払おうと、別の事で思考を満たしたい。
「当然だ。厳しくいかせてもらうからな」
スラッグに小突かれながら、俺達は聖堂を後にする。サモスタルコスは何も言わず、微笑を浮かべて俺達を見送った。
「まず、モンストラクターを狩るなら基礎知識、方法を知らなければ話にならない」
太陽神と謁見した聖堂から帰宅し、スラッグは家の二階に俺を伴って上がった。三つある部屋の一つに入ると、そこは窓が数多く備えられ、日光が入りやすいようになっており、そこには壁や机の上に大量の何かが置かれていた。中には見覚えのあるものが置かれている。スラッグがエッジスコナーの首を落とした大剣だ。
「ここにあるのは太陽武器。直接攻撃する武器もあれば間接的に攻撃する武器、狩りの動きを円滑に進めるための道具、狩りには使わない道具、モンストラクターを材料にしたものがここに置かれている。太陽武器ってのはモンストラクターを材料にした道具全般を指すんだ。これらは太陽の光を浴びて作動する」
部屋中に置かれている道具をスラッグは両手を目いっぱい広げて示す。刃物状のものが多く、弓のようなものや槍のようなものもある。だが殆どの道具が用途不明だ。独特の設計思想があるらしい。現代知識が全く役に立たない。
「太陽の光を浴びて作動するって、どういうことなんだ」
「言葉通りさ。太陽武器と呼称される、モンストラクターを材料とする道具群は、太陽が照らしている日中にしか使う事ができないという制限がある。剣の機構がないものは使えない事もないが。例えばこの武器を例にしよう」
壁に掛けられていた、弓のように見えるものをスラッグは手に取った。弓のような、と例えたが、詳しく描写するとそれは全く別の物かのようになる。左右非対称の線で繋がれたひし形で、大きく張り出した片側は太く、革に覆われ、もう一方は骨のような部分と金属然とした素材が入り混じった細めの接合体。そして革に覆われた太い側の中心から、細い側の中心に向かって棒状の物が生え、先端付近には掴めるような形になっている。
「これはグラスレットと言って、グラックというモンストラクターから作られた太陽武器だ。この部分を引いて離すとこの筋肉の力によって矢を放つ事ができる」
グラスレットは知識とは違い、弓では弦に相当する部分が逆に配置されており、前方に位置する弦、グラスレットでは筋肉だが、それによって矢を放つ。そして聞き捨てならない言葉を聞いた。
「筋肉って、モンストラクターの筋肉を使っているのか」
そうだ、とスラッグはグラスレットの皮の固定を剥がし、内側を露わにする。そこには皮の下に覆われているべき筋肉がそこにはあった。
「こんな綺麗な筋肉、すぐに腐るんじゃない」
その筋肉を触ってみると熱を帯び、生々しい。まるで今も生きているように温度がある。
「なぁに言ってやがる。陽に照らしてりゃ腐らねぇだろうよ。ほら見ろ、この部屋には日光を採り入れやすくするために窓が多いだろう。部屋全体に日光が行き渡るように設計されているんだ」
太陽からの光は一面の窓からこれでもかと入り込み、その先に広げてある武器に光が浴びせられている。だが、陽によく当たっているかを聞いているんじゃない。陽に晒したら余計腐るだろう。いやモンストラクターだから腐らない、そんな馬鹿な。




