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終焉の雫 ~Larmes du Ciel~(第一部)  作者: まきの遊夢
I-02 混沌の幕開け編

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【I-005】定刻来たる

 店内の客たちは、血の気を失ったかのように顔を青ざめさせ、またある者は半信半疑のまま慌てふためきながら、一斉に散っていった。


 店主でさえ、店を放り出して裏の自宅へと逃げ去っていった。だが……エマとリュックの姉弟は、あまりの衝撃にその場から一歩も動けなかった。


「……戦争が、始まるっていうの……!?」


 エマは自分の口から出たその言葉に、現実の重さをどうしても結びつけられず……ただ、心を揺り動かすばかりだった。リュックもまた、放送を聞いていた時の姿勢のまま、簡素な木の椅子に座って呆然と虚空を見つめていた。


 エマとリュックが生まれてからこれまでの時代も、決して平穏とは言えなかった。大王国やマリプレーシュ侯爵の悪政によって治安は常に不安定で、彼らはまだ幼い頃、暴動によって両親を亡くすという辛い経験さえしていた。


 それでも──国と国とが真正面から衝突するような大規模な戦争は、いまだ経験したことがなかった。


 そんな姉弟の傍らで、険しい表情のまま黙考していたシーマが、低く呟く。


「さすが、“炎”と呼ばれるだけはある……前代の皇帝たちとは一線を画しているな」


「炎……?」


 唐突な言葉に、エマは戸惑いの色を浮かべた。


「情報に通じた者しか知らん話だが……あくまで噂の域を出ないものだ。先代のグランフェルテ女帝は、二十年前に国を追放された。理由は──“魔族”と親しくなり、その子を身籠もったからだ」


「ま、魔族……!?」


 エマは息を呑んだ。それは彼女も、物語や新聞で読んだことのある存在だった。


 人里離れた地にひっそりと暮らすという、異形の種族。人間離れした外見と、人を惑わす特異な力を持ち、かつては世界に広く存在していたという。だが、その力はリュックたちが学ぶ“魔術”の領域をも超えていたため、恐れを抱いた人々によって迫害され、虐げられ、そして虐殺されていった。その結果、今では数えるほどしか残っていないとも言われている。


 勿論、エマもリュックも、実際に彼らの姿を目にしたことはなかった。だが──その存在が、この世界の片隅に、今なお息づいているということを、彼らは知識として確かに持っていた。


「その、子供というのが……」


「──現在のグランフェルテ七世皇帝だ」


 シーマは静かに言った。


「“炎”という異名は、大王が先ほどの放送でもちらつかせていた通り、その特徴的な容姿に由来するらしい。……だが、あの様子からするに、気質そのものもまた“炎”と呼ぶにふさわしいようだ」


 続けて、低く呟くように語る。


「奴はエクラヴワに忠誠を誓っているふりをしているが──遅かれ早かれ、反旗を翻すだろうと。そうした筋の者の間では、かねてより噂されていた」


 確かに、エマたちも放送の中で大王が時折漏らしていた“皇帝の姿”への言及が気になってはいた。だが──今となっては、それを振り返る余裕もなかった。


 ともかくもそこまで話すと、シーマは椅子から立ち上がった。


「……お前たちは、家で大人しくしていろ。おそらく、街には攻撃してこないはずだ」


「えっ……あなたは?」


「俺は、少し事情を探りに行く。……カプール侯の城へ向かう」


 驚いたエマが咄嗟に彼を止めようと手を伸ばしかけたが……シーマの足取りは速く、ためらう隙も与えなかった。慌ててその背を追い、酒場の外へ駆け出したものの……混乱の渦中にある街には逃げ惑う人々があふれ、見慣れたはずの通りも様相を変えている。どちらの方向に彼が消えてしまったのか、とうとう分からなくなってしまった。


 取り残された不安と焦燥を抱えながらも、エマとリュックは、仕方なく家へと帰るしかなかった。



 *



 そして──先の放送を、別の場所で聞いていた一人の若者もまた、その内容に強い衝撃を受けていた。だが、それはマリプレーシュの酒場にいた聴衆とは、別種の感情を伴うものであった。


「マジかよ……アイツ、どうして突然あんな……」


 しばし呆然としていた彼だったが、はっと何かを思い出したように、栗色の瞳を見開き──豪奢な長椅子から立ち上がる。金の装飾が施された放送機の前を離れ、廊下へと繋がる扉へ駆け出した。


「若様! どうなされたのです!? 今日の放送は絶対に聴き逃がせないと仰られていたのに……」


 扉の向こうで待機していた衛兵が、慌てて若者の行く手を塞ごうとする。だが、若者はその高貴な肩書きに似合わぬ荒々しい言葉遣いで、それを振り切った。


「放送はもう終わったんだよ! それどころじゃねえ、ちょっと出かけてくる!」


 ……意外にも、衛兵はそれ以上若君を止めようとはせず、ただ呆れたように眉をひそめただけだった。日頃からこの部屋を守っている彼は、この若君が先ほどのように無理に押し切って部屋を飛び出て行くのを毎日のように見ており、試みが無駄なのをよく知っている。若君が高貴な身分を持つがゆえに、“止めるふり”をしているにすぎないのだ。


 若君は知り尽くした構造の邸を、一直線に出口を目指して駆け抜ける。廊下や階段の至るところに衛兵が配置されていたが、先ほどの部屋を守っていた者と同様に、彼が勢いよく外へ飛び出していく姿を見ても、誰ひとりとしてそれを本気で止めようとはしなかった。


 若君自身も、彼らの存在を特に気に留める様子はない。──しかし、中庭の前を横切ろうとしたその時だった。白いベンチに腰かけていた一人の人物が、彼に視線を向けていることに気づく。


 彼はぴたりと足を止め、数歩だけ後ろ向きに戻ると、申し訳なさそうに手を合わせた。


「……悪りぃ。今回だけは、どうしても……」


 視線を向けていたその人物は、落ち着いた薄紅のドレスに身を包んだ、四十代前後の女性だった。小柄で、年齢を感じさせない可憐さを持つ彼女は、その目元を優しく細めると、無謀ともいえる若君の行動を、咎めることなく静かにうなずいて受け入れた。


「すぐ戻るから!」


 あまり深く考えずにそう言うと、若君はまた勢いよく玄関の方へと駆け出していった。そこにも衛兵が控えていたが、彼の姿を見るや否や、何も言わずに重厚な扉を開いた。


 ついに建物の外へ飛び出すと、若君は再び風を切るように走り出した。栗色の瞳よりもわずかに明るい、張りのある短髪が風に舞い、その奔放な気質を象徴するかのように乱れていくのも構わず──彼は、広大な庭園をひた走っていく。


 植え込みを跳び越え、街の裏手へと続く林に出ると、そこには彼にとって見慣れた顔ぶれが待っていた。


「レオ! やっぱり出てきたか!」


 声をかけてきたのは、数人の若者たちを率いる青年。彼に笑いかける。“若君”という肩書とは一見無縁そうに見える、派手な軽装に身を包んだ逞しい身体つきの若者だ。


「ジャン、オレを待ってたのか?」


 邸の若君──レオという愛称で呼ばれた青年は、驚きを隠せなかった。まさかジャンたち街の仲間が、今この時にここにいるとは思わなかったのだ。だがジャンの方は、彼が邸を抜け出す時はいつもこの道を通ると心得ていた。あの放送を町の酒場で耳にした直後、真っ先にこの場所へ駆けつけていたのだ。


「お前のことだから、じっとしてるわけがねえと思ってたんだよ」


 豪快に笑うジャンの後ろには、巨大な動物がいた。


「竜も用意しておいたぜ」


 言葉に応じて、小柄な竜使いの少年が、青く輝く鱗の竜を引いてくる。その手綱を、レオと呼ばれる若君の前へと差し出した。


「すまねえ、ほんと、おめえらには世話ンなってばっかりだな。近いうち、うまいモンでも奢るからよ!」


 気さくな調子で礼を述べると、彼は軽やかに、革の鞍を備えた竜の背へと飛び乗った。


「その台詞、何度聞いたかわからねえぞ。一体いつになったらうまいもん食えるんだよ! ……っと、忘れもん!」


 ジャンはそう言うと、彼に何か長いものを投げ渡した。それは、重厚な装飾と豪華な紋章があしらわれた鞘に収められた、美しく滑らかな曲線を描く剣だった。


「ありがとよ! ……こないだ、うっかり忘れて帰っちまったんだっけな」


「それ預かってる間、気が気じゃなかったぜ。そんな大事なもん、平気で忘れんの、お前くらいだろ……さあ、早く行ってこい!」


 ジャンが手を振ると、青い竜は甲高く鳴き、翼を大きく広げて地面を蹴り上げた。鞍上の若君は、見送る仲間たちへ力強く手を振り返し、すぐさま視線を空の彼方へと向ける。


「マリプレーシュまで……丸一日ってとこか。途中で一度竜を休ませたら……間に合うか……?」


 表情を険しくしながら呟くと、彼は一刻も早く辿り着くべく、竜の尻を勢いよく叩いた。



 *



 家の異変に気づいたのは、エマとリュックの姉弟が帰宅してすぐのことだった。兄──アルテュールの姿が、見当たらなかったのである。


「兄さんが……」


 今にも泣きそうな顔で姉を見つめるリュックに、エマは静かに、けれども優しく言葉をかけた。


「これからしばらく家に籠らなきゃいけないから、きっと買い出しに行ったのよ。帰ってくるまで、待っていましょ」


 アルテュールは足が悪く、普段は車椅子を使っていた。十四年前──街の中心で起きた、大王国支配に抗議する過激派の暴動。それは、アルテュールから両親だけでなく、歩く自由さえも奪っていった。


 そんな彼が、遠くまで出かけるとは考えにくい。エマの言葉は、弟を安心させるためであり……同時に、彼女自身への言い聞かせでもあった。


(シーマだって、無茶はしないはず。きっと大丈夫……何も、心配することなんてないわ)


 自らを落ち着かせるために、彼女は奥の部屋に飾られた両親の写真に、そっと手を合わせて祈った。それから台所へ戻り、兄の帰りを信じて、弟とともに夕食の準備を始めた。


 しかし、姉弟にとって……いや、この街のすべての市民にとっても、眠れぬ夜が明けたというのに、アルテュールの姿はまだなかった。明け方になってやっと寝息をたて始めた弟を起こさぬように、エマはそっと身を起こし、玄関を出た。


 ちょうど隣家の婦人が郵便受けから新聞を取り出し、血眼になって新しい情報を探していた。エマは急いで声をかけ、アルテュールを見かけなかったかと尋ねる。


「知らなかったの? あの後すぐよ。放送の直後に、街の若者たちだけで抗議活動隊が結成されたの。アルテュールもそれに加わって城へ向かったんじゃないかしら」


「お城……!?」


 思わぬ答えに、エマは驚きの声を漏らす。婦人は哀れむような視線を向けながら、続けた。


「ええ……みんな、領主のカプール様じゃマリプレーシュを守れないって思ってるのよ。ほら、大きな声では言えないけど……普段遊んでばっかりいるお方でしょ。だからせめてこんな時くらい、ちゃんと市民を守ってくれって」


 婦人は頬に手を当てて、ため息を挟む。


「アルテュールも正義感が強い子だからね、自分も何かしなきゃって思ったんじゃない? せめて、あんたたちに一言くらい言ってから行けばいいのに……」


 彼女の長い話を、最後まで聞く余裕は今のエマにはなかった。夕刻には、マリプレーシュ城が攻撃されるかもしれない。なのに、アルテュールは──あの身体で、車椅子ひとつで、そこへ向かったというのか。


 エマの留守中に目を覚まし、姉までもがと絶望しかけていたリュックは、玄関から慌てて駆け込んできた彼女の姿を見た瞬間、ほっと胸を撫で下ろした。そして同時に……その表情から、おおよその状況を把握することができた。


 姉弟は、身支度に気を回す暇もないまま、すぐさま家を飛び出し、城へと駆けていった。──勿論、命を賭して領主カプールに抗議するつもりなど、さらさらない。ただ、親代わりに彼らを育ててくれた、年の離れた兄を助けたい。その一心だけが、ふたりの足を動かしていたのだった。




 グランフェルテ皇帝が宣告した攻撃開始の時刻が迫っても、カプール侯はなお沈黙を貫いたままだった。そのマリプレーシュ城──民からは皮肉を込めて「税金屋敷」と呼ばれる城の前には、怒れる抗議者や荒くれ者たちが押し寄せ、場は混沌とした様相を呈していた。


「カプールを出せ! 俺たちを守れ!!」


「どうして大王国は、帝国の要求を飲まない!? 剣を渡すだけじゃないかっ!」


「世界最強の大王国なら、グランフェルテなんざとっくに抑え込めてるはずだろうがよ!!」


 城門を守る兵士たちは、普段であれば反乱分子など軽く制圧できるはずだった。だが、この群衆の数では手も足も出ない。ましてや、グランフェルテが本当に攻めてくるかどうかも分からぬこの状況では、そちらに備える余裕などあるはずもなかった。


「どうせ死ぬのなら」と開き直った市民たちは、まるで日々の鬱憤を爆発させるかのように、暴れ狂っていた。兵士たちはひと晩中、交代で休む暇もなく鎮圧に奔走していた。……放送直後に危険を察して城から逃げ出した悪賢い兵士たちも多く、今なお侯爵に忠誠を誓うわずかな兵たちだけが、この修羅場を支え続けていたのだった。


 そんな正門の大騒ぎをよそに……マリプレーシュ城をぐるりと囲む水路の、茂みに覆われた裏手の細い橋──市民には知られていない秘密の出口には、一台の馬車が控えていた。


 ……やがて、丸くて小さな身体を絢爛な衣装に包み込んだ、いかにも腹黒そうな顔つきの老人が、兵に促されて城からひっそりと姿を現す。厳重に隠されてきたこの裏門が、ついに役立つ時が来た──そう考えた彼の逃亡劇は、あっさりと成功する……はずだった。


「卑怯だな。裏口から逃げるとは」


 突如響いた声に、老人……マリプレーシュ侯カプールは、その丸い身体をびくりと竦ませた。声の主にしてみれば、別段脅すつもりなどなく、ただ彼の数少ない女友達に話しかけるのと同じ調子で声を掛けただけなのだが。


「さすがは悪名高い、マリプレーシュ侯爵様だな」


 裏口脇の柱飾りに腰かけていたシーマは、昨日あの酒場で磨き上げたばかりの愛剣を抜き放つと、慌てて構えた衛兵ふたりに飛びかかり、その柄であっという間に蹴散らした。そして、目を白黒させるカプールに詰め寄る。


「俺は、抗議隊でも正義の味方でもない。ただ……あの『神器』には興味がある。貴様が帝国の標的にされたのには、何か理由があるはずだろう?」


「しっ、知る訳ないじゃろ!」カプールは顔を真っ赤に染めて怒鳴り返した。「そんな物のことなど、わしの知ったことではない! あれは、エクラヴワ大王陛下の物だっ!! わしには……関係ないっ!!」


 その大声が命取りだった。


「いたぞ、カプールだ!!」


 裏まで回り始めていた抗議隊の一人が、ついに侯爵を見つけてしまった。


「ど……どけっ!!」


 カプールはシーマを押しのけ、老人とは思えない勢いでくるりと方向を変えると、馬車とは反対側の茂みへと逃げ出した。……だが、それもまた失敗に終わる。


 彼の前に立ち塞がっていたのは、抗議の若者たちではなかった。


 鍛え上げられた体躯に、見慣れぬ白を基調とした洗練された戦闘服──この辺りでは見かけない装いの男たちだった。問いかけるまでもなく、彼らは自らの素性を明かす。


「マリプレーシュ候カプールだな。我々は……グランフェルテ帝国の者だ」


 ……カプールは、もはや抵抗は無意味と悟ったのか、急に大人しくなった。その異国の兵の一人がちらと、逃亡用に用意された馬車と、周囲で気絶している衛兵たちを見やり、皮肉を漏らす。


「一国の主が、こんな見え透いた子供じみた真似を。主君の帰還を信じて待つこともできぬとは。エクラヴワ大王というのは、所詮信頼に足らぬ男なのか?」


 帝国兵たちの間からどっと笑いが起こる。つい一昨日まで“ただの小国”、それも「大王国の忠犬」と揶揄されていた彼らが放つ、想像を超えた余裕と威圧感。その空気に、咄嗟に再び柱の陰へと身を潜めたシーマも、不覚にも圧倒されていた。


 しかしふと冷静に、彼らの唐突な出現の意味を考えた時──はたと、重大な事実に思い至る。


「くっ、時間か…!」


 城の塔に掲げられた時計の針が、定刻を指した。


 ──建物の中心で、爆音が轟く。


 正門前で熱気を帯びていた抗議隊の若者たちの顔色が、みるみる青ざめていく。


「じ……時間だ……」


「帝国の攻撃だ……本当に、やりやがった!!」


 ……彼らの多くはあの宣言を、通信という非現実の世界で語られた、得体の知れぬ誰かの妄言だと、どこか軽んじていたのだ。覚悟を決めて来たはずだったが、幻が現実へと姿を変えた瞬間、恐怖に駆られた彼らは城門から一斉に散っていった。


 だが、そのなかでも、本当に勇気ある一部の若者たちはなおも踏みとどまり、抗議の矛先をグランフェルテ帝国兵へと向ける。


「おいっ! てめえら……突然やってきやがって!! 一体、どういうつもりだっ!?」


 対峙する帝国兵たちは、背や腰に携えた武器さえも抜こうとせず、冷淡とすら言える沈着さを崩さなかった。──混乱を極めるマリプレーシュ城の兵士たちとは、あまりにも対照的なその姿で。


「我々は、基本的に一般市民には手を下さない。ただし──行き過ぎた行動を取れば、適切に対処せざるを得ない。……理解しているな?」


 その揺るがぬ余裕は、自分たちの主たる皇帝に対する、絶対的な信頼から生まれるものなのか。対抗しようとした若者たちは、その気迫に完全に圧倒されていた。歯を食いしばったまま、ひとつの歩みも踏み出せず……まるで蛇に睨まれた蛙のように、その場に硬直していた。


 その時。


 頭上に、低く唸るような機械音が響き始めた。一斉に首を上げた抗議隊の若者達が目にしたのは、大きな空飛ぶ船──飛翔船だった。


 だがそれは、彼らが時折目にするエクラヴワ大王国の……獅子と竜が向き合う紋章の入った、あの重厚な臙脂の船とはまったく異なる。戦場へ赴く威圧とは対極にある、まるで神話の中から抜け出たかのような──幻想的で華麗な、純白の船。


 帝国兵の一人が、それを見上げて静かに呟いた。


「──皇帝陛下が、いらしたようだな」


 白銀の飛翔船は、爆音を余韻に変えながら空を裂き、マリプレーシュの上空へと悠然と姿を現す。


 その異様な光景に、誰もが息を呑んだ。それは、ただの“到着”ではない。


 帝国という名の絶対的支配が、この地に降り立った瞬間だった。

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