表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生を垢抜けさせたら美少女になって懐かれました  作者: おなきく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/18

第9話 痕跡器官じゃないんですけど

「ど、どうですか……?」


 僕が唐揚げをひとつ摘まんで口へ運んだ瞬間、水田(みずた)さんがそう訊ねてきた。

 まだ噛んですらいないのに。

 不安と期待の入り混じった目で見上げられては、黙っているわけにもいかなかった。


「美味しいです。味付けもちょうどいいですし」

「そ、そうですか……。お母さんのと比べると、どうですか……?」

「え?」


 いや、さすがにこっちから比べるのは失礼じゃないか?

 そう思って躊躇していると、水田さんががっくりと肩を落とした。


「やっぱり初めてだから微妙ですよね。お母さんのは見た目だけはまだマシですけど、私のは見た目もイマイチですし……」

「いえいえいえ。水田さんの方が美味しいですよ。お世辞じゃなくて本当に。正直、その……お母さんの料理は、健康的すぎるというか、ちょっと口に合わなかったんです」

「そ、そうですか……? やっぱりお母さんのってまずいですよね!? よかった、お母さんの料理以下だと思われたら、今日一日中泣いちゃうところでしたぁ……」


 いや、なんで自分の母親相手にマウントを取るんだ。

 それとも、ずっとあの薄味料理を食べさせられてきた反動だろうか。

 それにしても、初めてでこれなら、水田さんは意外と料理の才能があるのかもしれない。


 弁当をきれいに平らげたあと、僕は本題を切り出した。


「水田さん、パソコンのことなんですけど」

「はい、なんとかして30万円用意してきますぅ……」


 いや、そんな言い方をされたら、僕がカツアゲしてるみたいじゃないか。


「バイトそのものに反対はしませんけど、そもそも、どうしてあのゲームをメインにしているんですか?」

「え? オーペックスのことですか?」

「はい。オーペックスが好きなんですか?」

「いえ、別に……。ただ人気があるからやってるだけですけど……?」

「え? そうなんですか?」

「はいぃ……。配信って、人気のあるゲームを中心にやるべきなんじゃないですか……?」


 つまり、別に好きでもないのに、みんながやってるから自分も、ってことか。

 それを一年以上も。

 ある意味、根性だけは本物だ。


「じゃあ、別にオーペックスが大好きで、専門配信者を目指しているわけじゃないんですね?」

「はい、ゲームは好きですけど」

「……じゃあ、とりあえずオーペックスはやめましょうか」

「え? ど、どうしてですかぁ……? 人気のあるゲームをやった方が、そのゲームに興味のある人が来てくれるんじゃないんですか……?」


 僕は思わず額に手を当てた。

 もちろん、水田さんの言うことも一理ある。

 うまくハマれば、新規のリスナーを一気に呼び込むこともできる。

 問題は――


「競争が激しいんです。オーペックスの配信者は多すぎる。だから埋もれないための売りが必要なんです。水田さん、何かありますか?」


 ランカーだとか、誰も思いつかないような奇抜なプレイをするとか。


「え、えっと……。可愛いアバターとか……?」

「……いや、まあ可愛いですけど」


 なんと言えば水田さんが傷つかずに済むだろうか。

 できるだけオブラートに包んで言うことにした。


「VTuberのアバターって、基本的にみんな可愛いじゃないですか」


 そう、外見の武器はもう出尽くしている。

 今やケモミミすら見飽きられている時代で、美形キャラのバリエーションには限りがある。


「た、確かにそうですね……。でも私のアバター、他の人より劣ってるとか、そういうことはないですよね……?」

「はい、十分に可愛いです。デザインもいいと思いますよ」

「へへ……。やっぱり女の子はピンク髪が可愛いですよね。そう思いませんか?」

「あ、はい……」


 いきなり話題が飛んだな。


「とにかく、水田さんの配信を少し拝見しましたけど、オーペックスの配信としては、そこまで特別という印象は受けませんでした」

「そ、そうですか……」

「はい。可もなく不可もなく、というか」


 逆に絶望的に下手なら、そこを切り抜いて笑いに変えることもできる。

 けれど、水田さんの場合はそうでもない。

 配信って、結局目立つ要素が要る。

 今の水田さんの配信には、これといった強みがほとんどない。


「私、やっぱり才能がないんでしょうかぁ……」


 水田さんがまた、がっくりと肩を落とした。

 しまった、少しキツく言いすぎたか。


「いえ、水田さんには十分に才能がありますよ」

「え? そ、そうですか?」

「今、一年以上もほぼ毎日、コツコツ配信してるじゃないですか」

「はい、本当に調子がいい日で同接5人くらい、普段は1人か2人来るか来ないかですけど……」


 この前、僕がコメントしに行った日は、かなり人が多いほうだったんだな。

 そう考えると、邪魔をしてしまって少し申し訳ない気がした。

 いや、でもあのときは、さすがにうるさすぎたし。


「同接が一桁だと、コメントもほとんど流れない。そうなると、リスナーと交流する場としては機能しにくいんですよ」

「それはそうですねぇ……。本当に、たまーに流れるくらいです。急にチャット欄が動いて、嬉しい!って思って見たら、スパムだったり、とんでもない暴言だったりして……がっかりしたことも多いですし……」

「でも水田さんは喋り続けてるじゃないですか。それ、ものすごい強みですよ」

「え、そ、そうですか?」

「はい。いわゆる壁打ち状態ですけど、これって普通はなかなかできないんですよ」


 一年どころか、三年以上もほとんど一人で喋り続けていた配信者だっている。

 もちろん、今の水田さんの喋り方に改善すべき点がないわけじゃない。

 それでも、沈黙を作るまいと必死に言葉をつなぐ姿勢は、大きな武器になるはずだ。


「だから水田さんにはVTuberとしての才能があります。そんなに落ち込まないでください」

「は、はいぃ……! へへ、お母さんにいつもあんたは大人しくゲームできないのって怒られてましたけど、それが才能だったんですね」

「まあ、独り言と配信用のトークは別物ですけどね。今の水田さんは、まだほとんど独り言レベルですし」

小町(こまち)さん、私のこと持ち上げたり落としたりするの、激しすぎませんかぁ……?」


 どうやら今の水田さんは、自分の配信を細かく見返したりはしていないようだった。

 まあ、学業と並行してほぼ毎日配信しているなら、無理もない。


「ですから、今の水田さんのオーペックス配信は、完全にやめるんじゃなくて頻度を落としましょう」

「じゃあオーペックス以外に何をやればいいんですか……?」

「そうですね。何か特技があればいいんですけど」


 将来的に手を広げるにしても、最初はターゲットを絞ったほうがいい。


「ゲーム……? 私、雑食なので、大抵のジャンルはいけますよ。クソゲーもやりますし、エロゲーもやります」

「うーん……とりあえずエロゲーは置いといて、候補には入れておきましょう。他には? 些細なことでもいいので何でも。特技とまではいかなくても、普段から興味があることとか」

「きょ、興味があることなら……。ロリータファッションとか? 黒を基調にした……」

「あ、やっぱり黒が好きなんですね」

「ち、違いますっ!? い、今のは、つい口が滑っただけですからね!?」


 やはり黒好きの中二病キャラも、ギャップとしては十分に使えるだろう。

 本人が必死に隠そうとしているなら、なおさらだ。


「そういえば、水田さんはどうしてVTuberになろうと思ったんですか?」


 急に特技や興味のあることを挙げろと言われても、そう簡単には思いつかないものだ。

 だから、一度インタビュー形式に切り替えてみた。

 まあ、正直僕の個人的な好奇心も混ざっていた。

 この前水田さんの部屋に入った時、VTuber関連のグッズは一つも見当たらなかったからだ。


「そ、それが実は……ゲームをやっているうちに、私もああなりたいって思うようになったというか……」

「ゲームですか?」

「は、はいぃ……。その……プレイヤーが恋人兼プロデューサーとして、配信者の女の子を育てるゲームがあるじゃないですか」

「……まさか、天使をコンセプトにしたメンヘラの女の子が出てくる、あのゲームのことですか」

「はいぃ……! やっぱり知っているんですね」


 つまり、あのメンヘラ天使に憧れてVTuberを始めたってことか。

 僕は思わず、くらっとした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ