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僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生を垢抜けさせたら美少女になって懐かれました  作者: おなきく


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第10話 方向性の違い

 水田(みずた)さんがVTuberを始めたというとんでもない動機に呆気にとられていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


「とにかく水田さん、宿題と言うには大げさですが、一度自己紹介配信をするつもりで準備してきてもらえますか」

「じゅ、準備ですか……?」

「はい。自分について思いつくことを、全部書き出す感覚で。好きな食べ物とかでもいいですよ」

「は、はいぃ……。とりあえず、オーペックス以外に何をすればいいんでしょうか……?」

「まあ、他のゲームでもいいですし、歌でも構いません。心理テストやお絵かきなんかも、試してみる価値はありますよ」


 水田さんはコクコクと頷きながら、スマホに素早くメモを打ち込んだ。

 まあ、動機はかなり危ういが、情熱だけは本物だ。

 それに最近は動機なんて関係なく、VTuberに挑戦する人も増えているし。


「多分ですけど、水田さんって他のVTuberの配信、あまり見ないタイプですよね?」

「うっ……。は、はいぃ……。私だって、それが良くないってことは分かってるんですけど……」

「VTuberの配信ばかり見ろって話じゃないです。インプットやアイデアは、むしろ別のメディアから拾えることも多いですから。ただ、今のVTuber界隈がどう動いているかは、自分の目で確かめておいた方がいいですよ」

「はい、分かってますぅ……」


 今はこれくらいで十分だろう。

 本当に大事なのは、リスナーとして何を面白いと感じるか。まず、それを自分で知ることだ。

 そこを理解してもらえなければ、僕がどれだけ言葉を重ねても、根っこの部分は何も変わらない。


「ち、ちなみに小町(こまち)さんのおすすめのVTuberっていますか?」

「うーん……」


 以前なら、ここで迷わずテルコ――結衣(ゆえ)を勧めていただろう。

 しかし、今はもうそれができない。

 僕は海外にも展開している国内大手二社の名前を挙げた。


「その二つなら、私も聞いたことあります……!」

「はい、大手がどんな風にやっているのかも見ておいた方がいいですよ」


 もちろん、どちらも超大手の企業勢だ。

 リスナーの規模が桁違いだから、そのまま真似するのは難しい。

 だが、売れる配信とはどういうものかを知るには、うってつけだろう。


 水田さんは小さく拳を握りしめ、気合を込めるように言った。


「こ、小町さんが出してくれた宿題、全部やり遂げます……!」



 ◇◇



 放課後。

 相澤(あいざわ)結衣は、スマホの画面を睨みつけながら下駄箱へと向かっていた。


(どうしてチャンネルの伸びがさらに鈍ってしまったの……?)


 (たすく)を切った後、結衣は例の男性VTuber――ソウシを、正式にプロデューサーとして迎え入れた。

 彼の取り分は四割で、翼の時の四倍に跳ね上がった。


 結衣はソウシに言われた通り、彼の提案をすべて忠実に実践した。

 彼が指摘したのは、テルコとしての活動の幅もターゲット層も、どちらも狭すぎるという点だった。


(方向性は絶対に間違っていないはずなのに)


 結衣は清楚な声質と、並外れた歌唱力を兼ね備えていた。

 翼はそこに目をつけ、昭和アイドルというコンセプトを打ち出した。

 折しも世は空前のレトロブーム。

 国内のみならず海外でも、テルコのカバー曲は大きくバズった。


(まぐれをいつまでも続けられるわけじゃない)


 ソウシもそこを指摘していた。

 結局、一過性のブーム頼みでは限界がある、と。


 だから結衣は翼の方針とは一線を画し、次々と新しい試みを打ち出していった。

 その一つが、プロデュース契約を結ぶ前から彼に勧められていた露出度の高い新衣装だった。


(もともと、路線を少し変えれば離れる人は出てくるもの。仕方ないのよ、うん)


 テルコのチャンネルは、女性リスナーの割合が約四割、多い時には五割に達することもあった。

 しかし結衣は、ソウシが推薦したイラストレーターに依頼し、露出度の高い新衣装をお披露目した。

 歌枠も昭和セトリ中心の構成を一新し、さらにオーペックスをはじめとするゲーム配信の割合を大幅に増やした。

 その結果、女性リスナーの離脱は急速に進んだ。


(離れた分だけ、男性リスナーが新しく入ってくるはずよ)


 ソウシが間違っているはずがない。

 少なくとも、翼よりはマシなはずだ。

 そう自分に言い聞かせ、スマホから目を離さず歩いていると――


 トン。


 すれ違った誰かと軽く肩がぶつかった。

 結衣はすぐに「あ、すみません」と小さく頭を下げた。


「おやおや、結衣ちゃんじゃないか」

「え? あ、部長?」

「なんだか久しぶりな気がするね?」

「あ、はは……。そうですね」


 声の主は、翼の勧めで結衣も幽霊部員として籍だけ置いている現視研の部長だった。

 相変わらず、部長の胸はデカい。

 数ある部活の中から翼が現視研を選んだのも、やっぱりこの胸目当てだったのだろう。

 結衣は昔からずっとそう思っていた。


「聞いたよ、結衣ちゃん、小町くんを振ったんだって?」

「ええまあ、そうですね。あんなキモオタと今まで一緒にいたなんて、本当に鳥肌が立ちます」

「ふーん……。私は、結衣ちゃんも小町くんのことが好きなんだと思ってたけど、全然違ったみたいだね」

「え? そんなわけないじゃないですか。ただの幼馴染だったんですよ」


 今まで翼をそばに置いていたのは、彼が無害な男だとずっと信じてきたからだ。

 恋愛対象としては全く見ていなかった。

 なのに自分をそんな目で見ていたと知り、結衣は裏切られたような気持ちになった。


「そうか。まあ、それが結衣ちゃんの本心なら、ある意味予定調和だったのかもしれないね」

「え? どういうことですか?」

「君たちはうまく隠しているつもりかもしれないけど、私は気づいてたんだよね。君たちのテルコちゃんのこと。声が似すぎだし、隠そうとしてる感じがバレバレだったからさ〜」

「……!」


 結衣は眉をひそめ、鞄の持ち手をぎゅっと握りしめた。

 すると部長は首を横に振って言葉を続けた。


「まあまあ、別に言いふらすつもりはないよ。ただ、私としては何て言うか。そう、ネット小説の追放ものを見てる気分っていうか?」

「何言ってるのか意味不明なんですけど。それにバラしたら訴えますからね」

「おや、怖いね。絶対しないから。じっちゃんの名にかけて」

「それと、私のテルコですから。そこ、勘違いしないでくださいね」


 部長が小さく鼻で笑った。


「とにかく結衣ちゃん、この世には取り返しがつかないこともたくさんあるから。特に人間関係はね」


 まるで翼を切ったことを間違いだと言わんばかりの物言いに、結衣の苛立ちは募った。

 何も知らないくせに勝手なことを言って。

 ただ運が良かっただけのあいつに、プロデューサーとしての価値なんてあるはずがない。

 そう、ソウシが言った通り、素人が自分の手柄だと勘違いして、調子に乗っていただけなのだ。


 部長は小さく手を振って、下駄箱の方へと歩き出した。


「くれぐれも後悔だけはしないようにね〜」

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