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僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生を垢抜けさせたら美少女になって懐かれました  作者: おなきく


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第6話 微妙な味の弁当

 水田(みずた)さんの言ってることが、よくわからなかった。

 僕のアドバイス通り新しいダイナミックマイクを買ったらしい。それは分かる。

 思ったより高かったらしい。それもまあ、分かる。

 だが、どういう理屈で僕が水田さんの家に行かなければならないんだ?


「あの、水田さん」

「は、はいぃ……?」

「その……誘ってくれるのは嬉しいですけど、どうしてわざわざ僕を水田さんの家に……?」


 新しいマイクを自慢したいわけでもないだろうし。


「あ、す、すみません! その、実は……。ま、前にも言ったじゃないですか。自分の機材のこと、さっぱりわからないって」

「はい」

「そ、それで厚かましいとは思うんですけど、その……」


 水田さんはうつむいたまま、指先をいじりながら言葉を継いだ。


「マイクの接続とかセッティングを、少し手伝っていただけないかなって……」


 セッティングといっても、今のマイクのケーブルを抜いて新しいのに繋ぎ変えるだけのはずだ。

 もちろんファンタム電源には気をつけないといけないけど。

 いや、それすら分からないのが初心者か。

 ……オーディオインターフェースがあるのに、USB接続のものを買ってたりしないだろうな。


「一応言っておきますけど、僕も専門家ってわけじゃないですよ?」

「も、もちろんわかってます! でも私、ダイナミックマイクを買っただけで前借りしたお金、全部使っちゃって……出張してくれる業者さんを呼ぶお金なんて、一円もないんですぅ……」


 いや、僕は業者扱いかよ。


「も、もちろんタダでやってもらおうなんて言いません! 小町(こまち)さん、まだお昼食べてないですよね?」

「ええ、まあ」

「ちょっと待っててくださいぃ……!」


 水田さんが急に立ち上がり、慌てて部室を飛び出していった。

 え、何だ。

 僕がぽかんとしていると、数分も経たないうちに彼女は息を切らして戻ってきた。


「こ、これ、どうぞ……」


 水田さんは弁当袋をぎゅっと握りしめていた。

 え、まさか。

 水田さんの手作り弁当なのか?

 僕にもこんなラブコメ展開が来たのか?


 僕が目を丸くしていると、彼女は弁当袋を差し出したまま言葉を続けた。


「へへ……お母さんにお願いしたんです。小町さんの分も作って、って」

「……」


 ああ、やっぱりそうか。

 変な期待をした僕が悪かった。

 反省しよう。


「じゃあ、いただきます。パンがあんなにおいしいんだから、お弁当も楽しみです」

「えっ……」

「え?」


 なんだその微妙な反応は?


「その……私がお礼のつもりで渡しておいてこんなこと言うのもアレなんですけど……」


 水田さんは僕の顔色を窺うように、ちらちらとこちらを見てくる。


「うちのお母さん、パンは本当に美味しいんですけど、料理のほうはイマイチなんです。だからあんまり期待されても困るっていうか……」

「あ、はい……」


 水田さん、自分のお母さんのことになると容赦ないな。


 とはいえ、誰かに作ってもらった手料理なんて久しぶりだ。

 期待を完全に捨てることはできなかった。

 弁当箱の蓋を開けると、見た目はなかなかおいしそうだった。


「あ、箸」

「も、持ってきました」


 水田さんがバッグから、おずおずと箸を取り出した。


「わ、私が普段使ってるやつですけど、きれいに洗ったから、か、間接キスとか全然、ちっとも気にしなくていいですよ……!」


 いや、そう言われると逆に意識しちゃうんだけど。

 とにかく、ここで気にしたら負けだ。

 僕は箸を受け取り、一口食べた。


 とりあえず、食感はいい。

 肝心の味は……。


「こ、小町さん、無理して食べなくてもいいですよ。やっぱり味、微妙ですよね……?」

「あ、いえ。うーん……味付け、かなり薄めですね。健康的っていうか」


 何というか……味がない、とでも言うべきか。

 まずいというより、無味に等しかった。

 わざとこう作っているのか、それとも全く味見をしていないのか。


「や、やっぱり次からは私が作ってきましょうか……?」

「え? 次ですか?」

「は、はいぃ……。も、もしかして迷惑ですか……? そうですよね。私みたいな、美少女でもない陰キャ女子が手作り弁当なんて、気持ち悪いですよね……」

「いやいや、そういう意味じゃなくて」


 急にぶつぶつと呟きながら沈み込んでいくので、僕は慌てて口を挟んだ。


「これからも僕に弁当を用意してくれるつもりなのかと思って」

「VTuberのことで色々教えてくれるなら、お弁当くらい、いくらでも……」


 思っていた以上に、VTuberに本気なのかもしれない。

 僕のアドバイスを聞いて、すぐにマイクを買い替えたくらいだし。

 ただ、正直結衣(ゆえ)にもクビにされた僕が、この先も役に立てるかは分からない。


「分かりました。僕に手伝えることなら手伝いますよ」

「あ、ありがとうございます……!」


 実際のところ、僕にできることは限られている。

 それでも水田さんの嬉しそうな顔を見ると、思わず微笑んでしまった。



 ◇



 放課後、鞄を手に水田さんの席へ向かった。


「じゃあ、帰りましょうか」

「あ、は、はいぃ……」


 水田さんも席を立ち、僕と一緒に教室を出た。

 すると、廊下で電話をしていた山本(やまもと)が、僕たちを見て目を丸くした。


「あ、悪い。後で連絡するわ」


 電話の相手はやっぱり彼女だったんだろうか。

 それより、同じ学校にいるのに、どうしてわざわざ電話を?

 まさか、また知らないうちに彼女が変わったんじゃないだろうな。


 山本が僕たちの方に近づいてきて、ニヤニヤと笑った。


「お、何だよ。小町、お前やるじゃん」

「何が『やるじゃん』だよ。変な勘違いするな」


 現視研の部長といい、どうしてみんなそういう方向にしか考えないんだろう。


 山本は水田さんの方を向いて言った。


「こいつ、何だかんだいい奴だからよろしくな」

「何言ってんだよ」


 それに何だかんだって、せめて一つくらい具体例を挙げろよ。


 水田さんは緊張した様子で、返事の代わりにこくこくと頷くだけだった。

 山本は「じゃあな〜」と手を振って、すぐに歩き去っていった。


「まったく、あいつ……。おせっかいなんだから。ごめんなさい、水田さん。びっくりしましたよね?」

「い、いえ……」


 水田さんが指先をもじもじさせながら顔を赤らめていた。

 ああ、そういうことか。

 考えてみれば水田さん、あいつのことは知ってたしな。


「山本の奴、本当にイケメンですよね。そう思いませんか?」

「え? そ、それはそうですけど……」

「でしょ? 僕から山本に、うまく話を通しておきましょうか?」

「な、何を……?」

「水田さんが山本の奴とくっつくように」

「え、ええええ……!?」


 水田さんは両腕を僕の方へまっすぐ伸ばし、ぶんぶんと振った。


「わ、私、別にあの人のこと好きじゃないです……!! そ、そりゃあイケメンですけど、私みたいな陰キャが釣り合うなんて思ってませんしぃ……!!」

「そんなことないですよ。水田さん、素材はいいんですから」

「え? そ、そうですか……? で、でも私なんてやっぱり……」


 そこまでガッツリ気負わなくてもいい。

 メイクや髪型を少し整えるだけで、印象は見違えるほど変わるはずなのに。

 まあ、強要はできないけど。

 それはそうと、やっぱり水田さん、山本に一目惚れしたみたいだな。


「まあ、ゆっくり考えてみてください。せっかく僕が山本の友達なんですし、うまく使ったほうがいいですよ?」

「だ、だからそういうのじゃないですってば……」


 水田さんの家へ向かう道すがら、僕たちはとりとめのない話を交わした。


「じゃあ、家が火事になったのがきっかけで転校してきたんですか?」

「はいぃ……。あの時はまだ、内緒でVTuberをやっていたんですよ。その日も夜中にこっそり配信してたんですけど、偶然、火が出ていることに気づいたんです」


 危うく死にかけだったわけか。

 水田さんも波瀾万丈な人生を送ってるな。


「色々と大変だったんですね」

「で、でもそれからはちゃんとお母さんとお父さんに許可をもらって、VTuber活動できるようになったので。結果オーライって感じでしょうか」

「え? そうなんですか?」

「はいぃ……。隠しきれなくなっちゃいましたし。なにより、わ、私がVTuberをしていたから、夜中に命拾いできたわけじゃないですか」


 確かにそんな理屈を持ち出されたら、ご両親も反対しづらいだろう。

 そもそも止めたところで、水田さんが聞く耳を持つはずもないし。


 とりとめなく話しているうちに、いつの間にか僕の家の隣――水田家の前に着いていた。

 彼女が玄関のドアを開けてくれたので、僕はそのまま中へ入った。


「あ、あの……」

「はい?」


 すると、水田さんがなぜか顔を真っ赤にして、もじもじと身をよじった。


「ふ、ふたりきりだからって、へ、変なことされたら、その……。もちろん私は小町さんに抵抗なんてできませんけど……ら、乱暴にはしないでくださいね……」


 なんで今、それをわざわざ口に出すんだ?

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